第14回循環器基礎研究会

 

日 時:平成14年9月14日(土) 14:30〜18:00

場 所:ホテルサンガーデン千葉 「天平の間」

千葉市中央区中央1-11-1  TEL043-224-1311

 

 

 

 当番世話人

鈴木信夫(千葉大学・院医・環境影響生化学)

齋藤 康(千葉大学・院医・細胞治療学)

代表世話人

小室一成(千葉大学・院医・循環病態医科学)

 

共催

循環器基礎研究会

協和醗酵工業株式会社

 

 

 

開会の辞  

一般演題(14:30〜15:50)

座長 千葉大学大学院医学研究院薬理学 中谷睛昭

@生理的心肥大と病的心肥大におけるHeat Shock Protein の発現の相違

坂本昌也、東口治弘、鄒雲増、赤澤宏、佐野雅則、原田睦生、高野 博之、永井 敏雄、小室一成

千葉大学大学院医学研究院 循環病態医科学

心肥大は圧及び容量負荷に対する適応現象であるが、同時に虚血性心疾患、不整脈、突然死、心不全の独立したリスクファクターでもある。心肥大には圧負荷により生ずる病的心肥大と運動負荷いわゆるスポーツ心に代表される生理的心肥大がある。通常前者は無治療では心不全に至ることが多く、後者ではそのような報告はない。しかしその詳細なメカニズムについては未だ解明されていない。今回我々はラット心肥大モデルに対しDNA CHIPを用い、8800遺伝子の解析をし両者を比較検討した。両者shamモデルと比較しそれぞれ異なった70〜100の遺伝子発現の上昇を認めた。興味深いことにischemic injuryに対し保護的に働くと考えられているHSP70は生理的心肥大でのみ著明な発現の上昇を認めた。また各HSPの発現を制御していると考えられているHeat Shock Factor-1 (HSF-1) の発現も生理的心肥大でのみ、その発現の上昇を認めた。我々はさらに、HSF-1の心保護作用を検討するため、HSF-1 トランスジェニックマウス(HSF-1Tg mice)を用い胸部大動脈縮窄術を施した。HSF-1 Tg miceにおいてはsham群に対し繊維化率の低下、apoptosis細胞の減少を認めた。これらの結果よりHSF-1を介したHSP70の上昇が心肥大から心不全への進行の抑制に対し重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

 

Aストレス応答性プロテアーゼ誘発による新規生理機構−心筋梗塞におけるアポトーシスとの関連−

鈴木信夫、喜多和子、長谷川律子

千葉大学大学院医学研究院環境影響生化学

ヒトが種々のストレッサーに応答する際、その応答指令を全身にどのように伝達しているのであろうか。私共は、リンパ球系細胞でのプロテアーゼ活性レベル調節という反応に着目している。サイトカインなどの血清因子も加わり、放射線や化学物質などへの応答システムがあり、そのシステムでは、遺伝子情報の調節管理が行われているようである。今回は、このシステムが、心筋梗塞発症時にも作動することも示す。そもそも、急性心筋梗塞発症時における心筋細胞の死の理由は、血液の遮断ということだけであろうか。積極的にアポトーシスを誘導する生理応答機能があるのではないだろうか。私共は、急性心筋梗塞発症時直後のヒト血清の因子により、心筋由来動物細胞ないしはヒト体細胞由来培養細胞でアポトーシスが誘導されることを見出した。この誘導は、Fas関連分子などの既知の分子は関与しない未知のメカニズムによるとの示唆も得ている。

 

B加齢時における心血管βレセプター伝導系に対する性差の役割

Gen Takagi, Raymond K. Kudej*, You-Tang Shen#, Ikuyo Takagi, Filipinas Natividad#, and Stephen F. Vatner#

From The Department of Internal Medicine, Nippon Medical School-Chiba Hokusoh Hospital, Chiba, Japan, and #Cell Biology & Molecular Medicine, University of Medicine & Dentistry of New Jersey, New Jersey Medical School, Newark, NJ, *Tufts University, School of Veterinary Medicine, N. Grafton, MA

今回我々は加齢時の心血管のβレセプター伝導系に対する性差の役割について覚醒猿を用い若年,加齢,オス,メスの4群にて検討した。

基礎血行動態は4群にて差を認めなかった。βレセプター刺激であるイソプロテレノール,ノルエピネフリン,また、アデニリールサイクレースへの刺激であるフォルスコリンに対する心収縮能(+dP/dt)及び末梢血管抵抗の反応は,加齢オス群で有意に若年群に比べ低下を認めた一方,加齢メス群においては保たれていた。よって,心血管系におけるβレセプター伝導系の加齢性変化は女性において保たれていると思われた。

 

CATP感受性K+チャネル遺伝子(Kir6.2)欠損マウス心筋における虚血時の電気生理的変化

斉藤智亮1、佐藤俊明1、三木隆司2、清野 進2、中谷睛昭1

1千葉大・院医・薬理学、2千葉大・院医・細胞分子医学

細胞内ATP濃度の減少により活性化されるATP感受性K+(KATP)チャネルが、虚血時の活動電位変化と細胞外K+の蓄積に関与するか否かを、KATPチャネル蛋白遺伝子(Kir6.2)欠損マウスを用いて検討した。野生型マウス(WT)とKir6.2欠損マウス(Kir6.2KO)の冠動脈灌流標本を作製し、虚血に曝した際の心筋細胞活動電位と細胞外K+濃度の経時的変化をそれぞれ測定した。虚血前の活動電位持続時間(APD)はWTとKir6.2KOで差はなかった。WTのAPDは虚血により短縮したが、Kir6.2KOのAPDは虚血中も短縮しなかった。一方、静止膜電位(RMP)は、WT、Kir6.2KOとも虚血により有意に脱分極し、両者に差は認められなかった。また、虚血中の細胞外K+濃度の増加は、WTのみならずKir6.2KOでも認められた。以上の結果から、心筋細胞膜KATPチャネルの活性化は、虚血心筋のAPD短縮に寄与しているが、従来の考えとは異なり、RMPの減少と細胞外K+の蓄積には重要ではないことが示唆された。

 

Dウロキナーゼ受容体代謝を介した血管平滑筋細胞(SMC)の遊走促進の解明

武城英明1、Zhu Yanjuan2、高橋和男2、齋藤 康2

千葉大学大学院医学研究院臨床遺伝子応用医学1、細胞治療学2

【目 的】動脈硬化の進展に血管中膜から肥厚内膜へのSMCの遊走が重要である。我々は肥厚内膜のSMCに特異的に発現する遺伝子LR11を同定した。LR11は、LDL受容体ファミリーに属しリポ蛋白、プロテアーゼ等の代謝に関わることが推測される。今回、LR11発現亢進の意義と機能発現機構の解明を目的として、LR11発現SMCを用いて細胞遊走能およびウロキナーゼ受容体(uPAR)代謝を検討した。

【方法と結果】LR11cDNAを導入したA7r5細胞は、PDGFによる遊走能が約2倍に増大した。この亢進した遊走能は、抗LR11抗体、アポEにより抑制された。LR11発現細胞はLR11蛋白の高発現とともに細胞膜のウロキナーゼ受容体蛋白が増大していた。内膜由来SMCは、中膜由来SMCに比べて、遊走能の亢進とともにLR11蛋白、uPAR蛋白量の発現が亢進していた。細胞膜発現uPAR蛋白量は、抗LR11抗体、アポEにより抑制され、遊走亢進は抗uPAR抗体、抗uPA抗体により抑制された。uPAR蛋白の代謝は、LR11発現細胞において約30%低下していた。

【結 論】LR11はuPAR蛋白代謝を抑制し血管平滑筋細胞の遊走を亢進する。動脈硬化巣に発現するLR11は、マトリックス分解の促進を介し平滑筋細胞の遊走を亢進し動脈硬化の進展に関わる可能性がある。

 

E虚血・再灌流障害におけるNa+ -Ca2+ exchanger(NCX)の作用

-NCXヘテロノックアウトマウスを用いた検討-

大塚 正史1、赤澤 宏1、鈴木 将2、中谷 晴昭2、小室 一成1

1.千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学、2.千葉大学大学院医学研究院薬理学

[目的]  正常心筋においてNa+ -Ca2+ exchanger(NCX)は主に細胞内からのCa2+の排出に関与すると考えられている。しかし梗塞心筋、特に虚血・再灌流障害においてどのような役割を果たしているかは、NCXの特異的阻害剤が無いために不明であった。今回、NCXへテロノックアウトマウスを用いて虚血・再灌流障害モデルを作成し、その役割を検討した。

[方法]  NCXへテロノックアウト(KO)マウスと野生型(WT)より摘出した心臓をランゲンドルフ針にて30分間虚血後120分間再灌流した。この間持続的に心機能評価するため、圧カテーテルを左室内に挿入し観察した。120分後梗塞巣の評価のために心臓を6切片にしトリフェニルテトラゾリウム(TTC)にて染色した。

[結果]  WTマウスとKOマウスで虚血前の心機能(心拍数、左室内圧)に有意差は無かった。KOマウスにおいて虚血前に比べて120分後の心収縮能(52±10%)はWTマウス(26±6%)より有意に保たれていた(p<0.005)。TTC染色においてKOマウスの梗塞巣(32±9%)はWTマウス(68±10%)よりも有意に縮小していた(p<0.0005)。

[結論]  NCXは虚血・再灌流時に心筋障害を促進させる。したがってNCXを虚血・再灌流時に抑制することが心筋保護につながる可能性が示唆された。

 

特別講演1(16:00〜17:00)

座長 千葉大学大学院医学研究院 細胞治療学 齋藤 康

「動脈硬化巣リモデリングに関与する細胞の起源」

東京大学大学院医学系研究科 循環器内科  佐田 政隆 先生

動脈硬化などの増殖性血管疾患は傷害に対する血管修復機構を契機にすると考えられている。病変形成に関与する平滑筋細胞の起源について検討した。

(1)野生型マウスとLacZマウスとの間で異所性心臓移植を行ったところ、移植後動脈硬化病変の大部分の平滑筋細胞はレシピエント由来細胞で構成されていた。(2)骨髄置換マウスの大腿動脈に機械的傷害を加えた。新生内膜の大部分と中膜の一部は骨髄由来のLacZ陽性細胞で構成されていた。(3)高脂血症マウスに骨髄移植を施行したところ、粥腫の平滑筋細胞の半数は骨髄由来細胞であった。(4)全骨髄もしくは造血幹細胞から平滑筋型アクチン、カルポニン陽性細胞をin vitroで分化誘導できた。

造血幹細胞を含めた骨髄細胞が血管前駆細胞として流血中に動員され、平滑筋細胞もしくは内皮細胞へ分化し、傷害後血管修復と血管病変形成へ寄与することが明らかとなった。「血管前駆細胞」の定着や分化に関する研究は血管病の治療、血管再生に今後貢献すると期待される。

 

特別講演2(17:00〜18:00)

座長 千葉大学大学院医学研究院 環境影響生化学 鈴木 信夫

「Klotho蛋白の機能と個体老化の分子機構」

京都大学大学院医学研究科 教授 鍋島 陽一 先生

Klotho遺伝子はカルシウムホメオスタシスの中枢である腎尿細管、脳の脈絡膜、副甲状腺の主細胞で強く発現しており、動脈硬化、異所性の石灰化、骨密度の異常など、カルシウム代謝異常に関連した変異症状が顕著である。Klotho蛋白の欠損により活性型ビタミンD合成の律速酵素である1α-hydroxylaseの発現抑制機能が失われ、その発現上昇により血清ビタミンD濃度の亢進、カルシウム、リンホメオスタシスの破綻がもたらされ、多彩な変異症状の重要な要因となっている。一方、カルシウムに依存した蛋白分解システム(カルパインの活性化)が顕著に亢進し、細胞死、組織の分解を引き起こしていると推定されるが、カルパインの活性化とKlotho遺伝子の発現低下が相関しており、野生型マウスにおいても、老化に伴い、Klotho遺伝子の発現が低下し、カルパインの活性化が亢進し、多彩な老化現象と関連していると推定される。Klotho蛋白の機能解明の最近の進展について議論しつつ、研究の現状を紹介する。

 

閉会の辞