千葉大学大学院医学研究院 生殖医学講座 (旧生殖機能病態学 千葉大学産婦人科)
教授コラム 第8回
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第8回(2014.2.13)

ロボット手術について思うこと
 千葉大婦人科でもロボット手術を導入しました。これまでの経験をもとに、ロボット手術についての感想を述べてみます。

 現時点で、医療技術としてのロボット手術を評価しようとするものではありません。婦人科ロボット手術にメリットがあるのかわからないのが現状です。「だからこそ経験を積み上げて検証していく必要がある」という、私の感想(思い)です。

出血が少ない。直近の子宮全摘術では、高度肥満に加え、開腹手術(虫垂炎、帝王切開2回)で腹腔内に広汎な癒着があったにもかかわらず出血量が13gでした。開腹術とは桁違いに少ない量です。もちろん、術後の回復も良好です。
術者の疲労感がほとんどない。老眼の術者にも術野はとても明瞭にみえます。術野の観察のために腰をねじったり首を傾けたりする必要もありません。まして、無影灯の調整など全く必要ありません(「無影灯」にも影ができます)。詳細な構造を視認して手術をすすめるので、安全性という意味でもストレスなく手術をすすめることができるようです(時間はかかります)。
手術解剖学が開腹手術と異なる。開腹手術では、術野の展開と尿管の損傷回避の目的で、子宮を頭側に牽引します。長年この操作に親しんできたので、この牽引が臓器や靱帯・血管の位置関係を生理的なそれとは大きく異なったものにしていることをあまり認識していませんでした。子宮を牽引せずに摘出するロボット手術を行ってみて、初めて気付いたことです。これを意識した操作は、ロボット手術だけでなく、開腹手術の術式改良にも生かすことができると思います。

 1と2は、ロボット手術でよく述べられています。3つ目は、腹腔鏡手術などでも薄々感じていたのですが、ロボット手術ではっきり認識できました。今後、経験を積み重ねてどこがどう違うのか、整理して手術解剖学にまとめてみたいと思っています。

 いま、産婦人科領域でロボット手術が保険収載されるかどうか注目を集めています。耐費用効果治療成績などについて、客観的な評価を行って判断されるのだろうと思います。ただ、現状で得られる情報は少なく、特にわが国で経験が少ないため判断は難しいだろうと想像します。

 腹腔鏡手術の始まりの頃にも同じような疑問を感じていました。本当に患者さんにとってメリットがあるのだろうか、医師の自己満足ではないのかと自問したように思います。先輩医師からは、鉗子口の傷を全部足した長さと同じだけ開腹したら、もっとよく見える(当時は観察も難しい器械だったのです)と言われたことを思い出します。

 体外受精が始まったときの状況も似ています。奇形児は生まれないのか、なぜ安全と言えるのかといった疑問を突きつけられました。かりに出生時に奇形がなくても、長いスパンでみたら大丈夫と言えるのか?このような疑問はもっともですが、技術開発の当初に答えられる問いではありません。まして、技術を導入しなければ、いつまでたっても答えることができません。

 世界で初めて体外受精で生まれたのは、イギリスのルイーズブラウンさんです。その妹のナタリーさんが、1999年にブラウンさんより先に、無事子供を授かりました。ブラウンさんの体外受精から21年後のことです。このとき、私の先輩で日本の体外受精の黎明期から先陣を走り続けてきた先生が、「これで体外受精が、治療技術として完結していることが示された」と安堵したように発言されたのが印象的でした。たくさんの体外受精児の出生にかかわりながらも、やはり一抹の不安があったのだろうと推察します。

 話を、ロボット手術に戻します。泌尿器科では一足先に保険収載され、多くの施設で手術が行われています。その治療効果やメリットを評価できるようになるにはまだ時間がかかると思います。

 婦人科領域では、先陣をきった東京医大を除くとまだまだ経験数は少ないと思います。安全性は十分に担保しなければなりませんが、患者さんへのメリットを評価するためにも、手術経験は積み重ねていくことが必要です。婦人科領域でのロボット手術の導入が尻すぼみにならないようにしたいものです。

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