教室の紹介

基礎病理学講座の前身である肺癌研究施設病理研究部門は1966年に設立され、井出源四郎名誉教授が初代教授に就任しました。1969年には林豊名誉教授が二代目教授に、1994年に大和田英美教授が三代目の教授に就任しました。2001年4月より肺癌研究施設病理研究部門は基礎病理学として研究を続けています。以下に最近の研究、診断、教育について紹介いたします。

研究面では、肺癌、縦隔腫瘍、肉腫の発生機序、肺癌の予後因子、心筋炎の発生機序などの解明を目指して研究をしています。(1)異型扁平上皮化生細胞および異型腺腫様過形成細胞の遺伝子異常は、同時に存在する癌細胞の遺伝子異常と同様であり、これらが肺癌の前癌性病変であることを明確にしました。(2)原発性肺癌と喫煙の関係はよく知られていますが、非喫煙者にも肺癌は発生します。私たちは原発性肺癌へのヒトパピローマウイルス(HPV)の関与をPCR法によって検討しました。その結果、HPV16 型のウイルスのゲノムが検出されましたが、その検出頻度は低いことが明らかになりました。(3)機能的、形態学的に神経内分泌分化を示す大細胞癌の予後は、神経内分泌分化を示さない大細胞癌よりも悪いことを明らかにしました。(4)同一個体において異時性に、あるいは同時性に多発性肺癌が認められる場合があり、病理組織像に差異が認められない場合でも、それぞれの癌細胞の遺伝子異常を比較することにより、それぞれが異時性あるいは同時性の原発性性肺癌であるとの診断が可能であることを示しました。多発性肺癌のうち、肺癌が2つとも原発性である場合は、2つ目も適切に治療することにより、良好な予後が期待されます。(5)胸部に発生した肉腫のマイクロサテライトマーカーの変異を検討した結果、17pの変異が予後と関連し、また、VEGFの発現は予後因子であることを明らかにしました。(6)縦隔腫瘍のひとつである未熟奇形腫の各構成成分に同じ突然変異がおきていること確認し、奇形腫発生の早い時期に突然変異がおこることを報告しました。(7)心筋炎患者の末梢リンパ球は選択的スプライシングにより可溶性Fasを産出しますが、炎症が遷延する症例では持続的に高値を示し、血中の可溶性Fas リガンド(FasL)は心筋炎による心不全の重症度を反映していることを明らかにしました。また、ラットの心筋虚血再潅流モデルにおいてFasLの発現が増加し、抗FasL抗体の投与により好中球、T細胞の梗塞巣への浸潤が抑制され、心筋梗塞巣の面積が縮小することを明らかにしました。

病理診断としては、呼吸器外科および心臓血管外科の手術標本の病理組織診断、術中迅速診断、および呼吸器外科および呼吸器内科からの内視鏡による生検標本等の病理組織診断を行っています。また、付属病院の病理解剖を担当し、千葉県の行政解剖にも協力しています。

医学部学生への教育は、病理学総論で腫瘍学、病理学各論で呼吸器病理学、心臓血管病理学、また病理学実習や学生によるCPCなどを担当しています。さらに基礎配属の学生には解剖例を用いて、標本の作製法、所見の取り方、レポートの書き方を指導しています。また、月に一度は若手研究者を対象として、手術標本を中心に呼吸器外科、呼吸器内科と共同でCPCを行っています。