Environment alters epigenome and causes cancer 当講座は千葉大学医学部で昭和42年に開設された生化学第二講座に端を発します。
平成25年に分子腫瘍学と改称し、癌エピゲノム研究を遂行しています。
研究詳細

エピゲノム異常に基づいた癌の層別化

 大腸癌は高・中・低メチル化群の3群に分かれます(図)。高メチル化群は癌遺伝子BRAF変異(+)と、中メチル化群はKRAS変異(+)と相関し、低メチル化群はBRAF変異(-) KRAS変異(-)と相関します。大腸発癌には3つの大きな分子機構が存在するようです。
 高メチル化群は、ミスマッチ修復遺伝子MLH1のメチル化を伴うため、マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability, MSI)を示す大腸癌症例群です。
 隆起性腺腫は、KRAS変異を伴う中メチル化群と癌遺伝子変異を伴わない低メチル化群の2群に層別化されます。隆起性腺腫からadenoma-carcinoma sequence(腺腫-癌連関)により発癌する経路は、中・低メチル化群の大腸癌の前癌病変を成すと考えられます。すなわち、マイクロサテライト安定(microsatellite-stable, MSS)の大腸癌症例群の前癌病変ということになります。また、これらの異常の蓄積は大腸腺腫の段階でほぼ完成しています。

図.大腸癌のエピジェノタイプと癌遺伝子の相関


 隆起性腺腫以外に、鋸歯状腺腫(serrated adenoma)や側方進展腫瘍(laterally spreading tumor, LST)などの平坦な腫瘍からも発癌します。鋸歯状腺腫の中でも無茎性鋸歯状腺腫(sessile serrated adenoma)と呼ばれるタイプの鋸歯状腺腫は、右側結腸に多く、高メチル化とBRAF変異を伴います。同じ特徴を持つBRAF変異(+)高メチル化大腸癌は、鋸歯状経路によりこれらの前癌病変から発癌すると考えられます。鋸歯状腺腫は高メチル化を示しますが、MLH1遺伝子のメチル化レベルはそれほど高くなく、MLH1蛋白の発現消失は一部の腺管にとどまります。実際遺伝子変異を解析すると、鋸歯状腺腫の段階ではあまり変異は多くありません。癌になると、MLH1遺伝子のメチル化レベルは上昇し、MLH1蛋白も消失して、マイクロサテライト不安定性とともに多くの遺伝子の変異を示します。多くのミスマッチ修復遺伝子もその変異遺伝子群には含まれ、メチル化により消失するMLH1だけでなく、多くのミスマッチ修復蛋白の破綻により高変異形質を獲得していると思われ、PI3K, WNT, TGF-βシグナル関連遺伝子の変異を有意に高頻度に認めます。がん遺伝子Ras/Rafの活性化による早期細胞老化において重要な役割を果たすBMPシグナルも高頻度に変異します。しかしMSS大腸癌で高頻度に認めるTP53変異は高メチル化大腸癌ではほとんど認めません(図)。

図.鋸歯状経路での高メチル化大腸癌発癌と高変異形質


 これらの異なるエピジェノタイプは散発性大腸癌だけでなく遺伝性大腸癌にも存在します。胚細胞性APC変異を持つ家族性大腸ポリポーシス症例の腺腫・癌を同様にメチル化解析すると、鋸歯状経路発癌の特徴を持つBRAF変異(+)高メチル化群は存在せず、KRAS変異(+)および右側大腸と強く相関する中メチル化群と、癌遺伝子変異(-)および左側結腸と強く相関する低メチル化群の、少なくとも2群が存在すること、それぞれのエピジェノタイプから癌が発生し得ること、がわかります。これら異なる2群の腺腫・癌は、同一症例の大腸内にも発生することから、大腸には遺伝素因とは無関係な、環境要因が関与する2つ以上の発癌分子経路が存在することが示唆されます。

図.家族性大腸ポリポーシス症例のエピジェノタイプ