第13回循環器基礎研究会

 

日 時:平成14年3月2日(土) 14:30〜18:00

場 所:ホテルサンガーデン千葉 「天平の間」

千葉市中央区中央1-11-1  TEL043-224-1311

 

 

 当番世話人 

桑木共之 (千葉大学・院医・分子統合生理学)

 河野陽一、寺井 勝 (千葉大学・院医・小児病態学)

 

共催

循環器基礎研究会

協和醗酵工業株式会社

 

 

 

開会の辞 千葉大学大学院医学研究院 分子統合生理学 桑木共之 

 

一般演題(14:30〜15:50)

 

座長 千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学 小室一成

 

(1)防衛反射におけるオレキシン神経の役割

萱場祐司、福田康一郎、小室一成、柳沢正史、桑木共之

千葉大学大学院 医学研究院 自律機能生理学、循環病態医科学、分子統合生理学、

テキサス大学 分子遺伝学

 

【目的】外側視床下部の脳弓周囲の刺激は、血圧・心拍数・呼吸数の上昇と脳波上の覚醒という防衛反射を惹起するが、その出力経路の神経伝達物質は不明である。オレキシン含有神経の形態、およびオレキシンを外来性に脳内投与した実験結果は、この神経が防衛反射出力系の一部を担う可能性を強く示唆する。内在性のオレキシンに関して、この仮説を検証した。

【方法と成績】ウレタン麻酔下にマウスの血圧、呼吸、脳波を記録した。電気刺激によって最大の循環呼吸反応を惹起する部位を野生型マウスで検索したところ、脳弓周囲に一致していた。同部位をGABA-A拮抗薬であるビキュキュリンの微量注入によって活性化したところ、循環・呼吸の亢進と脳波の速波化が観察された。これらの反応の強度は、オレキシン欠損マウスで減弱していた。血圧の基礎値も低値であった。

【結論】オレキシンは防衛反射出力系路の神経伝達物質であり、基礎血圧の決定因子の一つでもある。

 

(2)アドレノメジュリン欠損マウスにおける高張食塩水中枢投与による血圧上昇の増強

藤田恵、下澤達雄、安東克之、福田康一郎、藤田敏郎、桑木共之

千葉大学大学院 医学研究院 自律機能生理学、分子統合生理学、東京大学大学院 医学系研究科 腎臓・内分泌内科学

 

【目的】アドレノメジュリン(AM)は血管拡張作用を有する生理活性ペプチドであり、中枢神経系にも存在する。AMの中枢投与が血圧に影響を及ぼすことが知られており、我々はAMノックアウトマウスを用い、心血管系に対する中枢調節における内因性AMの役割を探ることを目的とした。

【方法】イソフルレン吸入麻酔下に、AM欠損マウス、または野性型マウスの大腿動脈と側脳室内にカテーテル導入した。麻酔からの覚醒を待った後、高張食塩水(0.3〜1.5 M NaCl)を側脳室に投与し、血圧・心拍数の変化を測定した。

【成績】食塩の中枢投与により、AM欠損マウス、野性型マウスのいずれの血圧も上昇したが、AM欠損マウスにおいて、より著明な血圧上昇が認められた。

【結論】中枢神経系における内因性AMは、体液調節系に関与し、食塩感受性高血圧を抑制する可能性が考えられる。

 

(3)接触皮膚炎におけるp38MAPKの関与様式

粕谷善俊、大西洋子、天野慎也、宇谷厚志*、須藤龍彦**、木村定雄

千葉大学 医学研究院分子生体制御学・附属病院皮膚科*、理化学研究所**

 

Mitogen-activated protein kinase (MAPK)ファミリーは、細胞外からの刺激を核内 の転写機構制御にまで変換・伝達するリン酸化酵素群であり、細胞の増殖、分化、形 質転換、生存、アポトーシス等の様々な生物現象において中心的役割を演ずる重要な 酵素である。哺乳類におけるMAPKsはExtracellular signal-regulated kinase(ERK)、c-Jun N-terminal kinase (JNK)、p38 MAPK(p38)の3つに分類する ことができる。p38は、特にサイトカイン、UV等の細胞外ストレスにより活性化されるとともに、サイトカインの産生にも積極的に関与することが証明されている。このことは、炎症を伴う疾患の病態進展にp38が密接に関与することを示唆するとともに、p38を効率よく抑えることが炎症を伴う疾患の治療に繋がることを想像させる。

  我々は、接触皮膚炎モデルマウスにおいてp38阻害剤の経皮的投与でその病態進展を有意に抑制すること、また、p38α+/- マウス(ホモ接合体は胎生致死)が接触皮膚炎誘導に抵抗性を示すことを見いだした。そこで、この接触皮膚炎におけるp38の関与様式に検討を加えたので報告する。

 

 

(4)骨格筋由来細胞による心筋再生の可能性

飯嶋義浩、永井敏雄、小室一成

千葉大学医学部循環病態医科学

 

近年、細胞移植による心筋再生治療の可能性が注目されている。骨格筋には筋芽細胞とともに多能性の組織幹細胞が存在することが指摘されており、組織再生に利用できるか検討されている。骨格筋由来細胞が心筋細胞の代わりとなりうるかを検討するため、我々はGFP発現マウスの骨格筋から単離した細胞とラット心筋細胞との共培養及び、ラット骨格筋由来細胞の心筋への自己移植を試みた。共培養により骨格筋由来細胞の一部はANP、GATA4、Connexin43及び心筋特異的troponinTを発現し、心筋細胞類似の膜電位を生じた。心筋内に移植された骨格筋由来細胞は移植部に生着していることが確認された。これらの所見は、骨格筋由来細胞の細胞移植への有用性を示唆すると思われた。

 

 

(5)幼若マウスを用いた薬剤誘発性心臓病変の検討

寺井 勝,本田隆文,上田志朗,河野陽一

千葉大学大学院 医学研究院小児病態学,薬学研究科医薬品情報学

 

血管炎の多くは原因不明であるが,血管炎と薬剤との関連を示唆する報告もある。川崎病もその原因は不明であるが,患者の多くは川崎病の診断前に薬剤服用歴があるものの,これら薬剤の心臓障害についてはよくわかっていない。そこで,川崎病患者が実際に服用した薬剤を幼若マウス(C57BL/6)に経口的に投与しその影響を検討した。薬剤のなかには、生理量にて心臓障害をおこす薬物が存在した。薬物暴露後初期の病変は,冠動脈静脈周囲における好中球,好酸球,単核球を主体とした細胞浸潤と浮腫で,心外膜炎もみられた。

 

 

特別講演1(16:00〜17:00)

 

座長 千葉大学大学院医学研究院分子統合生理学 桑木共之

「中枢性循環調節機序の解明:脳内局所への遺伝子導入法を用いたin vivoにおける検討」

九州大学医学部付属病院 循環器内科  廣岡 良隆 先生

 

我々は脳幹部、特に交感神経系を介する血圧調節に重要な部位である延髄孤束核(NTS)や頭側延髄腹外側野(RVLM)における一酸化窒素(NO)やアンジオテンシンIIの役割について研究を行ってきた。しかし、従来の中枢性循環調節に関する研究は麻酔下急性実験がほとんどであり、無麻酔覚醒下での実験は薬物の脳室内投与のものが多い。最近、我々はアデノウイルスをベクターとして内皮型NO合成酵素(eNOS)遺伝子導入をin vivoラットのNTSやRVLMに対して行うことに成功し、テレメトリーシステムを用いることにより無麻酔覚醒下の状態で血圧・心拍数が低下することを観察した。さらに、交感神経活動の指標として尿中ノルエピネフリン排泄量を測定することによりその変化を観察しえた。脳内局所への遺伝子導入法を用いた際の遺伝子発現の確認・酵素活性・生理機能の変化について紹介する予定である。また、高血圧モデルにおける効果の違いについて、動脈圧受容器反射の変化について、最後にNTS内Rho/Rho-kinase系が交感神経系を介する血圧調節機序に関与している可能性についてdominant-negative Rho-kinase遺伝子導入を用いた成績を紹介する予定である。

 

特別講演2(17:00〜18:00)

 

座長 千葉大学大学院医学研院 小児病態学 寺井 勝

「肺高血圧症の病態解明にむけてのアプローチ」

奈良県立医科大学 第二内科(呼吸器感染症血液内科) 教授 木村 弘 先生

 

難治性肺高血圧症の発症・進展には様々な因子の関与が推測されてきた。慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の器質化内膜血栓部位では、細胞外マトリックスの不規則な層状配列を伴う肺血管のリモデリングが生じており、単球・Mφの遊走活性化因子であるケモカインMCP-1の発現が、器質化内膜血栓の内腔側のMφや血管内皮、血管平滑筋細胞にて認められた。同時に、器質化血栓の外側の膠原線維層内の再疎通した新生血管内皮でもMCP-1の発現が認められ、周辺のマクロファージにもMCP-1陽性所見が認められた。一方、CTEPH患者の血漿中MCP-1レベルは健常者より高値で、右心カテーテルによる肺血管抵抗と血漿中MCP-1レベルは中枢型血栓の患者群では正相関を示した。これらより、中枢肺動脈の内膜血栓とその周囲の炎症細胞や内皮細胞から産生されるMCP-1が肺血管リモデリングをさらに増悪させるとともに、肺小動脈のリモデリングを介して肺高血圧が惹起される可能性が示唆された。炎症性肺高血圧症の実験モデルにおいても、Mφが介在する炎症性機序やMCP-1の関与が明白になっており、臨床例でも単球・Mφの制御が肺高血圧症治療の重要なターゲットとなりうると考えられた。

 これらの細胞生物学的要因以外にも、一旦リモデリングが惹起された肺高血圧症患者においては、自律神経系が不安定になるREM睡眠そのものが肺高血圧の憎悪要因として作用することが明らかになった。特に、急速眼球運動時には眼球運動の出現に呼応したかたちで肺動脈圧の上昇を認め、これらは低酸素血症の存在とは独立して観察された。このように、肺高血圧症はREM睡眠に特異的な交感神経系の機能亢進によっても増悪することから、睡眠時における適切な酸素療法と並び、肺血管拡張療法の時間薬理学的アプローチの重要性が示唆されている。

 

閉会の辞 千葉大学大学院医学研究院 小児病態学 寺井 勝