開業・他

ページタイトル画像

瀧澤 弘隆

瀧澤 弘隆(柏戸記念財団 ポートスクエア柏戸クリニック)

(財)柏戸記念財団ポートスクエア柏戸クリニックの事業

 当クリニックは、平成5年4月に同財団に併設された医療事業部に所属する小倉台、長洲と合わせた3クリニックの一つである。当クリニックの事業内容は、千葉ポートサイドタワー(Fig.1)の27階フロア(Fig.2)で、「信頼・安心・満足・元気の提供」の理念の下に午前は1日100人弱の受診者に人間ドック・健診を実施、午後は内科系外来を行い、22階フロアでは産業医活動、保健師保健指導、産業カウンセリング、労働衛生コンサルタント活動などを行っている。

(財)柏戸記念財団の沿革

 当財団は、昭和3年7月に初代柏戸留吉院長が千葉医大第二内科教授を退官された後に創立された柏戸内科医院を源泉としている。昭和34年6月に財団法人新日本老人病研究所が設立され変遷を経て昭和41年7月に財団法人柏戸記念財団に改称され、研究事業として医学研究奨励金制度が発足、第1回奨学金贈呈が行われ現在に至っている。呼吸器内科同門や千葉大学同窓にその恩恵を受けた医師が少なくない。現在は三代目柏戸正英先生が理事長である。

所長の経歴

 私は昭和44年に故渡邊昌平名誉教授が創設された呼吸器内科の創立メンバーの一人で肺癌を中心とした呼吸器疾患の臨床研究教育に従事した。胸部X線診断や気管支造影の実施に当たりつつ肺外科の気管支鏡検査に参加し技術の内科への導入を図った。昭和58年から平成12年までの17年間、栃木県北所在の栃木県厚生連塩谷総合病院で病院長として地域医療に励むと共に、300床の新病院への移転新築の総指揮を執る機会に遭遇し、平成4年に完成させ数年かけて運営を軌道に乗せた。
 平成13年に転機が訪れて現職に就き、産業医学と予防医学の分野に飛び込むことになった。一念発起して労働衛生コンサルタント資格を取得し、日本人間ドック学会認定医・専門医資格も得て、それらの分野における基礎力を培った。また、人口高齢化と共に関心の高まってきたアンチエイジング医学に対しても、今後における予防医学の大きなテーマと認識し、平成18年5月に日本抗加齢医学会に入会して研鑽を積んで同学会専門医に認定された。アンチエイジング医学は、「バランスの良い心身機能を維持しながら天寿を全うする」ことを目標としており、人間ドックとはひと味違った新鮮さと先進性があると感じている。

当クリニックの理念と活動

 平成17年10月に、それまで2個所で小規模に行っていた人間ドック施設を統合し高層ビルの27階に移してリニューアルオープンした。前年に、遠くは日赤熊本健康管理センターや千里LC健診センター、近くはJR東日本健康管理センターや聖路加国際病院・予防医療センターなど関東以西にある代表的な大規模人間ドック施設10施設を視察し、その長所を咀嚼して我々の体力と特性にマッチした形で取入れた。新たに打ち立てた当クリニックの理念「信頼・安心・満足・元気の提供」を基礎としたサービス精神、それを支えるハード面の「快適性」、ソフト面での「接遇」、「検査の正確性・迅速性」を根底に据えて、多様なニーズに柔軟に対応できるように機能を設計した。
 業務内容として、女性疾患にも十分に配慮した人間ドックを中心に、一般健診、特定健診、外来内科診療、産業医学活動、特定保健指導などを行っている。ストレス社会の中で発生するメンタルヘルス不全対策にも留意した。医師は、常勤、非常勤を問わず多くが産業医の資格を持ち、労働衛生コンサルタントも在職するため、人間ドック診療に当たって産業医学的識見を背景にして臨んだり、ドック項目以外にも必要に応じて特殊検診などを実施できる態勢が可能である。

死亡第1位の肺癌への挑戦:低線量CT肺がん検診

 低線量CT肺がん検診は、従来の単純X線写真の約10倍の検出率を示し早期肺癌診断の有力なツールとして全国的普及を見つつある。当施設でもオプションとして実施し、気管支鏡下切除が可能であった左上葉気管支幹発生肺癌など中心型を含む早期肺癌を発見している。その成果も含めて昨年9月第50回日本人間ドック学会学術大会長指定ワークショップで講演し、低線量でCT検診を行う事の重要性とリスク別の検診間隔設定の意義ついて述べた1)。また、日本人間ドック学会会員施設を対象とした行った胸部CT検診に関するアンケート調査2)を契機として、平成22年4月に同学会学術委員会「低線量CT肺がん検診推進小委員会」実行委員長を拝命し現在に至っている。

脳梗塞バイオマーカー「アクロレイン」の開発研究と実用化への協力

 大学等からの共同研究の呼び掛けに積極的に応じており、実用化されたものにアクロレイン検査(株式会社アミンファーマ研究所)がある3)。千葉大学大学院薬学研究院五十嵐一衛名誉教授の下で開発された「無症候性脳梗塞」の高感度検出が可能な血中物質で、千葉県内11医療機関が参加してその有用性を証明した。現在有料オプション検査として人間ドック受診者に利用して頂いているが、脳ドックの一部の機能を低廉な料金で代用できるところから利用者の関心が高い(Fig.3)。

肝線維化マーカーの開発への協力

 千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学野村文夫教授の下で研究されていたプロテオミクスの肝疾患検出法研究の結果、肝線維化を初期段階で検出できるマーカーFIC5.9を開発し、現在実用化に向けて試験を行っている。当クリニックでは受診者に呼び掛けてボランティア参加者を募り、インフォームド・コンセントを行って対照群血液の提出に協力して頂いている。

地域医療連携パスとPSA

 地域医療連携の一環として泌尿器連携パスに参加している。千葉泌尿器科地域連携協議会に入会し、千葉県がんセンターと提携して前立腺癌の術後患者や前立腺癌疑い者に対して定期的に問診とPSA検査を行い、受診者の利便性向上と専門病院の外来負担軽減に貢献している。受診者が連携パスに移る際には、専門病院にある連携施設の紹介パネルを見て受診先を決める仕組みである。連携側としては、PSAが非常に分かりやすい指標であるため、非専門医でもストレスなしに担当できる利点がある。最近この活動が、日経メディカル誌の特集「癌患者引き受けます!」で「非専門でも頼れるマーカーPSA」として紹介された4)。

当クリニックの教育機能

 平たく言えば若い先生方が知識経験を深めるためにどのように当クリニックを利用できるかと云う観点から述べてみたい。
 27階クリニックでは人間ドック・健診を毎日午前中に行っているので、システムの機能や診察業務の見学が可能である。また、毎日100人近く発生する胸部X線写真を2人の医師がダブルチェックし小生が第二読影を担当しているが、それらの読影結果と比較することで初心者にとって正常バリエーションと異常パターンを集中的に学習する良い機会になり得ると考えている。低線量胸部CT検診検出例では、過去に診断されたGGO、Part-solid、Solidの各タイプや気管支発生の中心型肺癌症例について学習が可能である。
 22階の保健指導部では、多数の産業医と保健師(常勤、非常勤)、産業カウンセラーが在籍し、事業所と契約して産業医活動や保健指導、カウンセリングを行っているので、活動状況の見学が可能である。

当クリニックの立地条件

 当クリニックは問屋町ポートスクエアに立つ高層建築千葉ポートサイドタワーにあり、冬季には東京湾越しに富士山の遠望(Fig.4)を楽しむことが出来る。交通機関として定期バスが運行されているが、千葉駅からの徒歩で15分程度である。また、地下駐車場が整備され1,200台が駐車できる構造である。

おわりに

 当クリニックは大学から近い距離にあり、研修医の皆さんには気軽に訪れて予防医学と産業医学の一端に触れて頂きたいと願っている。

追記

 空前の惨禍をもたらしたこの度の東日本大震災(平成23年3月11日14:46、M9.0)は、千葉では震度5であったが、その時27階で外来診療に当たっていて免震ビル高層階での大きな揺れを初めて味わった。被害は人にも大型機器にも及ばず、翌日からの診療業務に支障が出なかった幸運に深く感謝したい。それ以上に、災禍に巻き込まれた犠牲者の皆様のご冥福を衷心から祈念し被災地の一日も早い復興を願わずにはいられない。

文献

  1. 瀧澤弘隆:低線量CT肺癌検診の果たす役割.人間ドック 2010; 24(Suppl):121-126 .
  2. 瀧澤弘隆:日本人間ドック学会会員施設における胸部CT検診に関する実態調査報告.報告.人間ドック 2009: 24(3):7-14.
  3. Yoshida M, Tomitori H, Machi Y et al: Acrolein, IL-6 and CRP as markers of silent brain infarction. Atherosclerosis 203: 557-562, 2009.
  4. 日経メディカル2009年10月号58-59ページ.

Fig.1 千葉ポートサイドタワー外観-27階に当クリニック-

Fig.2 ポートスクエア柏戸クリニック エントランス付近

Fig.3 アクロレインによる脳梗塞リスク

Fig.4 当クリニックからの夕焼け富士遠望(右は千葉ポートタワー)

業績・報告

ANTI-AGING MEDICINE別冊

肺癌検診に対する考え方-人間ドックの立場から-

日本人間ドック学会会員施設における胸部CT検診に関する実態調査報告

低線量CT肺がん検診の果たす役割

日本人間ドック学会会員施設における胸部CT検診に関する実態調査報告

胸部CTスクリーニングに求められるもの-精度管理の観点から

日本人間ドック学会会員施設における胸部CT検診に関する実態調査報告