はじめに

近年、肺癌で死亡する率が高くなっている。その原因として、一方では肺癌の症例自身が増えていることが考えられ、また、一方では肺癌の診断技術がめざましく進歩したことが考えられる。肺癌が診断されるには概ね以下の過程を経る。まず、咳嗽、血痰、発熱などの主訴で病院を受診し、胸部レントゲン写真を撮り、異常陰影が見つかったり、他の病気で通院中または入院中にたまたま撮った胸部レントゲン写真や、職場や地域の健康診断で胸部レントゲン写真に異常が見つかり、肺癌が疑われ、断層撮影やCT(コンピューター断層撮影)を行う。細胞学的には喀痰を採取し細胞診で癌細胞の有無を検討する。気管支鏡検査を行い中枢の気管支に異常があれば、その部分から細胞または組織を採取し、検討する。末梢の肺野に異常がある場合は、気管支鏡検査でその異常を直接観察することはできないが、透視下で気管支鏡検査を行うことにより細胞または組織を採取することができる。また、末梢の肺野に腫瘤が存在する場合、透視下に経皮的に細胞または組織を採取することもある。以上の様な検査を組み合わせて癌細胞または癌組織が検出され、他の臓器に原発巣がなければ肺癌と診断され、治療が行われる。病期が早い場合は、手術により癌を含む肺組織が摘出され、組織診断が行われる。
肺癌はその組織型により臨床経過が異なり、また治療に対する反応も異なる。従って、肺癌を組織学的に分類する必要性が生じる。肺癌の組織分類はわが国では日本肺癌学会が編集した「肺癌取扱い規約」(以下学会分類)があり、大半の病理医はこの規約をもとに肺癌の組織学的診断を行っている。一方、WHOが編集した規約はHistological Typing of Lung Tumours(以下WHO分類)として発行されており、海外ではこの分類に基づいて肺癌の組織学的診断が行われている。本章では学会分類を中心に肺癌の組織分類を説明し、必要に応じてWHOの分類との相違を記述する。


診断法


1)組織分類の基本方針について

肺癌を始め、癌を組織学的に診断するにあたっては、個々の鏡検者による評価の差異をできるだけ少なくするために診断基準が必要になる。組織分類は多くの人が利用するので、できるだけ平易でなければならない。また、国内だけではなく海外の各施設間で共通の議論ができるような診断基準でなくてはならない。
肺癌の組織診断の基本的な条件として以下の3条件が満たされていなくてはならない。(1)肺全体を肉眼的に観察しうること。(2)癌病巣(原発巣)の代表的な全割面を組織標本にして検索すること。(3)所属リンパ節をできるだけ取り残しのないよう、組織学的に検索すること。ただし、以上の3点が満たされるのは、病期が早く手術による摘出が行われた場合や解剖例に限られ、術前の生検材料や、手術が行われず生検材料しか得られない症例では、条件が満たされない材料で診断せざるをえない。このような理由により、検査材料の由来を病理診断の末尾に、剖検材料の場合は(A)、手術材料の場合は(S)、生検材料の場合は(B)と付記する。

2)組織型、分化度、優勢度について

学会分類では原発性肺癌の基本的な組織型は表1の様に分類される。
扁平上皮癌、小細胞癌、腺癌、大細胞癌が4大組織型で、この4種類で肺癌全体の90%以上を占める。肺癌を分類する基本的な考え方は、皮膚や食道の表面を被う扁平上皮組織に似た構造を示すものを扁平上皮癌または類表皮癌とよび、管腔形成、または乳頭状増殖をするものを腺癌という。腺癌、扁平上皮癌のいずれの分化も示さないものが小細胞癌および大細胞癌で、この2つは以前は未分化癌とよばれた。小細胞癌は細胞の大きさが他の組織型に比べて小さく、大細胞癌は細胞の大きさが大きい。
扁平上皮癌、腺癌、腺表皮癌は正常の腺組織、重層扁平上皮組織にどの程度類似しているかにより、分化の程度を高分化(well differentiated)、中分化(moderately differentiated)、低分化(poorly differentiated)の3段階に分ける。分化度の程度には癌細胞の異型性(atypism, atypia)(癌細胞が形態学的に正常細胞から逸脱している度合い)、多形性(polymorphism, pleomorphism)(個々の癌細胞の間で形態学的に差異のある度合い)も加味して判断する。即ち、正常の腺組織に近い形態を示す腺癌でも異型性、多形性が高度であれば中分化腺癌と診断する。
肺の腫瘍細胞は多方向へ分化する機能を有し、多彩な組織像を示す。肺癌の原発巣の全割面を組織学的に検索すると、均一な像を示すことはまず無い。たとえば、腺癌の場合、一例の標本の中に、大半は管腔を形成しているが、一部では乳頭状に配列しており、また一部では特定の配列を示さず充実性に増殖していることがある。この場合、その占める面積が優勢な組織型を主な診断とし、例えば腺管型腺癌あるいは乳頭型腺癌と診断する。また、小細胞癌の一部に管腔形成や、角化がみられることもあるが、小細胞癌の占める面積が優位ならば小細胞癌と診断する。また、分化度も同様に大勢を占める分化度の程度をその症例の分化度とする。ただし、大細胞癌の場合はこの優勢度の原則を適用しない。大細胞癌の像が大半でも、一部に腺癌や扁平上皮癌の所見がみられれば、それぞれ、腺癌、扁平上皮癌と診断する。その理由は、大細胞癌は、他の組織型と異なり、扁平上皮癌、腺癌の未分化なものが含まれる"waste basket"とよばれる存在だからである。大細胞癌症例のあるものは、電子顕微鏡で観察すると、扁平上皮癌あるいは腺癌の特徴を認める。

3)各組織型について

扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)

扁平上皮癌は正常の皮膚や食道にみられる重層扁平上皮組織に類似した構造を示す癌で、類表皮癌(epidermoid carcinoma)と同意語である。現在では国内、国外ともに扁平上皮癌の名称の方が主に用いられている。扁平上皮癌は普通主気管支あるいは葉気管支より発生するが、末梢の肺に発生することもある。中枢性肺癌は血痰がみられることが多く、肺の虚脱、気管支肺炎、閉塞性肺炎をおこす。
扁平上皮癌の細胞の配列は辺縁より中心に向かって求心性に玉ねぎの割面の様な配列を示し、基質結合織は癌巣の周囲に存在する。癌巣の辺縁の癌細胞は基底細胞様で、中心に向かうに連れて扁平化し、細胞内角化や角化がみられる。この、求心性の配列を層形成という。中心部の同心性層状の角化物質を癌真珠という。癌細胞と癌細胞の間に縄ばしごの様な構造が存在し、細胞間橋といわれる。細胞間橋を電子顕微鏡で観察すると、隣り合った腫瘍細胞が細胞突起を出してdesmosomeで接合していることがわかる。扁平上皮癌と診断するにはこの細胞間橋と角化あるいはそのいずれかを確認することが必要である。
われわれの施設では層形成が明瞭で、細胞間橋、角化を示す癌巣が広い範囲に認められるものを高分化扁平上皮癌としている。大部分で癌巣が特定の配列を示さず、大細胞癌様であるが、癌巣のどこかに角化あるいは細胞間橋がみられる場合は低分化扁平上皮癌としている。高分化扁平上皮癌と低分化扁平上皮癌の中間のものを中分化扁平上皮癌としている。
扁平上皮癌の一部に腺癌の部分が認められるが、腺癌の部分が腫瘍全体の20%未満の場合、腺癌を伴った扁平上皮癌(squamous cell carcinoma with foci of adenocarcinoma)と診断する。
WHO分類では扁平上皮癌の一部分が紡錘形の細胞よりなり肉腫様の形態を示すものを亜型としてspindle cell (squamous) carcinomaとしている。
扁平上皮癌では癌巣の中心部に壊死を認めることがあり、これが気管支を通して排出されると空洞を形成する。また、癌巣の一部の癌細胞が脱落し、あたかも腺腔様にみられることがあるが、この腔を腺癌の腺腔と判断してはならない。また、末梢に発生した扁平上皮癌では、癌巣の中に既存の細気管支腔あるいは肺胞腔が残っていることがある。この腔は癌細胞が形成する腺腔ではないので、腺癌と診断してはならない。

小細胞癌(Small cell carcinoma)

小細胞癌は中枢性に発生することが多い。小細胞癌は、急速に大きくなり、転移も早いが、放射線療法、化学療法に対する反応は良好である。この意味で、小細胞癌は他の組織型と異なり、肺癌を小細胞癌と非小細胞癌に分類することがある。
小細胞癌は種々の腫瘍随伴症候群(paraneoplastic syndrome)をひきおこす。例えば、Eaton-Lambert症候群では神経ー筋接合部に対する抗体により筋無力症症候群がおこる。そのほかADH, ACTH, calcitonin, 成長ホルモンなどが小細胞癌では産生される。
組織学的には他の肺癌細胞より小型の癌細胞がびまん性、巣状、索状、リボン状などに並び、間質は血管に富んだ少量の結合織からなっている。燕麦細胞型(または、リンパ球様型)(oat cell type (or lyphocyte-like type))と中間細胞型(intermediate cell type)に分ける。
燕麦細胞型は円形または楕円形の核を有し、原形質に乏しく、核のクロマチンは細顆粒状で裸核状にみえる。核小体は目だたない。中間細胞型は腫瘍細胞が燕麦細胞型よりやや大きく多角形ないし紡錘形で、原形質は燕麦細胞型よりも多く、核は燕麦細胞型より明るく、核小体がみられる。
小細胞癌に管腔形成、角化がみられることがあり、それぞれ管腔形成を伴う(with tubules)、角化を伴う(with keratinization)と付記する。
小細胞癌は生検材料では採取時に圧縮されて、核が人工的変化を受け、ヘマトキシリンに染まる細い線状の物質が流れるように見えることがある。これは注意を要する所見で、炎症性の細胞浸潤、あるいはリンパ腫などでもこのような所見がみられる。この所見だけで小細胞癌と診断してはならない。
電子顕微鏡で小細胞癌を観察すると腫瘍細胞の原形質内に50-200nmの神経内分泌顆粒が認められる。

腺癌(Adenocarcinoma)

女性や非喫煙者にみられる肺癌は腺癌が多い。腺癌は普通は、肺の末梢に発生する。癌巣の中心部に瘢痕を伴うことが多く、同時に炭粉沈着もみられる。この瘢痕により、胸膜が癌巣に向かい引き込まれることがある。
学会分類では腺癌は胞巣の形態により腺管型(tubular type)と乳頭型(papillary type)に分かれ、乳頭型の亜型として細気管支肺胞型(または、肺胞上皮細胞型)(bronchioloalveolar type (or alveolar cell type))をおいている。腺管型は癌細胞が管腔形成を示して増殖するもので、乳頭型は固有の基質結合織を有し内腔に対して乳頭状に突出して増殖するものである。細気管支肺胞型は円柱状または立方状の癌細胞が既存の肺胞壁に沿い癌細胞が増殖するもので、壁に対して著しい破壊を示さず、間質は少量の結合織と血管よりなっている
。 われわれの施設では、癌細胞が単層性で明かな管腔形成または乳頭状配列が認められるものを高分化腺癌とするが、この癌細胞に異型性、多形性が高度ならば中分化腺癌としている。癌細胞が多層性で管腔形成、乳頭状配列が不完全なものや、管腔形成や乳頭状配列が明瞭でも充実性増殖を示す部分がみられる場合は中分化腺癌としている。大半が充実性に増殖し一部に管腔形成または乳頭状配列がみられるものは低分化腺癌としている。
腺癌の一部に扁平上皮癌の部分が認められるが、扁平上皮癌の部分が腫瘍全体の20%未満の場合、扁平上皮癌を伴った腺癌(adenocarcinoma with foci of squamous cell carcinoma)と診断する。
WHO分類では腺癌は腺房腺癌(acinar adenocarcinoma)、乳頭腺癌(papillary adenocarcinoma)、細気管支・肺胞上皮癌(bronchiolo-alveolar carcinoma)、粘液産生充実癌(solid carcinoma with mucus formation)に分類されている。腺房腺癌は学会分類の腺管型と同義である。細気管支・肺胞上皮癌は学会分類では腺癌の亜型の乳頭型の一型とされているが、WHO分類では腺癌の亜型とされている。
細気管支肺胞型に関しては、臨床的に胸部レントゲン写真で肺炎様陰影を呈し、喀痰が多量に喀出されるという点で、独立した疾患概念としてとらえる立場と、組織学的に乳頭型との区別がつきにくい症例があるので乳頭型に含まれるべきであるという立場があり、これが学会分類とWHO分類における細気管支肺胞型の腺癌のなかでの位置の違いとなっている。なお、消化管の癌が肺に転移した場合、レントゲン写真上肺炎様陰影を呈し、喀痰が多く、組織学的にも細気管支肺胞型と区別がつかないことがあるので、細気管支肺胞型と診断するには全身の検索を行い、他に原発巣が無いことを確認する必要がある。
WHO分類の粘液産生充実癌は充実性に増殖する癌細胞の原形質に粘液を認めるもので学会分類では大細胞癌に含まれる。
WHO分類で扁平上皮癌の亜型にspindle cell (squamous) carcinomaが記載されているが、腺癌の中にも紡錘形細胞が充実性に肉腫様に増殖し、一部に腺癌が認められるものが存在する。
先ほど述べた瘢痕が癌巣の中心部によくみられるという事実は、瘢痕が癌を形成するという考え方を導く。この癌を瘢痕癌という。ただし、実際は、瘢痕が癌を形成するのか、癌が瘢痕を形成するのかは区別がつかない。以前に肺野に瘢痕が存在することが証明されており、経過中にその瘢痕の部位に肺癌が発生した場合のみ瘢痕癌と診断できる。

大細胞癌(Large cell carcinoma)

大細胞癌は、扁平上皮癌への分化も腺癌への分化も示さない肺癌である。癌巣の大半が特定の配列を示さず充実性に増殖していて、一部に角化、細胞間橋、または、管腔が認められれる場合は、それぞれ扁平上皮癌、腺癌と診断する。
大細胞癌では粘液染色を行い、粘液が証明される場合は、粘液形成型(with mucin)、粘液が証明されない場合は粘液非形成型(without mucin)と付記する。粘液形成型はWHO分類では腺癌に属し、粘液産生充実癌(solid carcinoma with mucus formation)とよぶ。
また、腫瘍細胞が大型で、多形性に富み、その30%以上が単核または多核の巨細胞によって占められるものを巨細胞型(giant cell type)とよび、予後は不良である。白血球、特に好中球の浸潤を伴うことが多い。

腺表皮癌、腺扁平上皮癌(Combined epidermoid and adenocarcinoma (or Adenosquamous carcinoma))

扁平上皮癌への分化を示す部分と腺癌への分化を示す部分よりなり、それぞれがいずれも腫瘍全体の20%以上を占めているものである。一方の像の占める割合が20%より少ない場合には、大部分を占める方を主診断として扁平上皮癌を伴った腺癌(adenocarcinoma with foci of squamous cell carcinoma)あるいは、腺癌を伴った扁平上皮癌(squamous cell carcinoma with foci of adenocarcinoma)とする。分化度は腫瘍の大部分を占める方の組織型の分化度とする。

カルチノイド(Carcinoid)

低悪性度の肺癌で、中枢性に発生するものと末梢の肺に発生するものがある。その頻度は報告により異なるが、16-40%は末梢に発生し残りは中枢に発生する7)。末梢性に発生した場合は無症状であることが多いが、中枢性に発生したものでは、腫瘍の末梢の肺が虚脱に陥り、閉塞性肺炎をおこすことがあり、また、喘息様症状を呈することもある。気管支鏡で観察すると腫瘍はポリープ状に見えることがある。
組織学的には定型的カルチノイド(typical carcinoid)では、一般的に腫瘍細胞は均一な大きさで、多角形で、丸い核を有している。原形質は豊富で明るく好酸性である。これらの腫瘍細胞はリボン状、索状、胞巣状に配列し、細い血管結合織が基質を構成している。非定型的カルチノイド(atypical carcinod)では腫瘍細胞の原形質は乏しく、異型性、多形性がみられたり、核分裂像が観察される。壊死を伴うこともある。定型的カルチノイド、非定型的カルチノイドはともにGrimelius染色で黒褐色に染まる陽性顆粒が原形質内に証明される。
電子顕微鏡で観察すると原形質内に直径100-300nmの神経分泌顆粒を多数認める。この神経分泌顆粒は小細胞癌でも認められるが、カルチノイドの方がその数が多い。
免疫染色では腫瘍細胞の原形質はchromogranin A, serotonin, bombesin, gastrinなどに染まり、neuron specific enolase (NSE)にも染まる。
免疫染色で多くのペプタイドが証明されているが、カルチノイドが腫瘍随伴症候群をおこすことは小細胞癌に比べて少ない。

腺様嚢胞癌(Adenoid cystic carcinoma)

小型で、ほぼ同じ大きさの腫瘍細胞よりなり、胞巣状、索状に配列し、胞巣内に管腔様構造、または、嚢胞様構造を示す。胞巣の中に篩の様に管腔がみられる。これを篩状構造(cribriform pattern)という。この管腔の中には粘液を入れている。

粘表皮癌(Mucoepidermoid carcinoma)

粘液を産生する細胞と扁平上皮細胞の両方に分化し、その中間的な細胞もみられる。腺表皮癌との違いは、腺表皮癌が腺癌の部分と扁平上皮癌の部分よりなるのに対して、粘表皮癌は一つの癌巣の中に粘液産生細胞と扁平上皮細胞がみられることである。粘液産生細胞は管腔を形成することもある。

その他

その他の肺原発の悪性腫瘍としてWHO分類では線維肉腫、神経線維肉腫、血管肉腫、平滑筋肉腫、悪性中皮腫、癌肉腫、肺芽腫、悪性黒色腫、悪性リンパ腫などをあげている。本章では癌肉腫、肺芽腫、悪性黒色腫について述べる。

癌肉腫

太い気管支に発生することが多い。上皮性悪性細胞よりなる部分(癌)と、非上皮性悪性細胞よりなる部分(肉腫)が一つの腫瘍の中で混在しているものである。非上皮性腫瘍細胞は骨、軟骨、横紋筋、平滑筋、脂肪などの間葉系細胞に分化していなくてはならない。
一方、未分化な癌腫で上皮性細胞が間葉系細胞に類似した形態を示すことがありspindle cell carcinomaとよばれる6)。この場合は、免疫染色で間葉系に類似した細胞は上皮性マーカーであるkeratinばかりでなく、非上皮性マーカーであるvimentinにも染まる。このような腫瘍は上皮性成分の示す形態によりそれぞれの癌が属する組織型に入れる。
しかし、最近、癌肉腫とspindle cell carcinomaは別々の疾患概念ではなく、分化の連続線上にあり、肉腫成分を有する癌(carcinoma with a sarcomatoid element)という総称で一括して扱うという提唱がなされている。

肺芽腫

癌肉腫の亜型と考えられるが、癌肉腫とは異なり末梢の肺に発生することが多く、発症する年齢は癌肉腫より若い。胎児の肺によく似た構造で、上皮性成分と非上皮性成分よりなり、上皮性成分は明るい原形質を有する細胞が管腔を形成する腺癌であり、非上皮性成分は紡錘形をした未分化な間葉系細胞よりなり粗に配列している。非上皮性成分は軟骨、平滑筋組織へ分化することもある。最近、胎児の肺に類似した上皮性成分のみからなり、非上皮性成分を欠くものもwell-differentiated adenocarcinoma of fetal typeとして肺芽腫の亜型とするという提唱がなされている。

悪性黒色腫

太い気管支に発生する色素細胞よりなる腫瘍である。多くは肉眼的に黒く着色しているが、着色していない例もある。 腫瘍細胞は多角形、または紡錘形であり、多形性を有し、多核巨細胞もみられる。腫瘍細胞の原形質内に褐色のメラニン顆粒を有する。メラニンは硝酸銀液で黒色に染まり、過マンガン酸カリウム・シュウ酸で漂白される。新鮮標本ならばDOPA反応が陽性を呈する。免疫染色では、腫瘍細胞はS100蛋白、HMB45に染まり、keratinに染まらない。電子顕微鏡で観察するとmelanosomeが観察される。
悪性黒色腫は主に皮膚、口腔などにみられる腫瘍で肺は遠隔転移の好発部位である。従って、肺原発性の悪性黒色腫と診断するには、全身の諸臓器を検索し、他の部位の悪性黒色腫の肺転移の可能性を否定する必要がある。


3.まとめ

肺癌の組織分類を学会分類を中心に述べ、WHO分類との相違も記載した。学会分類とWHO分類の違いで顕著なものは、粘液産生充実癌の扱いである。WHO分類では腺癌の亜型に含まれ、学会分類では大細胞癌に含まれる。どちらの分類を採用するかにより組織型が異なり、各組織型の頻度を施設間で比較する場合には問題になる。また、腺癌の細気管支肺胞型は、乳頭型との鑑別が困難な場合が多く、基質の量がどの程度少なければ細気管支肺胞型とし、どの程度以上あれば乳頭型とするかという規約はない。また、全割面が全て同じ組織型ということは稀で、細気管支肺胞型にどの程度まで乳頭型または腺管型の混在が許容されるかということも鏡検者の判断にまかされている。大細胞癌に関しては多くの切片を観察すれば、大細胞癌と診断されたものも扁平上皮癌、あるいは腺癌の特徴が見つかりそれぞれの組織型に入れられることがある。大細胞癌の肺癌に占める割合が施設間で異なる一つの原因はここにある。分化度に関しても明かに高分化、明かに低分化とされるものはどの鏡検者がみても同じ診断がなされるが、中分化に関してはどこまで高分化、あるいは低分化に入れるかにより、その範囲が異なる。
以上のように組織分類は未だ完璧なものではなく、鏡検者の主観にゆだねられる部分が残っている。更に新しい知見が加わり、誰でも容易に使うことができ、鏡検者による診断のゆれが無い基準の完成が期待される。