千葉大学大学院医学研究院 生殖医学講座 (旧生殖機能病態学 千葉大学産婦人科)
教授コラム 第3回
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第3回(2007.7.3)

環境と周産期を考える
 極端な暖冬、熱帯のスコールを思わせるような激しい降雨など、気候変動に不安を感じる人は多い。炭酸ガスの増加による地球の温暖化など、環境問題はますます深刻になってきた。
 2008年には京都議定書が発効し、いよいよ炭酸ガス排泄量の「90年比6%削減」を目指すことになる。達成までの期間は5年間。地球の温暖化の現状に鑑みるとこの目標は決して十分なものとはいえない。にもかかわらず、現時点で目標達成のめどは立っていないという。
 炭酸ガスの増加を食い止めるために、化石燃料の消費を押さえることはもちろんだが、石油を採掘してできた地下の空洞や高圧の深海に炭酸ガスを注入して保存するという方法も検討されていると聞く。あらたに排泄される量を削減するだけでは追いつかない。問題は深刻、すでに排泄され蓄積された過剰の炭酸ガスを減らさなくてはならない状況に入っているのだ。
 私が少年の頃、近くの潟が干拓され、広い水田に生まれ変わることになった。加賀温泉郷のひとつ片山津温泉という温泉街の近くにある柴山潟という湖で、いまでも温泉街に少しだけ水面が残されている。いよいよ水が抜き取られ、あらわれた湖底をみて驚いた。シャンプーの容器・破れたナイロン袋・使い古した歯ブラシ・キャラメルのおまけのキャラクターグッズ・石けんの容器・破れたゴルフボール(近くに有名なゴルフ場がある)などありとあらゆるプラスチック製品が、貝殻とともに現れた。当時は高度成長時代に入っていたものの、まだまだゆたかとは言えない時代であった。湖に流れ込む何本かの河川によって運ばれ堆積していたのだ。
 当時13歳の私には“環境”という概念はなかったが、将来に漠然とした不安を感じたのをはっきりと記憶している。大学に入って、生態学の講義を受けたときに、この漠然とした不安の正体を理解した。講義はあくまで生態系を構成する生き物の連鎖を解説する生物学に終始していたが、講義を聴きながら私は、少年の日に見た湖底を思い出していた。環境の破壊は連鎖を経て必ずや人類そのものを脅かす。
 少年の日の漠然とした不安は現実のものとなった。環境はすでに破壊され、ゴミを捨てるのをやめるだけでは環境は元に戻らない。ゴミを取り除き汚染された土壌の除染をする、積極的に環境を改善していかなければならない状況にあるのだ。ガソリンや電気の使用量を減らすだけでは不十分。熱帯雨林の修復や焼き畑への植林運動への寄付などできることからやらなくてはいけないと思う。
 環境問題の解決策を考えていたとき、ふと周産期医療問題とのちょっとした類似性に気づいた。
 最近、周産期医療問題が社会問題化している。周産期医療は劣悪な労働環境から慢性的な後継者不足に陥り、その後継者不足がさら労働環境を悪化させるという悪循環が続いていた。昨今の医療訴訟の増加はさらに辞退を深刻なものにしていた。そこへ、昨年の福島県立大野病院事件での産婦人科医師の逮捕が拍車をかけた。昨年度あたらしく産婦人科医となった若い医師は史上最低数になった。すでに産婦人科医となっていた医師にも動揺がひろがり、産婦人科医を続けることは危険だから転科するように産婦人科医師を真剣に説得するものまで(他科医師である家族など)が現れた。(幸い、私の承知している限りこのような説得に応じて、転科した医師はいない)。
 大学病院はこれまで、地域の病院への医師供給源としてこれまで中心的役割を担ってきた。昨今の医師不足の中にあっても、必至で関連病院を支え、地域医療の後支えに努めてきた。研究という大学の使命を多少犠牲にしてでも医師を送り、燃え尽きて産科医師を放棄する医師が出ないよう努めてきた。一つの病院が閉鎖することで、さらに周囲の病院の負担がふえて閉鎖に追い込まれるというドミノ倒し的な医療崩壊をなんとか防いできた。
 国の施策に従って医療資源の集約化(医師を地域の連携病院に集める)にも協力してきた。しかし、中小病院を廃止して医師を一カ所に集めても問題は解決しない。見かけ上当直回数は減るが、地域で取り扱わねばならない分娩数が決まっている以上一人あたりの労働量は減らない。責任を複数医師で分散することで労働環境が劇的に改善しない。かりに、労働環境が多少改善し周産期医師の減少が止まったとしても問題は解決しない。そもそも周産期医師が不足しているのだから、医師数の減少に歯止めをかけても解決しないのである。それくらい、すでに重症の医師不足にある。(最近では、医師不足は産婦人科に限ったことではないらしい)
 周産期医療問題を解決するには、医師の減少を防ぐという消極的な対策ではなく、逆に医師数を増やすことを目指した積極的なアプローチが必要である。環境問題への取り組みのときのように、過去の負債の解消に取り組む覚悟が必要なのだ。守勢に回って医師数の減少を防ごうとするのではなく、逆に攻勢に回りなかまを増やしていくのだ。
 周産期医療は、神秘的ともいえる生命現象を取り扱う。採取した未成熟な卵子が成熟し、精子と授精したのち胞状胚まで発育していく様を試験管内で直接目にすることができる。子宮に返し着床するのを確認し、さらに臓器ができ成長していく様子を超音波で手に取るようにみることができる時代だ。生まれてきた子供は、次の世代の担い手だ。やりがいは十分にある。若い医師を引きつける魅力にあふれた神秘的な領域だと思う。
 労働環境を改善するとともに“研修環境”の整備にも取り組んでいこう。研修制度の改革がおこなわれ、研修医によりよい研修を提供する義務を負うという意識が大学病院や医局にも出てきた。医局としては、研究や臨床のほかに、さらに一般病院と伍して研修レベルを争う、厳しい時代になった。良医を育てていくための痛みであり、自らの教育能力を高めていくためのチャンスでもある。
 千葉大学大学院生殖機能病態学(産婦人科学)では今年度から、教育専任の准教授と助教(これまでの助教授、助手に相当するポジション)が一名ずつ増員となった。専任スタッフにより、各種セミナーやカンファランスのほか、インターネット症例検討会や関連病院見学ツアーなど次々とあらたな企画に挑戦を始めている。この夏には、千葉県内の周産期施設見学ツアーを開催する。県内のNICUや周産期センターを見学し、かずさアカデミアパークにあるホテルに泊まってセミナーを聞いてもらう。千葉県に親しみを持ってもらうための企画である。よほど参加者が多くならなければ、費用は無料である。学部学生(何年生でも可)・初期研修医に是非参加してもらいたいと思っている。

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