研究テーマ

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肺癌の分子生物学的研究

癌が発生する原因の一つとして、癌抑制遺伝子の機能障害というものが知られています。これは、正常細胞では正常に機能して癌化にブレーキをかけている癌抑制遺伝子が、癌細胞で何らかの理由で機能しなくなり、その結果、癌化に拍車をかける現象です。癌抑制遺伝子の機能抑制機序には、従来、突然変異、欠失等が知られていましたが、実際にはそれらの頻度は比較的低く、“異常メチル化による発現抑制”の頻度の方が多いことが最近解ってきました。この異常メチル化は、遺伝子の転写が始まるスタート位置近くにある特定配列(CG)にメチル基がつく事で起こり、DNAからRNAに転写が起こらなくなります。その結果、その癌抑制遺伝子が働かなくなる現象です。近年、各種悪性腫瘍において異常メチル化の果たす役割についての研究が積極的に行われており、発癌のメカニズムにおいて最も注目されている領域のひとつです。
 私たちも、肺癌その他の胸部悪性腫瘍について、さまざまが癌抑制遺伝子の異常メチル化について検討してきました。その結果、異常メチル化は胸部悪性腫瘍において、高頻度に起きていること、組織型、喫煙、病期、予後等各種臨床因子と関連があることがわかってきました。今後、微量サンプルからの診断や、治療方法への応用が期待され、治療成績向上に役立つことを目的として、私たちも積極的に研究を押し進めています。

肺癌転移機構の研究

肺癌転移の機構は、肺癌の発生や増殖とは異なることと考え、腫瘍細胞とその浸潤過程における細胞外マトリックスとの関連に着目し、基礎ならびに臨床研究を進めております。
 マトリックスメタロプロティナーゼ(MMP)は細胞外マトリックスの調節をおこないますが、腫瘍が他の組織に浸潤転移を起こす際、重要な役割を果たすと考えられています。このため非小細胞肺癌切除例におけるMMPファミリーの発現が、肺癌の浸潤や転移とどのような関連性を有するのか検討し、非小細胞肺癌切除例では、MMP-9の発現が多くの症例において上昇していることをあきらかにしました(Iizasa, 1999; Suzuki, 1998)。また微小転移環境における組織再構築の際おこる血管新生の研究では、非小細胞肺癌における血管新生抑制因子であるエンドスタチンならびにXVIII型コラーゲン(エンドスタチン前駆体)発現と臨床像との関連性、また肺癌の予後との関連性に注目し解析を行っております。その結果非小細胞肺癌における XVIII型コラーゲン発現は独立した重要な予後因子であり、肺癌の再発転移に重要な役割を果たしていることを明らかにしました(Suzuki, 2002; Chang, 2004; Iizasa, 2004)。現在、XVIII型コラーゲン発現により肺癌症例が予後不良となる原因の解明を進めており、p21癌抑制遺伝子がこの原因にかかわっている可能性が明らかになりつつあります。またXVIII型コラーゲン発現の有無により、抗癌剤感受性が変化することも明らかになりつつあります。

参考文献

Suzuki M, Iizasa T, Fujisawa T, Baba M, Yamaguchi Y, Kimura H, Suzuki H. Expression of matrix metalloproteinases and tissue inhibitor of matrix metalloproteinases in non-small-cell lung cancer. Invasion Metastasis. 1998-99;18(3):134-41.

Iizasa T, Fujisawa T, Suzuki M, Motohashi S, Yasufuku K, Yasukawa T, Baba M, Shiba M. Elevated levels of circulating plasma matrix metalloproteinase 9 in non-small cell lung cancer patients. Clin Cancer Res. 1999 Jan;5(1):149-53.

Suzuki M, Iizasa T, Ko E, Baba M, Saitoh Y, Shibuya K, Sekine Y, Yoshida S, Hiroshima K, Fujisawa T. Serum endostatin correlates with progression and prognosis of non-small cell lung cancer. Lung Cancer. 2002 Jan;35(1):29-34.

Chang H, Iizasa T, Shibuya K, Iyoda A, Suzuki M, Moriya Y, Liu TL, Hiwasa T, Hiroshima K, Fujisawa T. Increased expression of collagen XVIII and its prognostic value in nonsmall cell lung carcinoma. Cancer. 2004 Apr 15;100(8):1665-72.

Iizasa T, Chang H, Suzuki M, Otsuji M, Yokoi S, Chiyo M, Motohashi S, Yasufuku K, Sekine Y, Iyoda A, Shibuya K, Hiroshima K, Fujisawa T. Overexpression of collagen XVIII is associated with poor outcome and elevated levels of circulating serum endostatin in non-small cell lung cancer. Clin Cancer Res. 2004 Aug 15;10(16):5361-6.