入局・研修について

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女性眼科医へのエール

女性眼科医へのエール

山本 修一 (千葉大学大学院医学研究院眼科学 前教授)


 千葉大学の眼科医局では最近、女性医師が半数をわずかに超えた。女性が多いと言われながらも長年3~4割に止まっていたが、ついに過半数に至った。結婚、出産、育児という人生の一大事業を抱える女性は、従来の男社会の「出世路線」には乗りにくく、優秀であるにもかかわらず家庭の事情を理由に第一線から退いてしまうことが少なくない。他科に比して圧倒的に女性会員が多いのに、日本眼科学会の評議員会は男ばかりで、女性は数えるほどしかいない。日本眼科医会の役員も然り。現場の実態と大きく乖離している。
 社会一般を見回せば、先進的といわれる企業、集団ほど女性の幹部登用に熱心であり、管理職に占める女性の比率がその会社の将来性を示すとまで言われている。能力が同等であれば、女性を優先的に登用する企業さえみられる。
 翻って我々の業界はどうか。男女差別のない職種を謳い、それに魅かれて多くの優秀な女子学生が医学部に入ってくる。さらに眼科は時間的、体力的制約の少ない科として女性を集めてきた。彼女らは独身時代は男性に伍して、あるいは男性を遥かに凌駕する働きを見せ、上司はその将来に多大なる期待を寄せる。「できれば独身のまま頑張って!」などと不埒な声援すらそっと口にする。しかし結婚、出産を機に真面目な彼女達は『家庭モード』に切り替わり、またそれを歓迎する家族(特に夫)の圧力により第一線への復帰の機会を失ってしまう。 溢れんばかりの新入医局員を期待できる時代であれば、女性の結婚や出産は、やや出来の悪い男性医師へのポスト配分の良い口実になったかもしれない。客観的にみて明らかに能力の高い女性医師が大学でのポジションをとれずに、関連病院勤務から開業へと流れるのは、いずれの大学にも共通の現象であろう。
 しかし新研修医制度の開始によりほとんどの大学で入局バブルが弾けた今、女性医師への処遇を見直す良い機会と思う。もちろん人手不足対策という本音も隠せないが、この先の眼科の発展を考えるとき、眼科医の4割を占める女性達の一層の活躍が不可欠ではないだろうか。
 では具体的にはどのように対応すべきか。およそ妙案など私は持ち合わせてはいないが、千葉大学における目下の対策は以下のようなものである。

  1. 別居が必要となるような遠隔地の病院への常勤派遣の中止。このような病院への赴任は当然女性は嫌がり、割り振られた男性には『貧乏くじ』との不満が残る。
  2. 常勤派遣病院での全科(あるいは外科系)当直を免除してもらう。
  3. 『出産は専門医取得後に・・・』などの暗黙の制約を設けない。人生の設計は各個人に任せ、それぞれの環境に合わせたキャリアアップを支援する。
  4. 産休はもちろん育児休暇も、医局全体として快く受け入れる。その期間は人手が足りず辛くなるが、休暇が明けた後に円滑に復帰してもらうほうが、得るものはお互いに大きい。
  5. 休暇中の人員補充が困難であれば、それによる業績低下を許容する。
  6. 非常勤枠を弾力的に運用することで、週に数日の勤務が可能とし、仕事と育児の両立を助ける。
  7. 業務がなるべく時間内に収まるよう、ミーティング類を極力減らし、かつ始業前に行う。
  8. 緊急手術などで時間外に業務がはみ出す場合も、担当の曜日を決めることなどで時間の不規則性を極力減らす。

 いずれも対策としては取るに足らないものであり、その効果のほども評価し難い。しかし女性医師のキャリアアップを、医局として目に見える形で支援することがまず重要ではないか。また各大学での対応について情報交換することも必要だろう。日本眼科学会では、専門医制度における女性医師の出産、育児に対する対応を検討しているが、さらに一歩踏み込んで女性眼科医のキャリアアップにも学会として正面から取り組むべき時期に来ているのではないだろうか。

(日本眼科学会雑誌 110 : 607, 2006より転載)

女性眼科医へのエール 第2弾

山本 修一 (千葉大学大学院医学研究院眼科学 前教授)


 昨年このコーナーに女性医師急増による教室運営の苦悩を、思いつくままに綴ったところ、日眼会誌には決して相応しい内容ではなかったにもかかわらず、予想外に多くの方から感想をお寄せ頂いた。反響の大きさから、この問題が広く深刻化しつつあることと、そして日眼会誌が少なくともこのページについては意外と読まれていることを実感した。さらに日本眼科医会の女性医師活性委員会のメンバーにご指名いただくというおまけも付いてきた。今回も、柳の下の2匹目の泥鰌を狙って、女性眼科医シリーズ第2弾と行きたい。
 医師全体に占める女性の比率が高まるとともに、女性医師が眼科や皮膚科などの身体的・時間的拘束の少ない診療科で急増しているのは、各種の統計が示している。このような流れはある意味自然なものであり、これを変えることは不可能であろう。もちろん最近の千葉大眼科のように新入局者が女性ばかりでは、いずれ何らかの齟齬が生じる可能性がある。そうかといって「男!男!」と血眼になるのもみっともない。教室運営上、対応可能な点は現実に即して、積極的に変えていくしかない。
 とはいえ、現実問題はそれほど単純ではない。女性医師それぞれが抱える問題は多様である。教室主導で職場の環境改善をおこなったところで、それが無駄ではないにしても、果たせる役割は決して大きくない。「専門医を取るまでは子供を作るな」などという非人間的な内規が、非公式にせよ罷り通り、また多くの女性がそれに真面目に従っていた時代(そんなに昔ではない)から比べれば、大きく改善しているとはいえ、女性医師達を取り巻く諸問題は限りなく多様であり、その根は深い。
 ここで見逃せないのは、女性医師自身が医師という仕事に対して持つ使命感である。日眼医の委員会には日眼からは谷原教授と小生が参加しているが、医会側委員の大半は功成り名を成し遂げた女性たちである。彼女たちが医師としてのキャリアを積んできた時代は、下手をすれば産休すら認められない「男の時代」であり、男性には想像できない数々の困難を乗り越えて来たに違いない。若い女性医師の中でも母親が医師である場合、驚くほどの頑張りを見せてくれることが少なくないが、それは母親の背中を見て育ってきたからであり、また母親からの叱咤激励があるからだろう。
 その一方で、出産育児を理由に、医師としてのキャリアを簡単に放棄する女性も少なからず見られる。小銭が稼げるアルバイトには時間を割くが、キャリアアップはとうに諦めている。以前に比べれば仕事を続ける環境は格段に整っており、その気になれば選択肢はふんだんに用意されているにも関心を向けてくれない。医師免許を他の資格やお免状と同一視しているのか、医学部6年間に投入された膨大な公費や、卒前卒後の研修で未熟な医師に付き合ってくれた患者への恩返しをどう考えているのか。首を捻ることが少なくない。
 女性医師が仕事を続けるには「亭主とボスが鍵」という指摘があるが、亭主に比べてボスはかなり分が悪い。仕事を続けられるよう如何に工夫しても、「夫が賛成しない」「家族の協力が得られない」の一言で簡単に没になる。そう言われてしまうと、もはやボスの出る幕ではない。
 最近の勤務医地獄も逆風になりつつある。関連病院において、眼科を全科当直からはずしてもらうことも、医師不足が深刻な病院では主張しづらい。また経営上の問題を抱える病院からは、「黙って働く男を送れ」との要求が半ば公然と出されるようになってきた。 女性医師を養成しても男性並みの働きが期待できない。ならば医学部入学の段階で女性の数を制限するという「現実的対応」も当然、検討課題となる。もちろん女性の入学抑制を公然と行うことはできないが、2次試験で数学を課したり、面接の配点を下げれば、相対的に女性に不利になりその数は抑制される。しかし「数学ができるから医学部に入る」学生やコミュニケーション能力に欠ける学生を医学部から排除するのが社会の要請ではなかったか。
 いずれにせよ眼科における女性医師の急増は止めようの無い事実であり、今ここで彼女たちのキャリアアップを積極的に支援しなければ、将来的に眼科医療の量的のみならず質的低下を招く可能性が高い。2匹目の泥鰌は無力さを痛感して、かなり元気がなくなってきているが、眼科の未来のため一歩一歩前進して行くしかないようである。

(日本眼科学会雑誌 111 : 473, 2007より転載)

女医さんに送るエール

窪田 真理子 (千葉大学大学院医学研究院 眼科学)


 当科では、女性医師の出産・育児、さらにはキャリアアップに対するバックアップを積極的に行っています。詳細は当科教授の「日眼会誌」掲載記事をご覧ください。かく言う私は、同じく眼科医を続けながら、私含め3人を立派に(!? かどうかは疑問だが ・ ・ ・ ・一応まっとうな社会人に)育て上げた母の背中をながめて育ち、現在5歳の長女の手をひき、6ヶ月性別不明の胎児をお腹に抱えながらも、外来・病棟・手術・教育・研究、そして保育園の送迎と、元気に働いています。
 正直いって、つらいことも多いです。きついつわり、子供の急病、同業の夫の入院などで、周囲の先生方にご迷惑をおかけすることも多々ありました。しかし、できるときには密度濃く働き、使えるものは70歳過ぎた親でも(自身の診療を続けながらも4人目の子育てを楽しんでくれているようです?)、病み上がりの夫でも(開胸手術2週間後にはごみ捨てをしてくれていました!)使い、一緒に働く先生方への感謝の気持ちを忘れずに、細~くても長く眼科医として働き続けていければなと常々思っています。そして、何より、良くなって帰っていかれる患者様の笑顔が、私の原動力になっています。
 子供がいるから、家庭があるからという大義名分に頼りすぎずに、時に迷惑をかけるのは当然とおごらずに、謙虚な気持ちを持ちながら・・・・
 結婚・出産・育児の真っ最中、あるいはこれからに控えている女医さん!
 眼科医を目指すあるいは続けている女医さん!
 共に頑張りましょう!