治療対象疾患

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胸腺腫瘍・重症筋無力症

縦隔腫瘍

縦隔の解剖と治療(手術)の必要性

 縦隔という言葉はあまり聴きなれない言葉だと思いますが、胸部(頚部と横隔膜の間)で左右の肺にはさまれ、脊椎骨と胸骨の間をいいます。縦隔には心臓および心臓に血液が出入りする大動脈・大静脈、また気管・食道などの大切な臓器があります。さらに迷走神経・横隔膜神経・交感神経などの大切な神経も縦隔を走行しています。

主な縦隔腫瘍

  縦隔には非常に多種多様な良性腫瘍や悪性腫瘍が発生しますが一般に心臓・食道・気管などから発生する腫瘍は各々心臓腫瘍・食道腫瘍・気管腫瘍として分類し、縦隔腫瘍には含めません。最も頻度が高いのは心臓の前にある胸腺という臓器から発生するもので特に胸腺関連腫瘍と呼ばれています。

 胸腺腫・リンパ性腫瘍・奇形腫・神経原性腫瘍・気管支原性嚢胞などが比較的頻度が高い腫瘍です。悪性腫瘍の場合はもちろん、たとえ良性腫瘍であっても殆どの縦隔腫瘍は上述したように体の大切な臓器が集まっている縦隔に発生するため放置すると腫瘍の増大とともに症状(圧迫による症状など)が現れるため外科切除を主体とした治療が必要です。

胸腺関連腫瘍

胸腺腫

 胸腺の上皮細胞から発生する腫瘍です。縦隔の心臓や上大静脈の前方に発生するため増大すると上大静脈の圧迫や閉塞を起こす事があります。またときとして周囲の縦隔の他の臓器に浸潤したり縦隔から胸腔(肺の入っている肋骨に囲まれた領域)や転移を起こすことがあります。原則として悪性腫瘍として手術や治療が必要です。

 治療計画を立てる上で重要なことは腫瘍がどこまで広がっているかを検査で明らかにすることです(病期の決定)。通常4病期に分類して治療計画を立てます。

1期は、胸腺腫の腫瘍細胞が皮膜に包まれて外に出ていない時期です。

2期は、わずかに周囲に浸潤している時期です。

1期・2期は手術で腫瘍を切除することにより100%に近い治癒がえられます。

3期は、周囲の臓器(上大静脈や肺)に腫瘍の浸潤が認められる場合です。

 肺の部分切除や上大静脈の人工血管による切除再建などが行われます。手術の後で切除した腫瘍を病理学的に検査して腫瘍細胞が体内に残っている可能性が高い場合は手術後に放射線治療を行います。

4期の内、胸腔内に腫瘍細胞が広がってしまっている場合(播種)は、胸腺にある腫瘍とともに胸腔内の肉眼的に確認可能な播種巣を切除し胸腔内に制癌剤治療のためのカテーテルを留置します。胸腺腫は肺癌などに比べて悪性度が低く3期・4期でも50%以上の患者さんに治癒がえられます。早い時期に積極的に治療することが大切です。

奇形腫

良性腫瘍(成熟型奇形腫)と悪性腫瘍に大別されます。 

良性腫瘍は嚢胞状の部分と実質性の部分が混在している場合が多く、実質性の部分には毛髪や歯などが含まれている場合もあります。急速に増大することもあり切除が必要です。ときとして破裂して胸膜炎や肺に穿孔したりして手術が複雑になる場合もあるので注意が必要です。

悪性奇形腫は病理組織学的にいくつかのタイプに分類されています。特徴としては血液検査で腫瘍マーカーが上昇することが多く、診断や治療効果の判定に用いられます。また化学療法や放射線療法が良く効くため手術療法も含めて総合的に治療計画が立てられます。近年、化学療法の進歩により治療効果が改善されてきました。

重症筋無力症

 重症筋無力症は神経と筋肉の接合部で神経からの伝達が筋肉に伝わりにくくなってしまう病気です。

症 状

 症状としては筋肉の易疲労性が特徴で、特に夕方になると瞼が下がってしまうとか疲れてくると物が二つに見えるといった眼症状が多く見られます。ついで易疲労性は体全体にもおよび、更にものが飲み込みにくい、声が鼻に抜けてしまうといった症状も現われます。

 最も重症化すると呼吸をする筋肉にもおよんで呼吸困難を起こす場合もあります。重症筋無力症は自己免疫疾患の一つで原因は神経と筋肉の命令伝達を妨害する自己抗体です。

治療法

 治療としては症状の軽減に抗コリンエステラーゼ剤が効果を示しますが本質的な治療としてはこの薬を飲むだけでは十分ではありません。古くから(1900年台前半)胸腺摘出術が重症筋無力症の治療に有効であることがわかっていました。

 近年、重症筋無力症と胸腺の関連について解明が進んで胸腺摘出術の効果も科学的根拠が示されるようになり、治療として積極的に行われています。

 千葉大学では1978年より神経内科と共同でステロイドホルモン治療と手術を組み合わせた治療方法によりたくさんの患者さんを治療してきました。手術前の薬物治療により症状をできるだけ改善しておいて手術を行う千葉大学方式により手術後の呼吸筋麻痺(呼吸クリーゼ:集中治療室で人工呼吸が必要になる。)は著明に減少し、手術の安全性が高まりました。

 現在では特に重症な患者さんでも手術前のステロイドホルモン治療と透析療法により良好な成績をあげています。この治療方法により患者さんの52%が薬を飲まずに無症状(寛解状態:術後5年の時点)となています