疾患と治療

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胃疾患

  • 胃癌とは
  • 診断
  • 治療
  • 治療成績
  • 内視鏡治療
  • 腹腔鏡手術

胃癌とは

 胃癌は胃の粘膜細胞から発生します。胃液や発がん性物質などの刺激にさらされることが原因となって癌が生じます。胃癌は粘膜から発生するので、胃の中から見ると早期に診断することが可能です。

 胃癌は日本人に多く、 40歳を越えたら、毎年検診を受けることが望ましいです。胃癌そのものは遺伝しませんが、血の繋がった方の中に胃癌にかかった人がいる場合は、注意が必要です。生活習慣が引き継がれていることが多く、同じ刺激が胃に加わっていると考えられるからです。また、胃癌になりやすい要素が遺伝していることも考えられます。

 診断力の向上によって胃癌は早期に発見されることが多くなりました。治療もお腹に傷のできない内視鏡治療の適応が拡大されています。手術も安全性の向上や腹腔鏡手術の導入・発展により、病状によるバリエーションも増えています。抗癌剤は手術とならない場合や再発例に投与されることが多く、成果を上げつつあります。胃癌の治療後も、多くの方が立派に社会復帰しています。

 胃癌という病気の理解を深め、早く診断し、治療方針を主治医とよく相談することが大切です。日本胃癌学会が一般の方向けに編集している『胃癌治療のガイドラインの解説(現在、第2版)』金原出版が参考になると思われます。

 胃癌の検診には胃X線検査、胃内視鏡検査、血中ペプシノーゲン値や腫瘍マーカーの測定が行われています。胃癌が強く疑われれば、胃内視鏡検査が行われ、病変の組織を採取して病理学的検索で確定診断します。

 胃癌の拡がり方で治療の方法が変わりますが、そのために胃X線や胃内視鏡の精密検査、超音波内視鏡検査を行います。

 転移の有無を見極めるために、腹部超音波・CT・胸部X線・注腸(下部消化管内視鏡)などの画像検査、血液検査を行います。

 当科に来院される前の病院で行った検査を参考といたしますが、治療方針の判断に迷う際は、同様の検査を再度させていただくことがあります。

(1) 内視鏡治療(別項目を参照ください

 この治療法は、早期の胃癌の中でも、リンパ節に転移のある危険性のほとんどないものに行われます。リンパ節に転移している可能性があっても、患者さんの体力が手術に耐えられない場合には、内視鏡による治療が行われることがあります。内視鏡治療で摘出した病巣を病理で検索し、治療が完結できるかどうかを調べます。取り残しの可能性・再発の危険があると判断した場合には、追加治療をお勧めしています。

(2) 外科療法

 従来からの、お腹を切る開腹手術と腹腔鏡下手術に大別されます。

(2-1) 切除範囲

 胃切除の範囲は、胃癌の部位と進行度によって決められます。胃の出口に近い部位(幽門部)に限局して病巣がある場合は、胃の出口の 2/3を切除する幽門側胃切除を行います。病巣が胃の入り口に近い部位(噴門部)に限局する場合や広範囲な場合は胃を全て切除する胃全摘術を原則としています。噴門部に限局した浅い早期癌の中で内視鏡治療の適応とならないものには、胃の入り口の約半分を切除する噴門側胃切除を施行しています。

(2-2) リンパ節郭清と周辺臓器合併切除

 病変から胃周囲のリンパ管に入ったがん細胞は、途中にあるリンパ節という関所に入ります。そこでがん細胞が増えたものがリンパ節転移です。その関所を越えるとさらに遠くのリンパ節に向かってがん細胞が拡がって行きます。最終的には大動脈の周りのリンパ節に達します。胃癌では胃のみならず、胃周囲や近くのリンパ節に転移している可能性もあるため、予防的にそれらのリンパ節も採ってきます。このことを“リンパ節郭清”と呼んでいます。

 胃癌が胃に連続する臓器(例えば食道)や隣接する臓器(例えば膵臓や大腸)などに及んでいる場合は、それらの周辺臓器を合併切除することがあります。

(2-3) 再建方法

 胃を切除した後は、食事が通るように再建します。(1)で説明した幽門側胃切除では主に胃と十二指腸をつなぐビルロートI法を行っています。最近では術後の胸焼けといった愁訴の少ないとされる、十二指腸を閉鎖して胃と空腸(小腸の口側の方)をつなぐ Roux-en Y (ルーワイ)法という手段を用いることが多くなりつつあります。

 胃全摘術でも Roux-en Y (ルーワイ)法や Roux- ρ Y (ルーローワイ)法を行っています。

 噴門側胃切除では食道と胃の間に空腸を入れる『間置法』という方法があります。当科では空腸を2つに折り曲げて袋状とするパウチを作製して再建しています。

(3) 化学療法

 胃癌の化学療法とは、経口薬・注射薬などの抗癌剤による治療を意味します。現在のところ、最善の治療は胃癌の切除です。しかし、病気の進行度や患者さんの体力の問題で切除には限界があります。そこで、手術不能な進行胃癌や再発例には化学療法を中心とした補助療法が有用と考えています。

 抗癌剤は保険適応となっているものもありますが、確立した薬剤や投与法はなく、今も研究が続けられています。当科では以下の補助化学療法を、奏効率(効果)と副作用を説明した上で行っています。

胃癌病期 II, III 例
→ TS-1 内服

胃癌の切除はしたが、癌細胞が体内に残っていると考えられる症例
→ TS-1 +レンチナン投与

胃癌切除不能例
→ 5-FU +アイソボリン投与

 胃癌の進行度は癌の胃壁深達度、リンパ節転移、遠隔転移(胃から離れた臓器への転移)の程度から4段階に分類されています。胃癌治療ガイドラインにある 1991 年日本胃癌学会全国登録症例(胃癌定型手術例)の病期別5年生存率は、 Stage Ia: 93.4% 、 Stage I b : 87.0% 、 Stage II: 68.3% 、 Stage IIIa: 50.1% 、 Stage IIIb: 30.8% 、 Stage IV: 16.6% です。

 当科の成績もほぼ同等です。

 胃疾患では胃癌を扱うことが多いのですが、下記の疾患も当科の治療対象としています。

  • 胃粘膜下腫瘍( GIST を含む)
  • 胃悪性リンパ腫
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍

内視鏡的粘膜下層切開剥離術(Endoscopic Submucosal Disection, 以下、ESD)

 早期胃癌に対する内視鏡治療は、外科治療と同等の治療成績があげられる治療法として現在広く行われています。この治療法の最大の利点は、手術と異なり胃が全部残せるということです。 治療後は一時的に潰瘍を形成しますが、次第に粘膜が再生され、ほとんど元のとおりになります。

 治療対称となる病変は原則として、一括切除できる大きさが適応基準となっており、以前は大きさに制限がありました。これは、大きな病変は分割切除となり正確な病理診断が出来ず、遺残再発が10~20%認められるからです。しかし、国立がんセンターで IT ナイフが開発されてから大きな病変でも一括切除可能となり、適応の拡大方向となりました。

 教室でも 2002年10月よりESDを開始し適応を拡大しています。現在は胃がん治療ガイドラインに準じ、(1)分化型 m 癌 UL(-)であれば大きさは問わない、(2)分化型 m 癌 UL(+)なら3cm以内、(3)大きさ3cm 以内で分化型 sm1(~ 500 ミクロン) ly0 、 v0、(4)未分化型 m 癌 UL(-)であれば 2cm 以内、を内視鏡治療の適応としています。

早期胃癌に対するESD

  • 通常観察(上段左)
  • インジゴカルミン散布による観察(上段中)
  • 剥離操作(上段右)
  • 切除後(下段左)
  • 標本(下段中)
  • 術後1年の状態(下段右)

切除した標本は詳細な病理検索を行い、追加治療(手術)の必要性を検討します。

胃癌に対する腹腔鏡補助下手術

 胃の中央から出口に近い方の半分にできた癌の場合、胃の 2/3~3/4とその周囲のリンパ節を一塊として切除するのが一般的です。腹腔鏡補助下手術ではまずお臍の近傍に1.5 cmほどの穴を開け、そこから空気(二酸化炭素)をお腹の中に送り込み膨らませます。同時にその穴から腹腔鏡カメラを挿入し、テレビモニターで見ながらさらにお臍の周りに5~12mmの穴を4カ所あけ、数本の細長い手術器具を差し込み、お腹の外から操作して胃および付近のリンパ節を切除します。その後、剣状突起のやや下方に5~7 cmの傷口をあけ、そこから切除した胃を外に取り出し、残った胃と十二指腸を吻合します。切除する範囲や、胃と十二指腸の吻合の仕方は開腹手術と同じです。

上の画像をクリックすると動画がご覧いただけます。

よくあるご質問

Q1 すべての胃癌が腹腔鏡で治療できるのですか?

腹腔鏡で治療が可能かどうかはおもに癌の進み具合によって決まります。早期癌のうちリンパ節転移の可能性のないものは内視鏡(胃カメラ)で治療が行われます。また、癌が胃の外まで顔を出しているもの、広範なリンパ節転移( N2以上)を起こしているものに対してはまだ腹腔鏡手術の安全性が確立されているとは言えず対象から除外しています。当科では『胃癌治療ガイドラインの解説(第2版)』(金原出版)で示されているT1N0、T1N1、T2N0を対象としています。

Q2 このような小さな傷口で癌はちゃんと治るのでしょうか?

これまで当科で腹腔鏡手術を受けていただいた患者さんの成績を、同じような癌の進み具合で従来の開腹手術を受けられた患者さんの成績と比較してみました。右の表に示すとおり、切除された胃の大きさ、郭清されたリンパ節の数にはまったく差がありませんでした。また、これまで当科において腹腔鏡手術を受けられた胃癌の患者さんで 2005年6月までに再発をおこされた方は一人もいらっしゃいません。

Q3 従来の開腹手術と比べどのくらい体への負担が少ないのでしょうか?

怪我や病気などの際に、体が受けたダメージに比例して血液中のインターロイキン6というものの値が高くなります。このインターロイキン6の腹腔鏡手術後の値を従来の開腹手術を受けた患者さんのものと比較してみると約半分くらいになっていることがわかりました。また手術後の痛みを抑えるために使用している硬膜外麻酔を必要とした期間も約半分(約 2日)、手術後腸が麻痺している期間も約1日短く(約3日)なり、手術後必要となった入院期間も3分の2(約12日)で済むようになりました。

Q4 手術後の後遺症も少なくなるのでしょうか?

腹腔鏡で手術を行うと体の表面の傷口は小さくなりますが、体の中で行っていることは従来の開腹手術と同様であるため、胃の手術を受けていただいた後におこる特徴的な後遺症(胸焼けやダンピング症状など)に関しては変わらないと考えられます。ただし傷口に腸が癒着しておこると考えられる腸閉塞に関しては少なくなることが期待されています。