研究内容
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研究内容

 私たちは、神経系の発生機構を研究することにより、脳神経系の高次機能を明らかにするとともに、再生医学の発展に向けて確固たる分子基盤を作り、新しい治療法を開発することを目指しています。    私たちの体の中には、千種類を越える多種多様な神経細胞が存在し、情報処理を行っています。神経細胞のほとんどは胎児の時期に作られます。神経細胞の基となる神経幹細胞は、始めはたくさんの種類の神経細胞を作れますが、老化とともに限られた種類の神経細胞しか作れなくなります。成人のヒトの脳にも神経幹細胞があるのですが、作れる神経細胞の種類が少ないため、脳の病気を治せないでいます。老化した神経幹細胞を若返らせることができれば、治療に必要な神経細胞を作ることができ、新しい方法で病気を治せるようになります。そこで、私たちは、若い神経幹細胞で働いている仕組みを調べ、神経幹細胞の老化を止める方策や若返らせる方法を研究しています。若い神経幹細胞で働くNeproという遺伝子を発見し、若い神経幹細胞を保つ新しい仕組みを解明しました。現在、若い神経幹細胞で見つけたNepro以外の遺伝子の機能も調べています。

 

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図1.初期神経幹細胞でのNeproの機能
大脳皮質形成の初期の神経幹細胞は、皮質の全ての層の神経細胞を作れるが、
個体発生とともに、限られた種類の神経細胞しか作れなくなる。Neproは、
初期の神経幹細胞のみで発現し、神経幹細胞の維持に必須である。

 

 

   また、体の中で神経ネットワークが、どの様な仕組みで作られ、どの様に機能しているのかを調べています。私たちが開発したマウス用の電気穿孔法を用い、最近、情報を受け取る神経細胞の樹状突起の形を調節する新しい仕組みを発見しました。嗅球の僧帽細胞は、1本の樹状突起を糸球体に伸ばし嗅神経の軸索とシナプスを作ります。私たちは、僧帽細胞の樹状突起を1本にするには、Notch経路が必須であり、この経路が正しく働かないと樹状突起が1本にならず、匂いの情報処理を正常に行えないことを明らかにしました。

 

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図2.嗅球の僧帽細胞における主樹状突起形成
嗅球の僧帽細胞(MC)の多くは、マウスでは胎生10.5日から生まれ15.5日で移動を終える。
胎児期に僧帽細胞の樹状突起は、嗅神経(OSN)からのNotchリガンドの作用で剪定される。
この胎児期の剪定が正しく働かないと、樹状突起が正常に作られず、帰巣行動にも異常が生じる。
(Muroyama et al.,  PLOS Genetics 12, e1006514. (2016))