留学寄稿

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アメリカ東海岸留学:イェール大学

齋藤佑一(心血管コアラボ)

私は2018年5月よりアメリカのYale大学に留学しており、現在およそ半年が経過いたしました。留学記寄稿という貴重な機会を頂きましたので、僭越ながら私の留学について紹介させていただきます。

留学まで

Yale大学キャンパス
(のごくごく一部。筆者は近代的なビル内で仕事をしていますが)

私は医師3年目から多摩南部地域病院、千葉県救急医療センターで循環器内科医としての経験を積ませて頂き、5年目から千葉大学病院で勤務いたしました。日常臨床を行う傍ら大学院生として様々な臨床研究に取り組み、多くの同僚に囲まれ充実した日々を送っていました。一方で、興味が散漫だからか自分の「本当にやりたいこと」が分からず、悶々としておりました。そのような中で、違う世界を見てみるために留学することを決めました。留学先選びで重視したのは、英語圏で日本人がいない循環器系ラボ、ということだけでした。

私が現在所属しているのはYale Cardiovascular Research Group (Center)というところで、Yale大学循環器内科学教授のAlexandra Lansky先生をトップとするコアラボです。QFR (Quantitative Flow Ratio: 冠動脈造影画像から算出されるFFRのような生理的指標)に携わっていたことと、多くの心血管デバイス研究を行っていることから、興味を惹かれました。直接メールをして、電話や欧州心臓病学会でのインタビューを経て、留学するに至りました。コンタクトを取り出した後に知ったことですが、Lansky先生が小林教授の元同僚であったこともあり、お力添えをいただきました。

留学後

Lansky教授と

現在の私の所属先は、まさにコアラボです。単に画像の解析を行うということではなく、心血管デバイス企業と契約をして、その目的(例えばFDAのデバイス承認取得など)にかなうプロトコールを研究責任者らと作成することから臨床試験を開始します。アンギオ、IVUS、エコー、CT、心電図などの解析をし、臨床試験参加施設へのフィードバックを定期的に行い、臨床イベントのCEC (clinical event committee)で判定しています。その結果がまとめられて出荷され、論文となりデバイス認可などへとつながっていきます。現在、参加者数が100~2000程度の臨床試験が50以上並行して取り扱われており、心血管デバイス工場の様相を呈しています。研究しているデバイスも多岐にわたり、新規の薬剤溶出性冠動脈ステント、生体吸収性スキャフォールド、石灰化破砕バルーン、慢性完全閉塞貫通デバイスや、末梢血管の薬剤溶出性バルーン・ステント、動静脈のフィルター、透析用シャントへの薬剤溶出性バルーン、またTAVIにおける脳保護デバイス、左心耳・卵円孔閉鎖デバイスなどです。

私はこのような環境下で、コアラボの一員として活動しています。プロトコールへの提案や画像解析、CECとしてのイベント判定などを行いつつ、QFRを用いたデバイスの評価や大規模試験のサブ解析などに取り組んでいます。人の入れ替わりは激しいですが、ラボメンバーは皆良き仲間で、私の至らない英語にも付き合ってくれています。Lansky教授自身がスイス生まれのフランス育ちであり、ラボメンバーの出身もルーマニア、ギリシア、中国、インド、ジャマイカなど非常に多彩です。学生や画像解析専門のスタッフも多く、とてもシステマティックな構造となっているのが印象的です。分からないことも多いですが、コアラボというビジネスの世界で学んでいます。

Yale大学は、ニューヘイブンというニューヨークから車で1時間半くらいの距離の街にあります。Yale大学で基礎研究をしている日本人留学生が、「ニューヘイブンはつくば市のようだ」と言っていましたが、まさにYale大学の学園都市です。私はよくニューヨークへ遊びに行っていて、家族でこのような時間を多く過ごせるのも、留学の良いところだと感じています。娘はまだ1歳になったばかりですが、アメリカの人々はとにかく子どもに優しくフレンドリーで、今のところ穏やかな生活を送ることが出来ています。

まだ留学開始から半年が経過したところで慣れないことばかりですが、日本では経験できないことに多く触れ、医師としてだけでなく人間としても成長できればと思っております。留学後も千葉大学の同僚の先生方との仕事を継続しており、励みになっています。またアメリカで、西先生(スタンフォード大学)、加藤先生(チューリッヒ大学)、奥谷先生(徳島赤十字病院)など、国内外に出ている同門の仲間に会う機会があり、遠く離れても医局のつながりをありがたく感じました。未熟な私をご指導下さった千葉大学や関連病院、同門の先生方、親身になって相談に乗って頂き、現在もお仕事をくださる小林欣夫先生に心より感謝いたします。また、とにかく楽しい大学院生時代をともに過ごした冠動脈疾患治療部の同僚たちに、この場を借りて御礼申し上げます。