転移性肺腫瘍

肺腫瘍が原発性肺癌か転移性肺癌か、HE染色では迷う症例があります。そのような症例は、免疫染色を用いて、原発性肺腫瘍に特異的に発現するマーカーを証明したり、転移性腫瘍の原発巣に特異的に発現するマーカーを証明することにより、原発巣か転移巣か鑑別することができます。
Thyroid transcription factor 1は甲状腺、肺で特異的に発現している転写因子です。甲状腺の濾胞上皮細胞、肺の2型肺胞上皮細胞、クララ細胞で発現します。肺腺癌では発現しますが、転移性肺腫瘍は甲状腺癌の転移を除いて発現しないので、原発性か転移性かの鑑別に有用です。 また、肺癌はcytokeratin 7が陽性、cytokeratin 20が陰性であるのに対して、大腸癌はcytokeratin 7が陰性、cytokeratin 20が陽性であるので、原発性か転移性かの鑑別に有用です。また、CDX-2はほとんどの大腸癌に陽性であるのに対して、原発性肺腫瘍には発現しないので、原発性か転移性かの鑑別に有用です。 Estrogen receptorは乳癌で発現するので、乳癌の転移か、原発性肺癌かの鑑別に有用です。

症例1

2年前に直腸癌にて高位前方切除術(mp, ly0, v0, Stage IA)の既往のある肺腫瘍を示します。 Follow up中にレントゲン写真で異常陰影を認めました。 Cytokeratin7は気管支上皮、気管支腺、肺胞上皮に陽性ですが、腫瘍細胞は陰性です。Cytokeratin20は肺組織には陰性ですが、腫瘍細胞は陽性です。CDX-20も同様に腫瘍細胞のみ陽性です。TTF-1は肺胞上皮に陽性ですが、腫瘍細胞は陰性です。 以上の結果より大腸癌の肺転移と診断しました。

症例2

17年前に乳癌の摘出術を受けた症例で、検診で胸部異常陰影を指摘されました。 右上に乳癌の組織像、肺に肺癌の組織像を示します。 乳癌の組織像に似ていますが、原発性肺癌としてもおかしくない所見です。 免疫染色でTTF1(-), surfactant apoproteinが陰性で、estrogen receptorが陽性であることより、乳癌の肺転移であることがわかります。

症例3

11年前に乳癌の手術を受けています。咳嗽でレントゲン写真をとり、異常陰影を指摘されました。 摘出した肺腫瘍の組織像です。 以前の乳癌の組織は管腔形成が明瞭で今回の腫瘍とは形態がことなりますが、転移性腫瘍であることを否定はできません。 免疫染色を行いました。乳癌ではestrogen receptorが陽性で、今回の肺腫瘍はestrogen receptorが陰性で、TTF-1が陽性であることより肺原発の腺癌と診断しました。