疾患について

ページタイトル画像

心臓弁膜症

1. 心臓弁膜症とは

 心臓には4つの逆流防止弁があります。その弁に障害が生じて狭くなったり逆流してしまう疾患を総じて心臓弁膜症と言います。1つの弁膜だけでなく、同時に2つや3つの弁膜に障害が及ぶこともあり、その場合を連合弁膜症と呼んでいます。弁膜症による症状は障害された弁により様々であり、息切れや動悸、胸痛や下肢のむくみなどが代表的です。進行すると、呼吸困難や苦しくて横になれない(起座呼吸)という心不全症状が現れます。当科で手術を行っている主な心臓弁膜症の疾患は以下のようになります。

そして上記の組み合わさった、連合弁膜症です。

2. 心臓弁膜症の治療方法

 弁膜症の治療は、初期のものであればまず利尿剤の内服などといった内科的治療が行われます。それでも改善しないような高度の弁膜症であれば、手術治療が選択されます。弁膜症の原因として加齢による変性性変化が多くを占めており、80才以上のご高齢な患者さんが手術を受ける機会が増えてきました。手術前よりずっと楽になった、と喜んで退院される方も多くいらっしゃいます。
弁膜症の手術治療は、2つに大別されます。1つは、罹患した弁膜を人工弁に取り代える弁置換術です。弁置換術に用いる人工弁には大きく分けて機械弁と生体弁があります。もう1つの治療法は弁膜を修復・形成する弁形成術です。患者さんにとっては弁置換術よりも弁形成術の方が、術後の生活の質は優れています。当科では可能な限り弁形成術を行っております。ただ全ての患者さんに弁形成術が出来るとは限りません。弁置換術より弁形成術のほうが手術手技は複雑であり、外科医の経験がより必要になります。

僧帽弁形成術

 僧帽弁形成術とは文字通り僧帽弁を形成する手術です。つまり弁置換術と異なり、患者さんご自身の弁を温存し、それを切ったり縫ったりすることによって逆流や狭窄を治す技術です。形成術で治療できれば、人工弁に関係する合併症の心配がないため患者さんにとって大きなメリットとなります。ただ全ての患者さんに弁形成術が出来るとは限りません。
弁置換術より弁形成術のほうが手術手技は複雑であり、外科医の経験がより必要になります。当科では、一般的に僧帽弁形成術が難しいとされる複雑な症例に対しても、形成術を標準手術として施行しています。そして形成術を行う予定とした患者さんのほとんどで形成術を完遂しており、その成績は非常に良好です。

大動脈弁形成術

 大動脈弁形成術は、大動脈弁閉鎖不全症(逆流症)の患者さんに行う手術です。以前は大動脈弁置換術を選択されていたことが多かった疾患ですが、当科では弁尖の破壊や変性が軽度の症例において、できる限り大動脈弁形成術を行っており、良好な成績を残しています。大動脈のねもとである基部が拡大している大動脈弁閉鎖不全症に対しては、積極的に大動脈弁温存大動脈基部置換術(David手術)を行っています。

機械弁を用いた僧帽弁置換術、大動脈弁置換術

 機械弁はすべて人工の材料から構成されている弁で、耐久性に優れており、一度の弁置換で生涯使用できる可能性が高いという利点があります。現在主流な機械弁は、主にカーボン素材でできた半月状の二枚の板が開閉する構造をしています。機械弁の注意すべき点は、抗凝固療法を必要とするところであり、生涯に渡って毎日欠かさず抗凝固薬「ワーファリン」を内服して血液の凝固機能を抑える必要があります。抗凝固薬の調節が不良な場合、脳梗塞といった血栓塞栓症を起こしたり出血傾向になることがあります。そのため定期的に外来を通院していただき、ワーファリンの量の調整を行っていく必要があります。

生体弁による僧帽弁置換術、大動脈弁置換術

 弁膜の部分が人体に近い素材で出来ているため、生体弁は抗血栓性に関して機械弁より勝っています。一般的には手術後3ヶ月ほど抗凝固薬「ワーファリン」を服用し、それ以後は内服の必要はないため、ワーファリン内服による煩わしさや出血のリスクが低いことが利点です。問題点は機械弁と比較して耐久性が劣ることです。個人差はありますが、時間とともに生体弁は劣化し、固くなったり穴が開いたりします。かなり改良が加えられてはいますが、その耐用年数は10年から15年、長くても20年と言われています。若い方や透析をしている患者さんは、弁の劣化が早いと言われています。劣化がおきたときは再手術が必要となるため、生体弁は抗凝固療法が行えない患者さんや高齢者の患者さんに選択されます。一般的には65歳以上の患者さんが生体弁を選択することが多いです。また若年女性で妊娠希望のある場合は生体弁が選択されます。

 このように、弁置換術の際の人工弁の選択について一応の基準はありますが、絶対的な基準ではありません。当科では機械弁と生体弁のどちらを選択するかについて、患者さんの年齢や生活習慣、そして患者さんのご希望にあわせて、十分お話しをさせて頂いた上で決定させて頂いております。どうぞ安心してご相談ください。

三尖弁形成術

 三尖弁閉鎖不全(逆流症)により、下肢のむくみや肝臓の機能障害をおこすことがあります。当科ではそのような患者さんに対して積極的に三尖弁形成術を行っており、年々手術件数は増加しています。三尖弁形成術のみを行う患者さんもいらっしゃいますが、多くは他の僧帽弁手術などと同時に三尖弁形成術を行っており、その成績は非常に良好です。

3. まとめ

 以上のように弁膜症に対する手術は多岐にわたり、診断から治療まで専門医による高度な判断と技術を要します。手術前は苦しくて横にもなれなかった方が、手術後は症状なく元気に歩いて退院されることも多く、ご高齢だから手術できないということもありません。弁膜症と診断され、当院で治療をご希望の方はいつでも診察を受けることができますので、安心してお気軽にご相談ください。当科スタッフが患者さんと一緒に治療方針を決定し、より良い医療を提供できるよう尽力させていただきます。