山﨑 慶子講師 (研究当時、日本大学 医学部 臨床試験研究センター 助教)が筆頭著者となる高血圧の薬剤抵抗性に関わる遺伝的背景を明らかにした論文が、国際科学雑誌『Clinical Pharmacology & Therapeutics』オンライン版(2023年5月7日付)に掲載されました。
高血圧は喫煙と並び、日本人の生活習慣病の発症や予後に大きく影響する要因です。高血圧の中でも、作用の異なる3剤の降圧剤を適切に使用しても、目標血圧まで下がらない症例は治療抵抗性高血圧と言われ、脳卒中や心筋梗塞、腎不全などの合併症のリスクが高くなることが知られています。
ゲノムリソースや解析技術が進み、高血圧や血圧に関わる遺伝領域が全ゲノム関連解析(GWAS)により 1,000以上報告されました。しかし治療抵抗性高血圧に関わる報告は非常に少なく、遺伝的背景の解明が望まれています。
研究グループは、治療抵抗性高血圧のメカニズムを明らかにするため、各降圧剤の薬剤抵抗性に関わる遺伝領域の同定を試みました。
バイオバンク・ジャパン(BBJ)で収集された検体より、降圧剤の投与歴がある患者を抽出し、連続して1年以上同じカテゴリーの降圧剤を処方されている患者、32,239名を抽出しました。次に、高血圧の治療に使われるアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、カルシウム拮抗薬 (CCB)、利尿剤(DD)、β遮断薬(BB)、α遮断薬(AB)、αβ遮断薬(ABB)の7種類の降圧剤の処方歴を確認し、単剤処方の群、3剤以上処方されている群を抽出し、GWASを行いました(図1)。ARBの抵抗性に関わる領域として新たに2ヶ所、CCB・ABBの抵抗性に関わる領域を新たに1ヶ所ずつ同定しました。降圧剤の種類により薬剤抵抗性に関係する領域は異なりますが、どの領域も血圧や高血圧にも関係があることがわかりました。
つづいて、研究グループはBBJの血圧と遺伝の関係を調べたGWASと併せて、遺伝子セット解析を行いました(図2)。血圧、降圧剤抵抗性に関連する遺伝子セットは共通していますが、関連の強さは異なることがわかりました。
これらの解析から、①降圧剤抵抗性に関わる遺伝領域は各薬剤ごとに異なること、②各薬剤が標的とするメカニズムの違いが複雑に絡み合って高血圧や降圧剤抵抗性を発症している可能性が示唆されました。
遺伝的背景を調べることで、個人の体質にあった効果の高い降圧剤が処方されたり、治療抵抗性高血圧のメカニズム解明の一助になることが期待されます。
本研究はAMEDゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(前 文部科学省委託事業オーダーメイド医療実現化プロジェクト「バイオバンク・ジャパン(BBJ)」)およびAMEDワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業の支援を受けて行われました。
Genome-wide association studies categorized by class of anti-hypertensive drugs reveal complex pathogenesis of hypertension with drug resistance. Clinical Pharmacology & Therapeutics, 2023.
DOI: 10.1002/cpt.2934
日本大学 医学部
臨床試験研究センター (https://www.med.nihon-u.ac.jp/department/pharmacology/)
山﨑 慶子 助教 (現 千葉大学大学院医学研究院 公衆衛生学 講師)
高橋 泰夫 准教授 (現 同センター 教授)
浅井 聰 教授 (同センター長、生体機能医学系薬理学分野 教授)
理化学研究所 生命医科学研究センター
ゲノム解析応用研究チーム
寺尾 知可史チームリーダー
国立循環器病研究センター
病態ゲノム医学部
高橋 篤 部長
東京大学大学院 新領域創成科学研究科
メディカル情報生命専攻 クリニカルシークエンス分野
松田 浩一 教授
複雑形質ゲノム解析分野
鎌谷 洋一郎 教授