研究
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研究内容

川崎病

川崎病は5歳以下の乳幼児に主に見られる急性熱性疾患で、1967年に千葉大学OBの小児科医、川崎富作博士によって初めて報告された原因不明の病気です。日本では年間15,000人以上が新たに川崎病を発症し、決して稀な病気ではありません。発熱、発疹、目の充血、咽頭の発赤などの症状、夏と冬に多いという季節性、過去3回記録された全国規模の大流行は細菌やウィルスの感染症を想起させますが、発症への関与が明らかな単一の病原体は特定されていません。この病気は全身の中小の動脈におきる炎症が本態であり、基本的に自然治癒することが知られていますが、一定の割合で心臓の冠動脈に動脈瘤や拡張病変が生じ、一部は後遺症として残ります。これによってかつて多かったリウマチ熱に代わり、先進国では川崎病が小児の後天性心疾患の最大の原因となっています。治療法が進歩した現在では、この冠動脈病変の発生頻度は川崎病発見当初の25%前後から5%以下に低下していますが、最も重症な巨大冠動脈瘤は年間15-20人に生じ、これが原因となり死亡することもあります。

日本を筆頭に韓国、中国、台湾といった東アジアの国々に多く、ハワイや米国本土でも日系人の罹患率が最も高いことが川崎病の疫学上の大きな特徴です。その他に、同胞(兄弟姉妹)で川崎病になる、あるいは過去に川崎病になった人の子供が川崎病になる、ということが罹患率から想定されるよりも多く見られるのも特徴で、これらは川崎病に遺伝的な体質が関係していることを物語っています。日本では患者数は増え続けており、生活様式や環境の変化も影響していると考えられています。以上のことから川崎病は、遺伝そして環境の影響によりに川崎病を発症しやすい体質をもつ乳幼児になんらかの病原体の感染があった際に、起きる病気である、というのが共通した認識になっています。

当教室では、川崎病の遺伝学的側面に関する研究を行っています。

1)川崎病の発症や重症化、治療への反応性に関連する遺伝子の特定
川崎病は遺伝性疾患の分類上の多因子遺伝性疾患に該当し、複数のゲノム上の配列の違い(バリアント)が発症や重症化のリスク、特定の治療薬の効果の現れ方の違い等に個人や集団のレベルで関与していることが予想されます。これらのバリアントを特定し、そのバリアントが遺伝子機能に及ぼす影響を理解することで川崎病の原因究明、新規治療法の開発、精密医療の実現に結びつけることを目指しています。日本では2009年から川崎病の遺伝要因に関するオールジャパンの共同研究組織、”川崎病遺伝コンソーシアム”が活動しており、当教室はその事務分局も担っています。

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2)川崎病の関連遺伝子を標的とした治療法の開発
当教室の尾内らが以前に見出し、その後海外でも検証された研究成果から、川崎病の発症および重症化にカルシニューリン/NFAT経路の活性化が関与する可能性が濃厚になり、同経路の特異的な阻害剤であるシクロスポリンがエビデンスに基づく新しい治療薬として注目されました。そこで臨床グループと共同で実施した第2相臨床研究、医師主導治験を通じ、標準治療(免疫グロブリン大量静注とアスピリン内服の組み合わせ)をシクロスポリン内服の併用で強化した新しい治療法が冠動脈病変の発生をより効率的に抑制することを証明し、報告しています。この結果により、シクロスポリンは川崎病の治療薬として薬事承認されました。また、日本小児循環器学会が作る川崎病急性期治療のガイドラインでも重症化が予想される患児に初期から標準治療に併用することが推奨される薬剤として掲載されました。現在は他の強化初期治療との使い分けを最適に行う“精密医療”の実現につながる新たな臨床研究を小児病態学教室、附属病院臨床試験部とともに計画中です。

炎症性腸疾患

炎症性腸疾患は消化管の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を引き起こす原因不明の疾患です。発症部位によりクローン病と潰瘍性大腸炎に分類され、厚労省の指定難病に定められています。患者さんは下痢や血便、腹痛などの症状を伴い、良くなったり(寛解)、悪くなったり(増悪)を繰り返すのが特徴で、現在も完全に治療する方法はありません。欧米諸国で発症の多い疾患でしたが、日本を中心とした東アジア諸国でも患者数が急激に増え続けています。

炎症性腸疾患は遺伝や環境(食事、喫煙、ストレスなど)や腸内細菌の異常などの様々な要因により、免疫に異常が生じ、発症すると考えられています。中でも遺伝的な要因が強く影響していることが、これまでの疫学調査でわかっています。

当研究室では炎症性腸疾患の遺伝的背景を明らかにし、発症のメカニズムを解明し、新たな治療薬の開発や診断・治療方法につなげることを目指しています。

新型コロナワクチンに対する抗体応答の個人差に関する研究

令和3年3月からコロナワクチンセンターで実施した新型コロナワクチンの接種を受けた附属病院職員約2000人を対象に、ワクチン接種後に獲得される抗体価の個人差の遺伝背景の研究を行っています。これまでに、中和抗体の重鎖の構成に重要であることから候補遺伝子として注目した2つの遺伝子(IGHV3-53/-66)の一塩基バリアントが接種後の抗体価と関連することを見出しています。現在は、ゲノムワイド関連解析でより広範囲の検索を行っています。

臨床遺伝学研究

附属病院の診療科を受診された患者さんについて、遺伝子検査で見出された遺伝子配列の変化の意義を実験的に確かめる研究を行っています。