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アレルギー疾患の遺伝学ホームページ Genetics of allergic dieases

アレルギー疾患の遺伝子 allergic disease genes

updated 2012/03/20
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はじめに

アトピー(特異IgEが陽性)、総IgE値、喘息、アトピー性皮膚炎などと有意な相関を示したとする遺伝学的研究の報告は、2006年のOrberの総論[1]の時点で120、その後の2年間で53の遺伝子が追加されている。これまでの研究の総括から、大部分の遺伝子多型の表現型におよぼす影響が単一遺伝子病のようには大きくないこと、病気の定義(表現型の定義)の問題、遺伝子多型の効果が環境要因などの影響を受けるため、遺伝子解析研究の結果は再現性が乏しいということが共通認識になってきた[2]

2009年、Daleyらは、喘息、アトピー、アトピー性喘息、気道過敏性などと相関が陽性に報告されたことのある93の遺伝子について、再検討を行った[3]。調べた遺伝子多型の数で補正した場合、有意と判断される遺伝子は無く、遺伝子単位での補正で、4種の表現型と相関していると見なされたものは12遺伝子(13%)となった。2010年、著者らは、日本人の小児気管支喘息、成人気管支喘息、アトピー、総IgE値を対象として、23の最も有望な候補遺伝子を選んで検討したが、多重比較を考慮しない基準でも、いずれかの表現型と相関が示唆されたものは11遺伝子となり50%を下回るということを報告した[4]。又、観察された多型のオッヅ比(OR)でみると、Daleyらは1.4以下、筆者らの研究でもIL13SNPOR3.01である以外は1.28-1.56の範囲であった。

喘息

 

多因子遺伝子病の遺伝学的または遺伝子解析による疾患感受性遺伝子の同定は、1990年頃より、技術的に可能となってきた。当初は、連鎖解析の手法を拡張した「罹患同胞対解析」と、生物学的情報から関与が予想される遺伝子、すなわち候補遺伝子を取り上げ、症例と対照について遺伝子多型を調べ疾患との相関をみる「候補遺伝子の相関研究」の二つの方法論がとられた。前者のアプローチから、初めて大きな成果を上げたのは、2002年のADAM33遺伝子の同定であった[1]。その頃になると、アレルギー疾患の感受性への遺伝子多型の影響にあまり大きいものはなく、十分な統計学的検出力を得るために、数百、数千例のサンプルが必要であることが認識されてきた。罹患者の同胞や両親のサンプルが必要となる連鎖解析は、症例対照研究に比べて、サンプル収集において不利であり、候補遺伝子の症例対照研究が主流となってゆく。

候補遺伝子アプローチからの研究は多いが、「喘息」に関連する遺伝子だと自信を持って言えるまでには、当初の報告から複数の研究が追試をして陽性の結果が多く蓄積するまで数年かかる事が多い。喘息や関連する表現型(IgE値、気道過敏性など)と関係する遺伝子として再現されているものが多いものを、2008年にVercelliが発表している[5]。表1にその表を示しておく。すくなくとも5つの研究で、有意(その研究ごとにこの内容は非常に異なる)とされたもので、メタアナリシス(複数の研究を統合して有意かどうか判断する、統計学的に認められた方法)の結果ではないが、2012年の時点でも、喘息(あるいは関連表現型)の感受性を決める疾患関連遺伝子と考えても良いと思われる。


表1 喘息関連遺伝子

遺伝子

染色体上の位置

機能

主な多型

関連陽性となった研究数

ADRB2

5q33.1

気管支平滑筋の弛緩

Arg16Gly, Gln27Glu

42

HLA-DRB1

6p21

抗原提示

Multi-SNP alleles

30

IL4R

16p12.1

IL-4IL-3の受容体(α鎖)

Ile50Val, Glu551Arg

30

IL13

5q31

Th2細胞の機能増強

-1112C/T, Arg130Gln

26

CD14

5q31.1

自然免疫の分子、微生物、内毒素との結合

-1721G/A, –260C/T

24

TNF

6p21.3

炎症促進

-308G/A, –857C/T

21

FCERIB

11q13

IgEの高親和性受容体

Ile181Leu, Gly237Glu

21

IL4

5q31.1

Th2細胞の分化・増殖とIgE産生の促進 

–589C/T, +33C/T

20

IL10

1q32.1

Th1細胞の分化・増殖、アレルギー反応抑制

-1082A/G, -571C/A

13

HLA-DQB1

6p21

抗原提示

Multi-SNP alleles

12

STAT6

12q13

IL-4IL-13のシグナル伝達系の転写因子

2964G/A, (GT)n exon 1

12

ADAM33

20p13

細胞間、細胞・マトリックスの相互作用

Multiple SNPs

12

LTA

6p21.3

炎症促進

NcoI (intron 1)

11

GSTP1

11q13

酸化物質の解毒

Ile105Val

11

CTLA4

2q33

T細胞の機能調節

–318C/T, 49A/G

9

CCL5

17q12

単球、T細胞、好酸球の遊走因子

–403A/G, –28C/G

9

GSTM1

1p13.3

酸化物質の解毒

+/null

8

CC16

11q12.3

気道上皮

38A/G

8

IL18

11q23.1

IFNγTNFの分泌刺激

–656T/G, –137G/C

8

NOS1

12q24.22

一酸化窒素合成酵素

3391C/T, 5266C/T

8

TGFB1

19q13.1

免疫調節、細胞増殖

–509C/T

8

FLG

1q21.3

上皮の構造の維持

Arg510X, 2282del4

7

TBXA2R

19p13.3

炎症のメディエーター、平滑筋細胞の収縮

924T/C, 795T/C

7

SPINK5

5q32

タンパク分解酵素からの保護

Glu420Lys

6

LTC4S

5q35

ロイコトリエンの合成酵素

–444A/C

6

GPRA

7p14.3

神経細胞の増殖のコントロール

Haplotypes

6

NAT2

8p22

薬物代謝酵素

Slow acetylation SNPs

6

CCL11

17q12

上皮由来の好酸球遊走因子

Ala23Thr, –1328G/A

6

HAVCR1

5q33.2

A型肝炎ウイルスの受容体

5383_5397del

5

HLA-DPB1

6p21

抗原提示

Multi-SNP alleles

5

CMA1

14q11.2

マスト細胞カイメース

BstX1, –1903G/A

5

ACE

17q23.3

炎症メディエーターの不活化

In/del

5

GSTT1

22q11.23

酸化物質の解毒

A/null

5

ゲノムワイド相関解析(genome wide association study: GWAS)は、ゲノム上の数十万個のSNPを一気に調べ、相関を検討するところから遺伝子のスクリーニングを開始する研究法である。GWASによる遺伝子の同定のアレルギー疾患分野における最初の成功例は、2007年の小児喘息におけるORMDL3遺伝子の報告[6]であろう。それ以降、アレルギー疾患の遺伝子解析は、GWASによる研究がブームとなっている。表2は、2010年までの小児気管支喘息に関連する研究である。GWASでは、ゲノムワイドの有意差(P<5×10-8)を求められるため、候補遺伝子の症例対照研究より一桁以上多い症例数、対照数を要求され、発表された結果の信頼性、再現性はGWAS時代以前に行われたものより高いと思われる。

 

 

表2 気管支喘息と喘息関連表現型に関するGWAS研究

遺伝子

染色体部位

表現型

人種

規模

再現性

研究者、発表年

ORMDL3

17q12-

12.1

小児期発症喘息

白人

994喘息、1,243対照

複数研究で再現

Moffatt

2007a

FCERIA

 

RAD50

1q23

 

5q23

Total IgE

 

アトピー性喘息

ヨーロッパ人

1,530全体

4つの独立サンプル(9769)

Weidinger

2008 a

IL1RL1

 

WDR36

 

MYB

 

IL33

212

 

5q22

 

6q23

 

9q24

血中好酸球数

喘息

アイスランド人

9,392全体

7,996喘息、

44,890対照

好酸球値

12,118ヨーロッパ人

5,212東アジア人

Gudbjartsson

2009 a

PDE4D

5q12

小児喘息

白人

359喘息

846対照

4,342喘息患者含む18,891人の白人

Himes

2009 a

TLE4

9q21.31

小児喘息

メキシコ人

492小児患者と両親

177小児患者と両親

Hancock

2009 a

a文献はHolloway 2010[2]を参照のこと。

 

2011年、白人集団に関する喘息についての大規模なメタアナリシス的な研究がNew England Journal of Medicineに発表された[6]。この研究では、23の研究、全体で10,365人の喘息患者と、16,110人の対照者をまとめて解析したものである。表2は、全喘息患者、全対照者、小児期発症の患者とそれに対する対照者、遅発性喘息患者とそれに対する対照者における約58万のSNPのタイピングについて、全喘息・全対照者の比較でゲノムワイドの有意水準をクリアした領域を示している。GSDMAGSDMBORMDL31つの疾患感受性座と見なされ、実質的に6つの遺伝子座が有意であり、それに次ぐものとして3つの領域があるという状況である。小児期発症喘息の方が、遺伝子多型との相関は強く出る傾向にあり、特にORMDL3/GSDMB/GSDMAは、小児期発症喘息に特有な遺伝子座とみられる。

 

3  ヨーロッパ系民族の大規模GWAS研究の結果

遺伝子

SNP

小児期発症喘息

遅発性喘息

全喘息

rs番号

OR  (95%CI)

P

OR (95%CI)

P

OR (95%CI)

P

ゲノムワイドに有意 (全喘息で P<7.2×10-8

IL18R1

rs3771166

0.85 (0.81–0.90)

1.1×10−8

0.94 (0.85–1.04)

1.9×10−1

0.87 (0.83–0.91)

3.4×10−9

HLA-DQ

rs9273349

1.14 (1.08–1.22)

1.9×10−5

1.26 (1.16–1.37)

3.9×10−8

1.18 (1.13–1.24)

7.0×10−14

IL33

rs1342326

1.27 (1.17–1.38)

1.6×10−8

1.12 (0.99–1.26)

6.8×10−2

1.2 (1.13–1.28)

9.2×10−10

SMAD3

rs744910

0.89 (0.84–0.93)

8.1×10−6

0.94 (0.87–1.0)

1.4×10−1

0.89 (0.86–0.92)

3.9×10−9

GSDMB

rs2305480

0.76 (0.72–0.81)

6.4×10−23

1.03 (0.94–1.13)

4.9×10−1

0.85 (0.81–0.90)

9.6×10−8

GSDMA

rs3894194

1.26 (1.19–1.33)

3.0×10−17

1.02 (0.94–1.11)

6.0×10−1

1.17 (1.11–1.23)

4.6×10−9

IL2RB

rs2284033

0.92 (0.87–0.97)

1.6×10−3

0.86 (0.80–0.94)

4.2×10−4

0.89 (0.86–0.93)

1.2×10−8

追加的な座位 (全喘息でP<5×10-7)

SLC22A5

rs2073643

0.89 (0.84–0.93)

7.6×10−6

0.94 (0.87–1.0)

1.5×10−1

0.9 (0.87–0.94)

2.2×10−7

IL13

rs1295686

0.85 (0.79–0.90)

3.3×10−7

0.94 (0.85–1.04)

2.6×10−1

0.87 (0.83–0.92)

1.4×10−7

RORA

rs11071559

0.88 (0.81–0.95)

1.0×10−3

0.78 (0.69–0.88)

5.7×10−5

0.85 (0.80–0.90)

1.1×10−7

OR: odds ratio; 95%CI: OR95%信頼区間

文献Moffatt 2010[6]より

Wu[7]は、メキシコ人の小児気管支喘息のサンプルに対して、ゲノムワイドにタイピングを行い、これまでの一度でも有意と報告された遺伝子230以上のSNPについて絞って検討を行った。遺伝子単位の有意差検定でP0.009以下の遺伝子として、IL11RL1TGFB1DPP10IL18R14つの遺伝子が再現されたとされ、表2の白人での結果とは異なっている。黒人の2つの集団のGWASからP10-5以下で有意とされた成人喘息の感受性遺伝子、ADRA1BPRNPDPP10が白人の集団では再現できないという報告[8]もあり、人種差は遺伝子解析の結果に大きく影響している。

アジア人については、2011年になって、日本人小児気管支喘息のGWASの結果が発表された[9]。本研究では、15歳未満の喘息と診断された小児978名と、対照としてアレルギー疾患がない成人2402名とを比較している。ゲノムワイドでの有意差(P<1×10-8)を示した5つのSNP6番染色体のHLA領域のものであった。3つのSNPについて、さらに1つの日本人、1つの韓国人の独立の症例対照集団での再現性の検討も行っている。その結果、HLA-DPA1HLA-DPB1の中間に位置するSNPがメタアナリシスで、P=2.3×10-10を示し有意と考えられた。このSNPのアレルのOR1.40であった。他の民族で喘息の感受性遺伝子とされた遺伝子の再現性をみると、P値が0.05以下を有意とする緩い基準としてみた場合、ORMDL3/GSDMB/GSDMAIL5/RAD50/IL13HLA-DR/DQSMAD3が有意の相関ということになったが、PEDE4DTLE4DENND1BIL18R1IL2RBは有意ではなかった。本研究から、日本人(東アジア人)の小児気管支喘息の主要な感受性遺伝子はHLA-DPA1/DPB1領域にあり、やはり白人での結果とやや異なる部分がある。

2011年には、野口らの報告に続いて理研を中心とした共同研究から、日本人成人喘息のGWAS結果が報告された[10]。小児喘息で見いだされたHLA領域にも関連が認められているが、全く同じ領域ではない。その他の位置として、既に報告されていた、TSLP-WDR36領域に加え、USP38-GAB1 (4番染色体)10q14の領域、12q13など計5箇所が有意と考えられている。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎の遺伝子解析に関する情報は、2010年、Barnesがまとめている[11]。候補遺伝子的アプローチからは、2009年の6月時点で、111の研究発表があったとしている。調べられた81の遺伝子のうち、半分以上にあたる46で少なくとも1回、陽性の結果が得られている。そのうち、15の研究では、相関が再現されなかった。13の研究では、最低1つの研究で再現されている。

 

 

アトピー性皮膚炎のリスクに関係する遺伝子の中で、最も頻回に調べられ、再現されたものはフィラグリンFilaggrin (FLG)遺伝子である。 FLGの機能喪失型の変異がアトピー性皮膚炎のリスクを大きく上げることは、2006年に初めて報告された[11]。フィラグリンは角化細胞から40万の分子量をもつプロフィラグリンとして分泌され、その後10から12個の分子量3万7千のフィラグリン蛋白となり、表皮におけるバリア機能と保湿機能に非常に重要な役割を担っている。ヨーロッパ人では、R501X2282del42種類の変異が一般集団で約4%のアレルに見つかるという。アトピー性皮膚炎の患者では、前者は18%、後者は48%のアレル頻度であったという[11]24の研究をまとめた大規模なメタアナリシスでも2つの変異は有意とされ、OR3を超えている[11]。日本人では、134人の対照と127人のアトピー性皮膚炎の変異の同定が行われ、表3に示すような変異が見つかっている[12]



 アトピー性皮膚炎の患者では、S2554XS2889Xが多いことが示されており、R501Xは見つからなかった。調べられた変異を合わせた場合、対照と患者のそれぞれ3.7%、26.7%が変異を持っていた。対照と患者の関連の検定のP値は1.2×10-で、優性モデルでのOR(その95%信頼区間)は、9.42 (3.63-24.45)と高い値を示している。また喘息のあり無しでアトピー性皮膚炎を分けた場合でも、疾患との相関は有意でありORはあまり変化していない。一方、137名の喘息患者との関連を調べてみると、表4に示したように、アトピー性皮膚炎のある喘息患者では、22%に変異があり、アトピー性皮膚炎の無い喘息患者では5.9%であり、前者と対照の相関のP=0.012OR7.37 (1.77-30.67)、後者と対照の相関は、P=0.556OR=1.6 (0.50-5.22)と明らかに対比をなしている。これらのデータから、FLG遺伝子の変異は、アトピー性皮膚炎の発症により強く関係していると考えられる。FLGは、喘息の発症、アレルギー性鼻炎、特異IgEの上昇との関連の報告[11]もあり、アレルギー疾患関連遺伝子の中で、遺伝子の個人差が表現型に与える変化が現時点で最も明確な遺伝子である。

 


アトピー性皮膚炎に関するGWAS解析からの研究報告は少ない。2009年にドイツ人についての解析[14]2011年に中国人での解析[15]が報告されている。前者では、11番染色体の11q13.5の領域を、後者ではFLG以外に新しい2カ所の領域(5q22.120q13.33)を見いだしている。


アレルギー性鼻炎


アレルギー性鼻炎に焦点を絞った研究は、喘息やアトピー性皮膚炎に比較し少ない。

ゲノムワイドの連鎖解析からは、デンマーク人の研究では、4番染色体の4q24-27の疾患感受性領域が見つかっている[16]。この領域には、喘息やアトピー性皮膚炎との関連が認められていないアレルギー性鼻炎独自の感受性遺伝子が想定されている。日本人については、筑波大のグループがカモガヤ花粉症について、罹患同胞対解析を行い、疾患と連鎖を示す複数の染色体上の領域(1p364q13.39q34.3など)を報告している[17]

 アレルギー性鼻炎において、候補遺伝子アプローチから、疾患との相関を見いだした研究を表6にまとめた。日本人と韓国人における研究の報告が多い。Nakamuraらは、3q21.3に存在するケモカイン受容体遺伝子のSNPを調べ、CCR1CCR2CCR3CCR5CCXCR1SNPとスギ花粉症との有意な相関を報告した[18]。また、筑波大のグループは連鎖解析で見いだされた4q13.3の領域をさらに詳細に調べ、インターフェロンγによって誘導される、CXC ケモカインの遺伝子(CXCL10CXCL11)、機能詳細不明のSDAD1遺伝子を含む領域と疾患の相関を示している[19]。韓国人ではRANTES (CCL5)遺伝子[20]、エオタキシン-3(CCL26)遺伝子のSNPとアレルギー性鼻炎の相関が見いだされている[21]

サイトカインとその受容体、特にTh2型サイトカインと受容体の遺伝子群は、アレルギー性鼻炎の病態から有力な候補遺伝子としても検討されてきた。IL18 [22,23]IL28RA [24]IL13 [25]で有意な相関があったと報告されている。1L13IL4IL4Rは表1にも示される様に、喘息ないしアトピーで繰り返し疾患との相関を示すSNPが報告されているが、アレルギー性鼻炎に関しては、Kimらの研究[25]では、IL4RGln551Argと疾患の有意な相関はみとめられず、日本人での検討[26]ではスギ花粉症とIL-13Arg110Glnの相関は有意ではなかったという結果も報告されている。また、IL-12Bの複数のSNPとアレルギー性鼻炎を検討したが、相関が検出されないという結果[27]もあり、アトピー、喘息、アトピー性皮膚炎での結果との相違がしばしば認められる。最近報告されたGATA3IL13と遺伝子のアレルギー性鼻炎との相関は923名のコホート研究での結果であり、かなり信頼性が高い結果と思われる。10才時のアレルギー性鼻炎の発症へGATA3SNPの効果が単独でも認められ、IL-13SNPとの相乗効果があるという結論となっている[28]

Nakayama[29,30]は、日本人のスギ花粉症患者とEosinophil peroxidase (EPO)遺伝子のSNPの相関を報告している。

LTC4S遺伝子のA-444Cとアレルギー性鼻炎[31]CD14-159C/Tと通年性アレルギー性鼻炎[32]ADAM33の複数のSNPとスギ花粉症との相関も報告されている[33]

 

6 アレルギー性鼻炎の候補遺伝子

機能

 

染色体の位置

対象集団

遺伝子と多型

文献

ケモカインとその受容体

3p21.3

 

 

 

 

 

4q21

17q11

7q11.2

日本人

 

 

 

 

 

日本人

韓国人

韓国人

CCXCR1 (111A/G, Arg127Cys, Arg252Gln)

CCR1 (885T/C)

CCR2 (Val64Ile, 780T/C,)

CCR3 (51T/C)

CCR5 (Arg223Gln)

 

SDAD1, CXCL9, CXCL10, CXCL11 (ハプロタイプ)
RANTES (CCL5)(-403G/A-23G/C)

Eotaxin3 (CCL26) (+279T/G)

[18]

 

 

 

 

 

[19]

[20]

[21]

インターロイキンとその受容体

11q22

1p36.11

 

11q22

5q31

10p15

5p31

チェコ人

韓国人+中国人

韓国人

韓国人

ワイト島

IL8 (-607C/A)

IL28RA (32340G/A)

 

IL18 (-607C/A)

IL13 (2044G/A)

GATA3 (rs1058240)

IL13 (rs1800925)

[22]

[24]

 

[23]

[25]

[28]

好酸球

17q23

日本人

EPO (Pro357Leu, 660A/G, Pro358Leu)

[29], [30]

ロイコトリエン

5p35

トルコ人

LTC4S (-444A/C)

[31]

その他

5q31.1

20p13

 

17q22

1q21

韓国人

日本人

 

韓国人

トルコ人

CD14 (-159C/T)

ADAM33 (7575G/A, 9073G/A, 12540C/T, 10918G/C, 12433T/C, 12462C/T)

FOXJ1 (-460C/T, 1805G/T, 3375G/C)

FCGR2A (His131Arg)

[32]

[33]

 

[34]

[35]

 

アレルギー性鼻炎のGWASの報告はほとんど無かったが、2011年以降報告されるようになった。シンガポールの中国人を対象としたGWASは、515名のアトピー(456のアレルギー性鼻炎)と486名のコントロールを比較し、上位のSNPを、2322名のアトピー(676のアレルギー性鼻炎)と511名のコントロールで確かめるという方法をとっている。MRPL4BCAP遺伝子のSNPとの関連が再現されたとしている[36]

さらに、4つのコホートを合わせて、アレルギー性鼻炎については、患者3933例、コントロール8965例、草に対する感作2315例対10032例のコントロールを対象にしたGWASのメタ解析[37]が行われ、HLR-DRB4が感作に対し10-9台のP値を示し、以前にアトピー性皮膚炎との関連を報告されていた、C11orf30/LRRC32SNPはアレルギー性鼻炎と感作に関してゲノムワイドに有意な相関を示したと報告している。さらに、5番染色のTMEM232/SLC25A46も有意なローカスとして見いだされた。

遺伝子解析研究の意義と限界


GWASを用いる遺伝子解析は、事前の生物学の知識に基づかない新たな疾患関連遺伝子の同定が可能で、候補遺伝子的アプローチより、労力がかかるものの、パラダイムシフトを起こしうる可能性がある研究法である。ADAM33ORMDL3など、候補遺伝子アプローチでは見いだされなかったであろう遺伝子の同定が病態の理解の進歩と新たな治療法開発への可能性を示した意義は大きい。

見つかってきた遺伝子の多型からアレルギー疾患の発症予測は可能であろうか?多くのアレルギー関連遺伝子の多型は表現型に対する影響が小さいため、表現型の発現を十分表現するためには、多くの多型が必要となる。あるシミュレーションでは、相対リスクとして1.5の因子が50個あると、臨床診断の指標であるArea under the ROC curveの値が0.8となる[37]。これから推定すると、ORにして1.5以下がほとんどのアレルギー関連遺伝子多型を利用するとすれば、アレルギー疾患の発症を十分に予測するために50を超える多型が必要となり、現時点では、発症予測のために十分な数の遺伝子多型見つかっていないことになる。

現在、アレルギー疾患の発症予測に最も役立つ可能性のある遺伝子はフィラグリン遺伝子であろう。前述のように、この遺伝子の変異を持つと、アトピー性皮膚炎になるリスクは数倍以上に高くなるようである。今後日本人における、正確な遺伝子変異のリスクの評価、環境要因との関連についてのコホート研究が今後望まれる。

 

文献

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アレルギー疾患の遺伝疫学
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