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NPO法人設置では問題は解決しない
平成20年3月10日の産経新聞で、当教室に関連してNPO法人死亡時医学検索支援センターが 設置される方向にあることが報道されました。報道にある通り、5月にはNPOの運営を始める 予定です。しかしながら、NPOの設置はあくまでも緊急避難的になされたもので、死因究明制度 の改善にはつながりません。仮にこの報道が、読者に対して、NPO設置を良い方向性として誤解 させてしまうとすると、問題があると思えるので、HP上にて、より詳細に、説明させていただきます。  
 

当教室の窮状

千葉大学法医学教室の運営は、危機的状況にあります。解剖数は年々増加傾向にあり、 実施する検査の種類も増加しております。すでに、仕事量は飽和しており、一人の職員 でも病気になったり、産休に入ったり、大学の業務に供出されると、解剖業務が停止する状況 にあります。このような状態では、職員が受ける精神的・肉体的ストレスは相当なものであり、 新たな人員の雇用なしでは、いずれ業務が崩壊することは明らかです。平成18年度からは、 警察庁から、解剖にかかわる経費が捻出され、1体当たり、20〜30万円程度の経費が支給される ようになりました。以前の1体当たり7万円という状態よりは、費用面では改善されました。 しかしながら、納付される経費を、大学側がうまく使いこなせないという別の問題に直面して おります。大学は、文部科学省から人員削減をするように指示されております。大学は、常勤職員 を削減したいので、外部から獲得した経費で、常勤職員を雇用する方針を取れません。そのため、 導入された経費で雇用できるのは、非常勤職員ばかりとなっています。これでは、どんなに解剖や 諸検査を実施する者であっても、大学の正職員として採用される見込みはありませんし、退職金 すらもらえないことになります。また、解剖に関連した業務は、C型肝炎やHIVに感染する危険のある 業務でもあります。業務は危険で、将来の保証もない中では、職員が職務にやりがいを見出すことは できませんし、優秀な人材を継続的に確保することは困難です。このままでは、未熟なフリーターの 実施する精度の低い鑑定結果を元に刑事裁判が実施され、場合によっては不当な判決が出されること になり、国民が不利益を得ることになります。 そこで、緊急回避的に考えだされたのが、NPO法人の設置です。この法人は、警察から納付される 個人謝金の部分(これまでは大学に納入していた、解剖一体7万円程度)をNPO法人に納付することで、 使途の自由度を高め、それにより、非常勤職員に対して、危険手当や退職金を付与しようというものです。 急場しのぎにはなるのですが、NPO法人では解決できない重要な問題が多々あります。  
 

NPO設置で解決できない重大な問題

大学は、人員削減のためにも、職員に対しては任期制を取るようになりました。数年の任期が終了したら、 再任審査を受けますが、その審査基準として、英文論文、外部資金の獲得といった基準が設けられました。 しかし、解剖業務は評価基準となっておりません。より多くの解剖や諸検査を実施して、国民のために奉仕 をすればするほど、自らを退職に追い込む状況にあります。これでは、解剖業務が大学から締め出される ことになりますが、そうなると、解剖を執刀する医師を育成する場すらなくなります。死因診断は、 高度な医学知識を要求されますので、それは望ましいことではありません。解剖を業績として評価する 仕組みを大学等に作る必要がありますが、NPO設置ではその問題を解決できません。また、個人謝金を 運営費に転用している以上、その運営は教室員個々人の「善意」に任されております。教室員同志での 意思統一ができない場合、運営は不可能です。これでは重大な地域間格差が発生しますし、また、 同一地域でも、継続性は期待できません。  
 

法医学研究所の設置を

以上、千葉大学におけるNPOの設置の経緯とその問題点を述べさせていただきましたが、NPO設置は、 急場しのぎにしかなりません。ほかの先進国のような、法医学研究所を設置して大学と連携させること が急務であり、それなしでは、NPOを設置してもいずれは解剖業務が崩壊すると考えられます。 我々は、以前と同様、警察庁、文部科学省、厚生労働省、法務省などの関係諸機関には法医学研究所 の設置を強く要望いたします。また、それが設置されれば、NPOは解消されるべきであると考えております。  
 
 
 
 
平成20年3月11日  
 
岩瀬博太郎
   

 

 
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