千葉大学大学院医学研究院 生殖医学講座 (旧生殖機能病態学 千葉大学産婦人科)
教授コラム 第10回
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第10回(2014.8.7)

折れた桜のその後(2)です
 折れた桜のその後(2)です。

 5月、「折れた桜」の根本に、サクランボが落ちていました。見上げると、幹から出た枝にいくつかのサクランボがありました。折れた創はそのままですが、桜は元気です。
石畳の上にばっさり落ちているものもありました。
手を伸ばすと届く高さです。

 ソメイヨシノが結実する(サクランボがなる)ことはまれ。結実しても芽を出すことありません。そのため、ソメイヨシノは挿し木か接ぎ木で増やします。
 ところが、ヤマザクラなど他の種と交配すると、種ができ、芽が出るのだそうです。みごとなサクランボをみていると、折れた桜も、雑種ではないかと思えてきました。(そういえば枝振りもヤマザクラに…)

 ソメイヨシノは、江戸染井村生まれの固有種です。遺伝子組換え操作を加えて作られたものではありませんが、ヒトが楽しむために人為的に作出され、維持されている純血種です。種多様性、生物多様性の維持は大切です。さまざまな種がいてこそ生態系が保たれるのです。種の数が減ると、それだけ環境の変化への適応力が失われます。

 「ソメイヨシノ」の保存には接ぎ木にしても挿し木にしても手間がかかります。手間をかけなければたちまち絶滅です。一方、ヤマザクラなどと交配して「ソメイヨシノ」ではない新しい種(雑種)になっていくと、人手が要らなくなります。純血種を維持するのは大変ですが、交配種は容易です。これは、生物種がざまざな交配や遺伝子交換を通じて進化(変化)していくものであるという本質と関連しているのだと思います。秩序あるものも次第に秩序を失い、エントロピーが増大するという熱力学第2法則に従う、すなわち「形あるものはうつろふ」のです。わたしは、このようなときいつも「驕れる人も久しからず」という平家物語の冒頭の句を思い出します。

 ソメイヨシノの不稔性は、ヒトの好みによって作り出された種であることの因果なのかもしれません。所詮、ヒトの所作は神様の域には届きません。生きた化石「カブトガニ」も、二億年にわたってDNA情報を全く変えていないわけではないのです。形が、二億年まえの化石とよく似ているがDNAレベルでは移ろっているはずです。

 「種の保存」というのは、厳密な意味での純血種の保存、固有DNAの保存というのではなく、少しずつ形を変えて(進化)していくDNAを守ること指すのかもしれません。エントロピー増大の法則に抗することはできないのですから。そのように考えてくると、少し気楽になります。ヒトも、生物も、それを取り巻く環境も、さらにはこの宇宙全体も進化、すなわち移ろいゆくものなのです。(進化は、深化や機能向上を意味する用語ではなく、引き返すことのできない宇宙の変化ととらえるほうが良さそうです)

 7月の終わりに梅雨が開け、連日暑い日々が続いています。大雪の日は、わずか半年前のことですが、記憶からはあっという間に消えてきます。桜の木陰で、移ろいゆく半年前の記憶を思い起こし、涼をとることにします…。引き返すことのできないはずの時間ですが、バーチャルの世界では巻き戻しができそうです。

折れた幹はそのままですが、桜は元気です。



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