サイトマップ
HOME STAFF 診療内容 研究内容 関連病院 開業・他
肺動脈性肺高血圧症

呼吸と循環の接点:肺循環障害 疾患について 臨床例

呼吸と循環の接点:肺循環障害
 右心室から拍出された血液のほとんどは肺血管を経由して左心室に戻る。安静時では、この肺毛細血管を血液が通過する0.3秒くらいの間にガス交換が行われ、生体に酸素が取り込まれ、炭酸ガスが排出される。肺循環系は体循環系と比較して明らかに低圧系である。この機序(なぜ低圧系なのか)は実は必ずしも明らかではないが、肺循環は体循環とは異なる形態・機能を有しているのは確かである。

 この肺循環系に何らかの傷害が生じ、肺血管のリモデリング(組織改築)が異常に生じた病態が肺高血圧症である。肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension : PAH)発症に関係する遺伝的素因の一部であるBone morphogenic protein receptor type II(BMPR II)遺伝子異常に関して最初に報告されたのが2000年である。BMPR II遺伝子は肺血管細胞における増殖および細胞死に関係する遺伝子であり、この遺伝子異常は肺血管平滑筋増殖を招き、肺高血圧症の成立に繋がる。肺高血圧症の発症機序を解明するためには、BMPR IIなどの遺伝的素因、epigenetics、自己免疫反応、幹細胞、腫瘍抑制性遺伝子、炎症、感染などさまざまな角度から、なぜアポトーシス抵抗性細胞の増殖が起こるのか等を探っていく必要がある。PAH肺血管内皮細胞における増殖異常は、腫瘍性病変の成立過程と共通の部分があると考えられている。正常の肺血管内皮細胞は、Shear stressに対しても障害を受けずに保たれるようになっている。血管内皮細胞障害が契機になって生じたアポトーシス、あるいは血管周囲の炎症細胞によるフリーラジカルの産生は、TGF-β受容体・Baxなどの細胞増殖制御遺伝子の変異を引き起こし、PAHにおける血管内皮細胞のmonoclonalな増殖を起こすという仮説が考えられる。

 現状では、機能的肺血管の収縮をできるだけ肺血管特異的に(体循環への影響は少なく)解除することが治療目標である。プロスタサイクリン(PGI2)、エンドセリン、フォスフォジエステラーゼ-5などを介した機序で肺血管平滑筋の弛緩を目指している。それらの機序は、長期的には肺血管の器質的変化の改善に繋がる可能性はあるが、血管構成細胞増殖に対しては修飾因子と思われる(図)。21世紀の呼吸器内科学では、肺高血圧症において肺血管の器質的変化が惹起される機序の解明、それに対する治療戦略が課題になる。
図. 肺高血圧症の進展に影響する要因
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
疾患について
概念・定義 疫学的事項 成因 病態 臨床症状
診断 治療方法 経過・予後 看護・管理・QOL

概念・定義
 肺高血圧症の基礎疾患となりうる心肺疾患がなく、原因不明の高度の前毛細血管性肺高血圧症を原発性肺高血圧症(Primary pulmonary hypertension : 以下PPH)とよんでいた。
 1970年、Wagenvoortらは、51施設において臨床的にPPHと診断された156剖検例についての病理組織学的検討を行い、それらのうち肺動脈中膜肥厚、内膜の同心円状線維化を認める110症例を肺血管攣縮による原発性肺高血圧症と呼び、1つの疾患単位としうることを明らかにしている。また、WHOでも1973年専門家会議を開き、PPHの診断基準、概念の統一などに関する報告を行っている。
 その後我が国においても、昭和50年度より厚生省特定疾患原発性肺高血圧症調査研究班(班長:笹本浩)が設置され、PPHの診断基準が作成された。また、平成8年度からの厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班(班長:栗山喬之)においても、調査対象疾患の1つとしてPPHがとりあげられ、近年の診断技術の進歩に対応できるようにPPHの診断基準の一部改訂が行われている。さらに、1998年フランスのエビアン、2003年ベニス、2008年ダナポイントのワールドシンポジウムにて、膠原病、先天性心疾患、門脈圧亢進症などの疾患で、機序は不明であるが高度の肺高血圧を合併する症例が存在し、その肺血管の組織学的所見や臨床病像はPPHと共通点が多いことから、これらを一括して肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension : PAH)と命名することが提唱された。ベニス分類では、PPHの一部は遺伝的素因が明らかになったことから、用語としてのPPHの使用は避けられることになった。2008年ダナポイント分類では、従来のPPHは特発性「IPAH」と遺伝性PAH「Heritable Pulmonary Arterial Hypertension」とになった。また膠原病、先天性心疾患、門脈圧亢進症などに合併する肺高血圧症については「Associated with PAH:APAH」と記載された(表参照)。

肺高血圧症の臨床分類(Dana Point分類2008年)
1. 肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension : PAH)
1.1. 特発性(Idiopathic Pulmonary Arterial Hypertension : IPAH)
1.2. 遺伝性(Heritable)
1.2.1. BMPR2
1.2.2. ALK1, endoglin (with or without hereditary hemorrhage telangiectasia)
1.2.3. 不明(Unknown)
1.3. 薬物/毒物誘発性
1.4. 各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(Associated with PAH:APAH)
1.4.1. 膠原病
1.4.2. HIV感染
1.4.3. 門脈圧亢進症
1.4.4. 先天性シャント性心疾患
1.4.5. 住血吸虫症
1.4.6. 慢性溶血性貧血
1.5.  新生児遷延性肺高血圧症(Persistent pulmonary hypertension of the newborn)
1’. 肺静脈閉塞性疾患/肺毛細血管腫症(Pulmonary veno-occlusive disease:PVOD/Pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)
2. 左心疾患による肺高血圧症(PH owing to left heart diesease)
3. 呼吸器疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症(PH owing to lung disease and/or hypoxemia)
4. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(Chronic Thromboembolic Pulmonary hypertension : CTEPH)
5. 原因不明および/または複合的要因による肺高血圧症(PH with unclear multifactorial mechanisms)
5.1. 血液疾患(Hematologic disorders) : myeloproliferative disorders, splenectomy
5.2. 全身性疾患(Systemic disorders) : sarcoidosis, pulmonary Langerhans cell histiocytosis: lymphangioleiomyomatosis, neurofibromatosis, vasculitis
5.3. 代謝疾患(Metabolic disorders) : glycogen storage disease, Gaucher disease, thyroid disorders
5.4. その他(Others) : tumoral obstruction, fibrosing mediastinitis, chronic renal failure on dialysis
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
疫学的事項
 肺性心の剖検例のうち約1%にPPHが認められたとの報告はあるが、PPHの正確な発生頻度は不明である。1983年のMcDonnellらの報告では、約40年間での17901例の剖検例のうちPPHは0.13%に認められたとしている。我が国において行われた全国調査の成績では、1974年に65施設より147例が、また1991年には142施設より272例のPPH症例の収集が成されている。しかしながら、本症の診断には右心カテーテル検査による前毛細血管性肺高血圧症の確認が必要であり、本検査が必ずしも全ての施設で行える検査とはいえないことからも、確定診断まで至らない症例も多く存在するものと思われる。
 1997年、厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班と特定疾患に関する疫学研究班の共同研究として、改訂されたPPHの診断基準をもとに本症の全国疫学調査が行われ、全国推計患者数は230人(95%信頼区間200〜260人)との結果が得られている。難病センターのホームページ(http://www.nanbyou.or.jp)によると平成20年度の全国のPPH認定患者数は1140例であった。毎年90人くらい増加してきている。平成20年度の全国平均の有病率は、人口100万人あたり8.92人と計算される。
 年齢分布は、0歳から70歳代の高齢者まで広くその発症が認められているが、一般に発症のピークは20歳から40歳までの若年者にみられる。男女比に関しては、小児では明らかな性差が認められないのに対して、成人のPPHは女性に多くみられ、その男女比は約1:2とされている。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
成因
 PAHの成因に関しては、いまだ明らかではない。しかしながら、PAHには、家族性に発症する例があり、約6%とされる。最近原因遺伝子の同定が進み、染色体2q33に存在することが報告された。さらなる検討で、bone morphogenetic protein receptor type II(BMPRII)の遺伝子異常によることが発見された。これは、家族性PPH(FPAH)の50-100%、孤発性のPPH(IPAH)の約25%において陽性とされる。しかしながら、本遺伝子異常を持っていても、PAHを発症する症例は10-20%に過ぎず、環境要因などの何らかのトリガーや他の遺伝子要因が加わって発症すると考えられる。さらに、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)に伴う肺高血圧症では、ALK-1(Activin receptor-Like Kinase1)の遺伝子異常が見いだされ、ともに、transforminggrowth factorβ(TGF-β)伝達系の障害との関連が示唆されてきている。
 他の病因解明の進歩について、以下に列挙する。

(1)血管収縮物質/血管拡張物質の不均衡
a. PAH患者において、トロンボキサン/プロスタサイクリン比の増加していることが報告され、プロスタサイクリン合成酵素発現遺伝子の欠損の報告がみられる。また、なによりPGI2療法が有用であることが明らかである。
b. エンドセリン-1が相対的にNOより過剰であり、NO吸入やET1受容体拮抗剤が肺高血圧症を改善すると報告がみられる。
(2)局所における血栓
PPH患者において、血小板凝集能の亢進がみられ、プラスミノーゲンアンチベーターインヒビター上昇、トロンボモデュリンの低下の報告がみられる。
(3)セロトニン
食欲抑制薬であるフェンンフルラミンやデクスフェンフルラミンがPPHの発症頻度を増加させ、これらはセロトニン分泌を活性化する。また、PPH患者では、血漿セロトニンレベルの上昇がみられ、これは肺移植後の患者でも持続しているとの報告がみられる。
(4)カリウムチャンネル
PPH患者からの摘出肺動脈の平滑筋細胞において、低酸素または薬剤により電位依存性カリウムチャンネル(Kvチャンネル)を阻害した場合には、血管収縮が生じることが報告され、食欲抑制薬もKv チャンネルを抑制することも報告されている。Kチャンネルの機能異常がPPHの病因に関与している可能性が 考えられる。
(5)細胞外マトリックス
重症PPH患者の肺動脈で、マトリックス蛋白の合成が持続的におこなわれていることが示唆されており、マトリックス蛋白合成阻剤がPPHの進展の制御に重要な役割を果たす可能性も考えられる。
(6)血管内皮細胞のモノクローナルな増殖
PPHのplexiform lesionにおける血管内皮細胞は、腫瘍でみられるようにモノクローナルであるのに対し、2次性肺高血圧症においては、モノクローナルでなないことが明らかにされた。最近、白血病治療薬で、PDGF阻害薬であるイマチニブ投与が本症に有効であったとの報告もみられ、腫瘍との関連も示唆される。
このほか、PPH症例でも抗核抗体などの自己抗体がしばしば陽性であること、混合性結合組織病(MCTD)に代表される膠原病に伴う肺高血圧症とその病態が極めて類似していることなどから、何らかの免疫学的異常の関与も考えられている。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
病態
 本症の病態の中心を成すものは、何らか機序による肺血管収縮と、中膜肥厚および内膜線維化や二次的な血栓形成による肺血管抵抗の著明な増加といえる。本症の病変部位 は、毛細血管より上流側に位置する末梢肺小動脈にあるため、肺毛細管楔入圧は正常であり前毛細血管性肺高血圧症に分類される。こうした右室に対する後負荷の持続的かつ進行性増大に対して、右室筋は肥大することにより収縮力を強め右室拍出量 を維持する。しかしながら、後負荷の増大が右室の限界以上もしくは進行が急激な場合、右室は適応不能となり、右室および右房の拡張をきたし右心不全状態が惹き起こされる。
 一般に、右室に対する血流抵抗の増大により右室拍出量が制限されるため、心拍出量 は低く、同時に体血圧も低値を示すことが多い。このため、体動などにより四肢の筋肉への血流が増加すると、脳血流の減少から失神をきたすこともある。本症では、動脈血酸素分圧(PaO2)は正常か軽度の低下にとどまることが多い。本症での低酸素血症の要因としては、低心拍出量 による混合静脈血酸素分圧の低下に加え、肺毛細血管レベルでの肺胞気との接触時間の短縮なども考えられている。しかしながら、右房の拡大や右房圧の上昇により卵円孔の再開通 が生じると、心内右左シャントのため著明な低酸素血症をきたすことがあり注意が必要である。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
臨床症状
 自覚症状として肺高血圧症に特異的なものはないが、初期には肺高血圧症に伴う症状がみられ、その後、病気の進展に伴い右心不全の合併による症状が加わってくる。労作時呼吸困難はPAHの初発症状として出現することが最も多く、診断確定時にはほぼ全例に認められる。このほか、易疲労感や倦怠感、胸痛、失神などを症状として訴えることが多い。また、稀ではあるが、左肺動脈の拡大により左反回神経麻痺が生じ、嗄声が認められることもあり注意が必要である。一般 に、初発症状出現から診断確定までの期間は平均2-3年とされている。
 理学所見としては、頻脈、手足の冷感、チアノーゼなどに加え、右心不全が合併すると、下腿浮腫や肝腫大などの所見が認められる。胸部聴診上では、II音の肺動脈成分の亢進が最も高率に認められ、このほか右心性のIII音、IV音も聴かれる場合がある。また三尖弁逆流が生じると収縮期心雑音が、肺動脈弁逆流がおこると拡張期心雑音も聴かれるようになる。さらに、肺高血圧症が著明になると、第2肋間胸骨左縁にて肺動脈の拍動が触診さらには視診にて確認できるようになる。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
診断
 上記臨床症状および検査所見などから肺高血圧症の存在が強く疑われた場合には、精密検査により二次性の肺高血圧症の可能性を十分否定しておくことが診断のポイントといえる。

血液・生化学所見
血液検査上、PAHに特異的な所見はなく、二次性の肺高血圧症を除外するためのスクリーニング検査として行われる。PAHでも一部の症例では、赤沈値亢進、γ-グロブリン増加、抗核抗体陽性などを示すことがあるが、膠原病に伴う肺高血圧症との鑑別のため、血清補体価や各種自己抗体の測定も必要である。また、PAHでは右心不全による肝うっ血などが無い限り、肝機能検査は正常であり、異常を示せば肝硬変や門脈圧亢進などの肝疾患の存在を疑う必要がある。
心電図
心電図では、100°以上の右軸偏位、V1でのR/S>1、V5でのR/S<1といった右室肥大の所見に加え、肺性Pなどの右房負荷所見なども認められる。
動脈血液ガス・肺機能検査所見
動脈血ガス分析では、PaO2の軽度の低下と同時に、PaCO2の低下も認められる事が多い。しかしながら、症例によっては動脈血液ガスが全く正常であったり、逆に右心系の負荷の増大により卵円孔の再開通が生じると、逆シャントのためPaO2の著明な低下が認められることもある。また肺機能検査では、心拡大などに伴い軽度の肺活量の低下のほか、肺拡散能の中等度以上の低下が認められる場合が多い。
画像診断
 □胸部X線
左第二弓の突出や右肺動脈下行枝の拡大に加え、心拡大なども認められる。一般にPAHでは末梢肺血管陰影が減少し、肺野末梢が明るく見えることが特徴とされ、これが心内シャント性疾患との鑑別点の1つともなっている。
 □肺換気血流スキャン
PAHでは、肺血流スキャンは正常もしくは解剖学的区域に一致しない不規則な斑状の血流欠損像を示すとされ、区域枝異常の血流欠損像が認められないことが、慢性血栓性肺高血圧症との鑑別点ともいえる。また、肺換気スキャンは正常である。
 □胸部CT
肺動脈主幹部の拡大、心室中隔の扁平化ないしは左室側への圧排などが認められる。また、造影CTにて肺動脈中枢側に血栓像のないことを確認しておくことも重要である。
 □心エコー
右室・右房の肥大および拡大に加え、心室中隔の左室側への圧排や奇異性運動などが観察される。また、最近ではドップラー法応用により、三尖弁および肺動脈弁での逆流波の流速測定から、弁前後での圧較差の測定が可能であり、肺循環動態の評価に有用とされる。また心エコーは先天性心疾患に伴う肺高血圧症および各種心疾患に伴う後毛細血管性肺高血圧症する意味でも不可欠の検査といえる。
右心カテーテル検査
前毛細血管性肺高血圧症の確認のため、肺動脈平均圧が25mmHg以上であり、かつ肺毛細血管楔入圧が12mmHg以下の正常値を示すことを確認する。さらに、心内シャントがないことも同時に確認しておくことが重要である。本検査は、肺高血圧の程度ならびに心拍出量といった肺循環動態の正確な評価を行う上でも必須の検査といえるが本検査に伴う不慮の事故もしばしば報告されており、施行にあたっては十分な注意が必要である。
認定基準
PPHは平成10年12月より、特定疾患の治療研究対象疾患に認定されていたが、平成21年10月に改訂版のPAH認定基準が厚生労働省特定疾患呼吸不全調査研究班により作成された。
肺動脈性肺高血圧症の認定基準
肺動脈性肺高血圧症の診断には、右心カテーテル検査による肺動脈性の肺高血圧の診断とともに、臨床分類における鑑別診断、および他の肺高血圧をきたす疾患の除外診断が必要である。
(1)主要症状及び臨床所見
① 労作時の息切れ
② 易疲労感
③ 失神
④ 肺高血圧症の存在を示唆する聴診所見(?音の肺動脈成分の亢進など)
(2)診断のための検査所見
① 右心カテーテル検査で
(a) 肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg 以上、肺血管抵抗で240 dyne・sec・cm-5以上)
(b) 肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg 以下)

② 肺血流シンチグラムにて区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性肺動脈性肺高血圧症では正常又は斑状の血流欠損像を呈する)

(3)参考とすべき検査所見
心臓エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること。
胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化
心電図で右室肥大所見
(4)肺動脈性肺高血圧症の臨床分類
以下のどのタイプの肺動脈性肺高血圧症かを鑑別すること。
特発性または遺伝性肺動脈性肺高血圧症
膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
HIV感染に伴う肺動脈性肺高血圧症
薬剤/毒物に伴う肺動脈性肺高血圧症
肺静脈閉塞性疾患、肺毛細血管腫症
新生児遷延性肺高血圧症

但し、先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症の場合は、手術不能症例、および手術施行後も肺動脈性肺高血圧症が残存する場合を対象とする。その際は、心臓カテーテル検査所見、心エコー検査所見、胸部X線・胸部CTなどの画像所見、などの検査所見を添付すること。
(5)下記の肺高血圧をきたす疾患を除外できること
以下の疾患は肺動脈性肺高血圧症とは病態が異なるが、肺高血圧ひいては右室肥大、慢性肺性心を招来しうるので、これらを除外する。
1. 左心性疾患による肺高血圧症
2. 呼吸器疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症
3. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
4. その他の肺高血圧症
サルコイドーシス、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、大動脈炎症候群、肺血管の先天性異常、肺動脈原発肉腫、肺血管の外圧迫などによる二次的肺高血圧症

但し、呼吸器疾患および/または低酸素血症による肺高血圧症では、呼吸器疾患および/または低酸素血症のみでは説明のできない高度の肺高血圧が存在する症例がある。この場合には肺動脈性肺高血圧症の合併と診断して良い。その際には、心臓カテーテル検査所見、胸部X線、胸部CTなどの画像所見、呼吸機能検査所見などの検査所見を添付すること。
(6)認定基準
以下の項目をすべて満たすこと。
① 新規申請時
1) 診断のための検査所見の右心カテーテル検査所見および肺血流シンチグラム所見を満たすこと。
2) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。
3) 肺動脈性肺高血圧症の臨床分類?〜?のどれに該当するのかを鑑別すること。
② 更新時
手術例と非手術例に大別をして更新をすること。
1) 参考とすべき検査所見の中の心臓エコー検査の所見を満たすこと。
2) 参考とすべき検査所見の中の胸部X線所見か心電図所見のいずれかを有すること。
3) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。
4) 肺動脈性肺高血圧症の臨床分類?〜?のどれに該当するのかを鑑別すること。

なお、更新時には、肺高血圧の程度は新規申請時よりは軽減していても、肺血管拡張療法などの治療が必要な場合は認める。
肺生検
さらに詳しい除外診断および組織学的診断確定のため、肺組織の病理学的診断を加える場合もあるが、侵襲の大きいこと、病理学的所見が必ずしもPPHの成因や治療方針と結びつかないこと、さらに将来の肺移植などの際に胸膜癒着などの不都合な面が生じることなどから、欧米においても最近ではあまり施行されない傾向にある。
鑑別診断
 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
ともに労作時の呼吸困難を主症状とし、著明な前毛細血管性肺高血圧症を示すことから、両者の鑑別がしばしば問題となる。最も信頼できる鑑別点は、肺血流スキャンでの区域枝以上の血流欠損の有無であり、これが認められれば慢性血栓塞栓性肺高血圧症を強く疑う。このほか、下肢の深部静脈血栓症の合併や、著明な低酸桑血症の存在も本症を疑わせる所見といえる。本症は、PPHとは全く治療法が異なり外科的治療が可能であることから、その鑑別は臨床的に極めて重要である。PPHにおいても、特に重傷例では肺血流スキャンでの血流分布の不均一性が増強し、本症との鑑別が困難なこともしばしば経験される。こうした場合、胸部造影CTまたはMRIによる肺動脈主幹部の血栓像の有無や、さらには肺動脈造影による鑑別が必要なこともある。しかしながら、PPHでは右心カテーテル検査と同様に、肺動脈造影検査に伴う事故もしばしば報告されており、その実施にあたっては適応を含め十分な注意が必要である。
 膠原病に伴う肺高血圧症
皮膚症状や関節症状の有無、赤沈亢進、CRP高値などの炎症所見の有無を参考に、各種自己抗体の検査などから膠原病としての診断基準に当てはまるかどうか検討する。PPHにおいても、抗核抗体陽性やγ-グロブリン値増加などといった膠原病に類似した所見が認められることから、いずれの膠原病の診断基準をも満たさない場合には、PPHと臨床的に診断される。
 肝硬変ないしは門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症
肝機能検査成績に加え、腹部超音波エコーにて肝硬変の有無を確認する。また、ドップラーエコーによる門脈血流方向の確認や、門脈-下大静脈シャントの有無などを参考に門脈圧亢進の有無を診断する。症例によっては、確定診断のため門脈造影などが必要なこともある。
 肺動脈炎に伴う肺高血圧症
高安病に伴う肺動脈炎と特発性のものが知られているが、高安病に伴うものでは、脈の左右差や特徴的な眼底所見が鑑別点となる。肺血流スキャンでは、肺区域枝以上のレベルでの血流の低下ないしは欠損像がみられ、肺動脈造影では中枢側の比較的太い肺動脈に狭窄像や閉塞像が認められることが多い。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
治療方法
 本症の治療は、肺高血圧症進展防止のための抗凝固療法、肺血管拡張療法が中心であり、右心不全を合併する症例ではその対策が必要となる。予後不良な因子としては、NYHA・〜・度、右房圧上昇、平均肺動脈圧上昇、心係数低値、さらに混合静脈血酸素分圧低値があげられる。

(1)抗凝固療法
 本症の進行過程には、微小血栓が関与していると考えられており、過去の臨床試験において生命予後に対する有用性が示されていることから[、原則として全例で抗凝固療法を施行する。
(2)酸素療法
 本症では、安静時低酸素血症が認められない症例でも、心拍出量の低下のため末梢組織レベルの酸素化を反映していると考えられる混合静脈血酸素分圧が低いことを考慮し、積極的に在宅酸素療法を施行する。
(3)肺血管拡張療法
1. カルシウム拮抗薬
欧米ではカルシウム拮抗薬による大療法の有用性が報告され、肺血管反応性のある症例に施行される。本邦では、大量療法に耐えられる症例は多くなく、むしろ後述するベラプロストが使用される。
2. PGI2持続静注療法(Epoprostenol)
PGI2は、強力な血管拡張作用を有し、急性効果で血管拡張反応が不良であった症例においても、長期効果での有用性が得られている[6]。これは本剤が血小板凝集、粘着能抑制作用を有し肺動脈内での血栓を抑制すること、さらに血管における細胞増殖やremodelingを抑制する可能性も報告されているが、詳細は不明である。近年長期における肺血行動態改善効果の報告さらに、生命予後改善効果が報告され、米国NIHのPPHの調査では1年、3年、5年生存率77%、41%、27%であったのに対し、Barstらの報告では、87%、63%、54%と大幅に改善していた。
 PGI2は、中心静脈カテーテルより投与し、他の薬液と別の専用のラインを使用する。導入時には、以前は急性最大効果をみるために、右心カテーテルによる循環動態のモニター下に2ng/kg/minより投与開始し、副作用をみながら15-20分毎に2ng/kg/minずつ増量し、最大容認量より4ng/kg/min少ない量より開始する、とされていた。しかしながら、PGI2に対する急性血管反応性が見られない例にも慢性効果がある。用量設定試験に伴う重大な事故の可能性を否定できない。PGI2の開始量は極く低容量で開始し数日をかけて増量しても十分薬効を得ることが可能である。などより必ずしもPGI2導入時に用量設定試験を行う必要はないと考えられるようになった。現在は、0.5〜1ng/kg/minより開始し、以後自覚症状と臨床症状の改善を目安にゆっくり増量する(0.5〜2ng/kg/minを3日〜1週間毎に)のが安全と考えられているが、増量の程度や最大投与量などについての専門医の見解は確定していない。外来治療においては、長期血管内留置用のカテーテル(Hickman皮下トンネルカテーテル)と携帯用小型ポンプを使用する。その使用の際には副作用としての低血圧に対する対処、さらに留置カテーテルによる感染症などの合併症にも注意する。特に、右心不全の急性増悪時には本剤投与によって体血圧低下からショックに至ることがあるので、カテコラミン等で急性増悪を脱却することを優先すべきである。
PGI2治療が普及して以後、PGI2治療前の肺血行動態によって患者の予後を判定することが困難となった。近年、PGI2や次に述べるベラプロスト治療後のBNP(ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド)値が低い(180pg/ml)症例では、予後が良いとの報告がみられる。
3. ベラプロスト
本邦では、プロスタサイクリン誘導体であるベラプロストの肺循環動態改善の報告[27]、生命予後改善効果に対する報告がされている[28]。厚生省呼吸不全班の治療選択指針(案)では[29]、NYHA2度以下の症例、NYHA3度以上でも肺血管反応性があるものでは、使用すべきとされ、肺血管反応性がないものでは、PGI2持続静注療法を行うべきとされるが、詳細は本誌第9項を参照されたい。
4. エンドセリン受容体拮抗薬
エンドセリン受容体拮抗薬であるボセンタン投与にて肺血行動態、6分間歩行距離が改善した、との報告がみられ、わが国でも使用可能となりNYHAII、 III度の症例で選択される。
エンドセリン受容体A拮抗薬であるアンブリセンタンの発売も予定されている。
5. ホスホジエステラーゼ-5の阻害薬
 シルデナフィル(商品名レバチオ)は、NO依存性のcyclic GMPを分解するホスホジエステラーゼ-5の阻害薬であり、結果として、NOの濃度を高めることで、肺血管を拡張させる。
タダラフィル(商品名アドシルカ)は1日1回の服用で効果が認められて、わが国でも承認された。
6. 新しい治療薬
ファスジルなどRhoキナーゼ阻害薬やPDGF阻害薬も一部の難治性PAHに研究的な治療として用いられることがある。
(4)右心不全対策
過労・ストレスを避け、水分・塩分のとりすぎを避けるなど右心不全を予防する。右心不全症状出現時は、フロセミド等の利尿薬を基本とし、適否に問題はあるものの頻脈等のみられる場合強心薬も使用される。右心不全がさらに増悪しで低心拍出量・低血圧のみられる場合、ドブタミン(3〜10μg/kg/min)やドーパミン(3〜10μg/kg/min)を使用する。
(5)肺移植
PAHは、本邦の脳死肺移植待機症例で最も頻度の高い疾患である。PPHに対する肺移植の5年生存率は50%未満であるが、PGI2持続静注療法を始めとする最大限の内科治療にもかかわらず、病態の改善がみられない症例についてはその適応を考慮する。肺移植認定施設での適応検討、中央肺移植適応検討委員会での承認を受けた後、日本臓器移植ネットワークに登録する手順となっている。なお術式については、片肺移植が行われることもあるが、本邦ではその安全性からPAHについては、両側片肺移植が標準術式となっている。ドナー不足の現状から、近年、岡山大学を中心に、生体部分肺移植が試みられ、良好な成績が報告されている。

治療方針
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
経過・予後
 自然軽快例が報告されているものの、ほとんどの症例は進行性であり、右心不全から死に至ることが多い。一般 に、予後は極めて不良であり、診断確定からの中間生存期間は2.5-3年、5年生存率も40%前後とされてきたが、近年PGI2持続静注療法およびボセンタン使用によって予後の大幅な改善がみられるようになった。死因としては、右心不全が約50%と最も多く、このほか突然死も約25%にみられ注意が必要である。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
看護・管理・QOL
 日常生活での注意点としては、肺動脈圧を上昇させる可能性のあるものは避けること、および右心不全症状を悪化させないことが肝要といえる。過度の運動は、心拍出量 の増大から肺高血圧を悪化させ右心不全や不整脈を招くことがあるため控えさせる。喫煙および高所への旅行も、肺動脈圧の上昇をきたすため避けるように指導する。また、妊娠および出産を契機とした病態の悪化がしばしば報告されており、一般に妊娠は避けることが望ましい。PGI2療法使用例では、急速注入や停止によって、低血圧やショックをおこすこともあることから、近医や訪問看護、在宅管理システムとの連携をはかることが重要である。また、ポンプ不具合に対する対処、さらに留置カテーテルによる感染症などの合併症に対処する。このほか、水分の摂取量ならびに尿量を毎日チェックする習慣をつけさせ、体重も毎日ほぼ同じ時間に測定するように指導する。体重の増加や尿量の減少に加え、下腿の浮腫などが認められた場合、安静度を強めるとともに利尿剤の追加内服を行わせ、右心不全状態からの早期離脱を目指す。
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る

臨床例
心電図 胸部X線写真 肺換気スキャン 肺血流スキャン 胸部造影CT
肺動脈造影 肺動脈組織

心電図
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
胸部X線写真
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
肺換気スキャン
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
肺血流スキャン
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
胸部造影CT
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
肺動脈造影
項目の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る
肺動脈組織

このページの先頭へ戻る HOMEへ戻る