研修案内

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留学体験記

 

現在スタンフォード大学に留学中の栢森先生からお便りが届きました!

 

 2022年3月よりスタンフォード大学に留学している栢森(かやもり)健介と申します。私は初期研修後、血液内科に入局し数年間の後期研修を終えたのちに千葉大学大学院に入学しました。岩間厚志先生(現在は東京大学医科学研究所)に師事し、急性骨髄性白血病(AML)発症に関するエピジェネティックな機構や骨髄異形成症候群(MDS)の新規治療法に関する研究を行いました。大学院卒業後、造血幹細胞およびAMLに関する研究をさらに深めたいと思い、スタンフォード大学のRavi Majeti博士のところへ留学することを決めました。

 Majeti博士はAML研究の第一人者で患者サンプルを用いて「前白血病幹細胞」の概念を最初に報告しました。AML発症時には骨髄中に白血病細胞と正常細胞が混在しています。しかし、一見正常と思われる造血幹細胞にも一部遺伝子異常を有する集団が存在します。これらは前白血病幹細胞と呼ばれ、白血病の温床となり、そして再発の原因となるという概念です。  元々スタンフォード大学の血液分野は、正常造血幹細胞研究の第一人者であるIrving Weissman博士が在籍していたことから、同研究の中心地でした。Majeti博士はWeissman博士の研究室で造血幹細胞研究を行い、それらの研究を元にAML研究で世界をリードしています。Majeti研究室ではスタンフォード大学病院と連携してAML患者検体を保存する体制が構築されており、ラボメンバーたちはそれらを使用して研究を行うことができます。マウスを使用した研究で新たな事実を発見しても、人間に同じメカニズムがあるのかは分かりません。患者に応用できる新規治療法を検討する場合、時間的・空間的に大きな隔たりとなります。Majeti博士には「あえてノックアウトマウスは使用しない」というポリシーがあり、基礎医学研究で発見した治療標的を速やかに臨床応用することを常にゴールにしています。私は白血病幹細胞を治療標的とした新規治療法の開発を目指して、日々研究にいそしんでいます。

 さて、後半ではスタンフォード大学および周辺の生活事情について話したいと思います。まず、スタンフォード大学はApple、Google、Meta(元Facebook)など誰もが知る大企業の一大拠点であるシリコンバレーの中心に位置しています。気候は東京に比べると夏涼しく、冬は暖かく過ごしやすいです。治安も非常に良いですが、その反面、周辺のリビングコストが非常に高く、物価・地価は全米トップクラスです。昨今の円安の影響もあり、私が日本でコツコツ当直などで貯めたお金は、日々恐ろしいスピードで減っていき憂鬱な気持ちになります。しかし留学によって得られるものは何物にも代えがたく、日本に帰る頃にはすかんぴんになってもやむなしと思っています。スタンフォード大学の校訓は「Die Luft der Freiheit weht(自由の風が吹く)」であり、西海岸の気候と相まってとても自由です。多くの人種が集まっていることもあり、差別的な雰囲気がありません。日本だと「あれ?」と思われるようなことも、この辺りだとなんとも思われません。キャンパス内の噴水で泳いでいる人を初めて見たときは驚きましたが、もはやなんとも思わなくなりました。先日、大学・血液内科同期の一色先生(Weil Cornel Medicine)とニューヨークでお会いしましたが、世界一の都会のニューヨークと異なり、スタンフォード周辺はずっと牧歌的な雰囲気です。また、スタンフォード大学は特に起業家精神に優れた大学として知られており、所属する学生・研究者に起業を促すようなプログラム、資金提供の体制が確立しています。私の隣のデスクのラボメンバーは学内で起業のためのグラントを獲得し、起業を目論んでいます。

 周辺の観光事情にについてです。西海岸は東海岸と比べ年間を通して温暖な気候であり、アメリカの壮大な大自然を堪能することができます。ヨセミテやグランドキャニオンなどの国立公園へのアクセスが良く、自然観光が好きな方には西海岸への留学がお薦めです。日本から渡米して国立公園を観光するのは時間的にも金銭的にも大変ですので、アメリカにいる間にぜひ楽しんでください。

 以上が私の留学だよりになります。私のアメリカでの生活を少しでも感じてもらえたら幸いです。カリフォルニアの温暖な気候の恩恵を受けながら、周囲の研究者たちと切磋琢磨して研究を続けております。人生において海外で何年間も過ごすことはそうありません。現在この地で過ごせることに心から感謝しつつ、この貴重な経験を将来に最大限に生かしていきたいと思います。

2023年8月  栢森 健介(2011年卒)

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写真:1列目右から1番目が栢森先生

 

一色 佑介先生(Weil Cornel Medicine留学中)

 

 2019年9月から米国コーネル大学医学部(Weill Cornell Medicine)に留学中の一色佑介です。コーネル大学医学部が位置するニューヨーク市マンハッタンでは、留学直後からCOVID-19やその後のBlack Lives Matterに関するデモなどで色々と大変だったのですが、このページをみてくださる方の多くが、留学に興味を持つ若手医師もしくは学生の皆さんと想定して、なるべくニューヨークでの留学生活の魅力が伝わるようにご紹介できればと思います。

 まず私が留学しているコーネル大学について少しご紹介します。日本ではあまり有名でないかもしれませんが、コーネル大学はハーバード大学やコロンビア大学と同じくアイビーリーグに属する、アメリカでは広く知られた私立大学です。メインキャンパスはニューヨーク州イサカというカナダ国境近くの自然豊かな場所にあり、日本人が想像するニューヨークとは程遠いのですが、医学部だけはマンハッタンのアッパーイーストサイドという大都会に位置しています。アッパーイーストサイドには他にもMemorial Sloan Kettering Cancer Centerやロックフェラー大学が位置しているのですが、これら3つの研究機関は相互に提携していて、共同研究が非常に盛んであるほか、例えばコーネルの職員である自分がSloan Ketteringのコアラボに実験を依頼できたりもします。また附属病院であるNew York Presbyterian Hospitalは、同じくマンハッタンに位置するコロンビア大学医学部との共同経営になっていて、大学や研究施設の垣根を超えて質の高い研究や臨床を行う環境が整っています。日本で言えば、国立がんセンターと聖路加病院と東大が提携しているような感じなので、来たばかりの頃はスケールの大きさに驚きました。

 さて、次に簡単に現在のラボについてご紹介したいと思います。現在私は血液腫瘍内科の中にある、Dr. Ari Melnickの研究室でポスドクとして働いています。下記に添付した写真をご覧いただくとわかるように、ポスドクおよび大学院生だけで20人以上が在籍する大きな研究室で、世界各国(写真に写っているだけでも13ヶ国)から来た優秀な研究者に囲まれて、日々研鑽を積んでいます。主な研究テーマはB細胞性リンパ腫(+急性骨髄性白血病)におけるエピジェネティック異常と腫瘍化メカニズムの解明、およびそれらに対するエピジェネティック治療の確立で、ヒトB細胞性リンパ腫におけるエピジェネティック制御遺伝子異常を模倣したリンパ腫モデルマウスを用いた実験を得意としています。私はこのリンパ腫モデルマウスを用いて、エピジェネティック治療薬と免疫療法を組み合わせた、B細胞性リンパ腫に対する新たな治療法の確立を目指した研究を主に行っているほか、このマウスモデルで得られたデータをもとにしたphase 1 studyの立案にも携わることができていて、とても充実した毎日を送っています。研究がまとまったら、いつか別の機会にご紹介できたらと思います。

 最後に最も重要な(?)ニューヨークでの生活に関して、残り半分くらいのページ数を使って存分にご紹介していきます。まず住宅事情に関してですが、コーネルのポスドクは、ルーズベルトアイランドというイーストリバーに浮かんでいる島にある綺麗なマンションに、(ニューヨークにしては)割安で住むことができます。ルーズベルトアイランドはアッパーイーストサイドまで地下鉄で1駅、セントラルパークまで2駅という最高の立地なのですが、マンハッタンと地続きではないために、マンハッタンよりも明らかに治安が良く、静かで緑豊かなとても良いところです。家族で住む場所としてもぴったりではないでしょうか。次に食事情ですが、まず重要な点は日本食の調達にはほぼ困らないところです。マンハッタンにはいたるところに日本食スーパーがあり、割高ではあるもののあらゆる日本の食材を手に入れることができます。また日本の外食チェーンや日本人経営のレストランも多数あり、焼肉・ラーメンから定食屋、居酒屋まで何でもあります。またニューヨークは世界で一番レストランが多い都市と言われていて、世界各国の料理を堪能することができるところも魅力です。最後に週末の楽しみ方についても少しご紹介したいと思います。現在COVID-19のため入場規制もしくは閉鎖中なのが残念ですが、ブロードウェイ、スポーツ観戦、美術館鑑賞などあらゆる娯楽が楽しめます。これらは大学や家から地下鉄ですぐに行くことができて、例えば仕事帰りにブロードウェイに行ってから帰宅する、といった生活もできます。またこれらのいわゆる大都会ニューヨークの娯楽だけでなく、自然豊かな観光スポットへのアクセスが極めて良い点もご紹介しておきます。ニューヨーク州は南北に長い州で、マンハッタンは最南端に位置しているのですが、電車で1時間ほど北上したアップステートと呼ばれる地域には、日本でいうと軽井沢のような緑豊かなエリアが広がっていて、暖かい時期にはハイキング、秋には紅葉狩りや果物狩り、冬にはスキーなどを楽しむこともできます。

 最後は観光ガイドのようになってしまいましたが、留学生活の魅力は伝わったでしょうか。研究のスケールの違いもそうですが、海外に住むという経験自体も視野を広げるためにとても良いことだと思います。1人でも多くの方やそのご家族が留学に興味を持っていただけるような内容であったならば幸いです。

2020年11月  一色 佑介(2011年卒) 

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写真 : 下段左から3番目が一色先生