神経内分泌腫瘍

第3版では、神経内分泌腫瘍として、
をあげています。

第2版では

となっていました。小細胞癌は燕麦細胞癌と中間細胞型に分けられていました。 第3版では、この区別はなくなりました。区別をしない理由は、病理医間で診断が一致しないこと、および予後に差がないことです。

Tumorlet

主に細気管支周囲に神経内分泌細胞が結節をつくるものです。右は免疫染色で神経内分泌マーカーの1つであるNCAMが陽性であることを示します。 Tumorletは5mm未満であり、5mm以上のものは、カルチノイドとします。

定型的カルチノイドと非定型的カルチノイドの診断基準
定型的カルチノイド非定型的カルチノイド
構造類器官構造、索状、島状、柵状、リボン状、ロゼット構造
核分裂像(10高倍視野)0-1個2-10個
壊死ないある(小さい)

カルチノイドは類器官構造、索状、島状、柵状、リボン状、ロゼット構造などの特徴をもちます。 定型的カルチノイドは、核分裂像が10高倍視野で0か1個で、壊死は認めません。 非定型的カルチノイドは、類器官構造、索状、島状、柵状、リボン状、ロゼット構造などの特徴をもつ点は定型的カルチノイドと同じです。 違いは、核分裂像が10高倍視野で2−10個、あるいは壊死巣を認めることです。壊死巣はふつう小さく、大きな壊死はみられません。 Tumorletは定型的カルチノイドに似ていますが、大きさが小さく、5mmより小さいものをいいます。 大細胞神経内分泌癌及び小細胞癌と非定型的カルチノイドの鑑別は、前2者はいずれも核分裂像の数が多いために、鑑別できます。

定型的カルチノイド

類器官構造を示します。右に拡大像を示します。腫瘍細胞の核は類円形で、好酸性の豊富な細胞質を有します。ロゼット様構造を認めます。

非定型的カルチノイド

類器官構造を認め、壊死を認めます。 右の拡大像は、核のクロマチンが増量し、細胞質が少ないことがわかります。 ロゼット様構造を認めます。核分裂像はあまり認められません。

大細胞神経内分泌癌
類器官構造、索状、ロゼット様、柵状配列を示します。 細胞質は中等量から豊富で、核小体が目立ちます。 核分裂像は10高倍視野で11個以上で、普通は70個以上みられます。 広い範囲の壊死巣を認めます。 LCNECと診断するためには、免疫染色で神経内分泌マーカーが陽性であることを確認する必要があります。

大細胞神経内分泌癌の組織像を示します。 左に弱拡大を示します。腫瘍細胞は胞巣を形成し、広範な壊死巣を認めます。 右に強拡大を示します。腫瘍細胞は胞巣の辺縁で柵状配列を示します。細胞質は比較的豊富で、好酸性です。ロゼット構造を認めます。きわめて大きい腫瘍細胞が出現しています。

大細胞神経内分泌癌の細胞所見
一般的に、大細胞神経内分泌癌は手術により摘出された標本で診断されます。しかし、進行した症例では手術により摘出することが困難で、喀痰や気管支鏡による生検や細胞診で癌の組織型を決定する必要があります。

このスライドは手術により摘出された標本で、大細胞神経内分泌癌と診断された症例の腫瘍捺印による細胞診所見です。 左上に腫瘍細胞がシート状に配列している所見を示します。右上は豊富な細胞質を有する多角形の腫瘍細胞が、平面的で孤立性に出現している所見を示します。 核膜は薄く均一です。核小体は1−2個見られます。 小細胞癌と同様に核線を認めます。 左下に示すロゼット様構造も多くの症例で認められました。 右下に極めて大きな裸核状の細胞が孤立性に出現している所見を示します。核小体は多数認められます[6]。 このような所見がみられた場合、細胞診でも大細胞神経内分泌癌と診断することが可能であると考えます。

小細胞癌
小型の細胞からなる悪性上皮性腫瘍で、腫瘍細胞の大きさは、リンパ球の3倍未満です。 腫瘍細胞は円形、卵円形、または紡錐形です。 細胞質が乏しく、細胞境界は不明瞭です。 核のクロマチンは微細顆粒状で、核小体は目立ちません 核の相互圧排像、核分裂像が多く、普通60個以上です。 大細胞神経内分泌癌とは異なり、免疫染色や電子顕微鏡により神経内分泌分化を証明する必要はありません。

小細胞癌の組織像を示します。 小型の裸核の腫瘍細胞からなり、広範な壊死を認めます。 腫瘍細胞の大きさは、リンパ球の約3倍までです。 小細胞癌と大細胞神経内分泌癌の写真は同じ倍率で撮影しています。小細胞癌と大細胞神経内分泌癌を比較してみますと、大細胞神経内分泌癌の方が細胞質が豊富で、細胞が大きいことがわかります。

神経内分泌腫瘍の術後の生存曲線

私たちの大学で以前に組織診断をした原発性肺癌を見直し、大細胞神経内分泌癌の頻度とその予後を検討しました。肺大細胞癌を神経内分泌分化の有無により大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma (LCNEC)), 神経内分泌分化を示す大細胞癌(large cell carcinoma with neuroendocrine differentiation (LCCND)), 神経内分泌腫瘍の形態を示す大細胞癌(large cell carcinoma with neuroendocrine morphology (LCCNM)), 通常の大細胞癌(classic large cell carcinoma (CLCC))に分類しました。LCNECと診断した症例の元の病理診断は、小細胞癌中間細胞型、大細胞癌、低分化の腺癌、低分化の扁平上皮癌でした。LCNEC, LCCND, LCCNMの5年生存率はそれぞれ27.4%、22.2%、18.2%で、CLCCの5年生存率43.3%よりも有意に低値でした。LCCNMの臨床データはLCNECと同じでした。神経内分泌分化を示す大細胞癌は予後が悪く、組織学的に神経内分泌分化を確認することは、臨床的にも意義があります[7]。
上の図は、定型的カルチノイド、非定型的カルチノイド、大細胞神経内分泌癌、小細胞癌の術後の生存曲線です。カルチノイドの予後は良好で、非定型的カルチノイドには再発した症例がありました。 大細胞神経内分泌癌は小細胞癌と同様に予後が不良でした[8]。
下の図は、大細胞神経内分泌癌に化学療法を加えた症例と加えなかった症例の術後の生存曲線です。Retrospectiveなstudyですが、大細胞神経内分泌癌に化学療法を加えた症例は加えなかった症例に比べて予後が良好でした[9]。

問題点
大細胞神経内分泌癌と小細胞癌に関して、病理医間の診断一致率が低いことが報告されています。 Travisらは、同じ標本を5人の肺専門の病理医で診断しました。小細胞癌、大細胞神経内分泌癌の全例で3人以上の診断が一致しました。全員が一致したのは、小細胞癌の7割、大細胞神経内分泌癌の4割でした。4人が一致したのは小細胞癌の9割、大細胞神経内分泌癌の5割でした[10]。