研究室について

最新研究紹介

遠藤 裕介(特任講師)

論文タイトル

Endo, Y., Hirahara, K., Iinuma, T., Shinoda, K., Tumes, D. J., Asou, H. K., Matsugae, N., Obata-Ninomiya, K., Yamamoto, H., Motohashi, S., Oboki, K., Nakae, S., Saito, H., Okamoto, Y., and Nakayama, T.: The Interleukin-33-p38 kinase axis confers memory T helper 2 cell pathogenicity in the airway. Immunity 42:294-308 (2015)

研究のポイント

記憶ヘルパ-T(Th)細胞は免疫記憶の要として機能している一方で、喘息をはじめとした慢性炎症疾患の病因となりえます。私たちは、記憶Th細胞の中でも、疾患の原因となる細胞群を病原性(Pathogenic)記憶Th細胞と名付け、熱心に研究を行っています。これまで、慢性アレルギ-疾患と関わりの深い、病原性記憶Th2細胞を誘導する外部シグナルや内在性因子については明らかになっていませんでした。本研究において、近年注目を集めている炎症性サイトカインIL-33が記憶Th2細胞に作用し、p38 MAPキナ-ゼを活性化させることで病原性記憶Th2細胞へと機能転換させることをマウスモデルと慢性副鼻腔炎患者検体の両方で明らかにしました。

研究にまつわる苦労談

苦労した点は臨床患者検体の実験につきると思います。ヒトとマウスでは共通している部分ももちろんあるのですが、異なる点も多く存在しています。マウスでは何度も行って間違いないと確信している実験でもそれがそのままヒトに当てはまるケ-スはそれほど多くないと思います。実際に、はじめは自分自身やラボメンバ-の末梢血からとってきた記憶CD4 T細胞を用いて解析を行いましたが、まったくIL-33に反応することはありませんでした。''ヒトとマウスでは違うのか''と残念に思っていましたが、耳鼻科の先生方の御協力により、慢性副鼻腔炎患者検体を解析したところ、見事にIL-33に反応し、ヒトでもIL-33が病原性記憶Th2細胞を誘導することがわかりました。この実験結果により、やはりヒトでもIL-33-病原性記憶Th2細胞は重要であり、病態に影響を与えていると、苦労したからこそ自信を持って言えることができました。

成果に期待すること

本研究結果により、我々がこれまでに提唱している「病原性記憶Th細胞亜集団による病態慢性化モデル」をより確かなものにすることができます。また、IL-33-T1/ST2-病原性記憶Th2細胞による、病態を増悪化させる負のサイクルによって喘息や副鼻腔炎といったアレルギ-疾患の慢性化が誘導されると考えられます。つまり、IL-33やIL-33受容体を発現している病原性記憶Th2細胞、またIL-33の下流で働き、病原性を誘導する分子であるp38を創薬タ-ゲットとすることで、従来では対処が困難であった難治性慢性アレルギ-疾患の治療開発に役立つことが期待されます。

今後の展望

今回新たにIL-33によって記憶Th2細胞の機能転換が起こり、病原性記憶Th2細胞が誘導されること、およびIL-33の作用機序としては細胞内シグナルのp38MAPK経路が重要であることが明らかとなりました。今後の課題として、病原性記憶Th2細胞と近年同定された2型自然リンパ球(ILC2細胞)との相違点を細胞レベル、遺伝子レベルで解明することが挙げられます。また、個々のアレルギ-疾患の病態形成、維持において、それぞれの細胞がどの程度寄与しているか、病態やそのバックグラウンドに応じて、発現している分子や慢性化を引き起こすフィ-ドバック機構に着目し、アレルギ-疾患の慢性化における役割について研究を進めていくことが、疾患治療の基盤を築く上で重要であると考えられます。

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