疾患について

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重症心不全

重症心不全の外科的治療

 心臓の機能が低下すると、全身に血液や酸素が十分に送り出せなくなります。この状態を心不全といい、進行すると全身の臓器に障害が現れます。心不全とは病名ではなく、心臓のポンプ機能が衰え全身の臓器に必要な血液が運ばれなくなった状態の総称です。症状としては、息切れや易疲労感、呼吸困難、浮腫、動悸、胸痛などがありますが、重症化すると安静時でも症状を自覚するようになります。

 心不全の原因は色々あり、例えば、心臓の筋肉が障害されて起こるもの(心筋梗塞、心筋症、心筋炎など)、心臓への過負荷が影響を及ぼしたもの(高血圧、弁膜症、先天性異常など)、不整脈に続発するもの(洞機能障害、頻拍症、心房細動など)、全身の代謝異常に関連するもの(甲状腺機能障害など)、または慢性的な低酸素状態から起因するもの(貧血、慢性肺疾患)などがあります。心不全の治療は、原則的にまず内科的治療(安静、水分・塩分制限、薬物療法)を行いますが、薬物治療だけで症状を抑えることが出来なくなりますと外科的治療(弁膜症手術・冠動脈バイパス術・左室形成術などを単一または組み合わせで行う治療)の対象となります。

 心不全が重症化し難治性となる(強心剤依存となる)と、予後は極めて不良であり、通常の治療法では効果がなく、補助循環治療や心臓移植などが検討されます。

 難治性の重症心不全に対して、現在、唯一にして最も有効な治療法は心臓移植です。心臓移植は年々成績が向上していますが、移植にはドナー(提供者)が必要であり、心臓ドナーの不足は現在も深刻で移植待機期間も年々長期化する一方です。

補助人工心臓

 補助人工心臓(Ventricular Assist Device/System: VADまたはVAS)とは、心臓のポンプ機能を機械的に代行する装置です。その需要と期待の高さから世界的に開発が進み、今では心臓移植待機期間中の心臓補助として非常に重要な役割を果しています。補助人工心臓装着の対象となるのは、難治性の重症心不全であり、従来の治療法(薬剤やその他の補助循環装置)では回復が見込めず、心臓移植以外には救命が困難と考えられる病態です。通常は心臓移植までの状態維持を目的にこの補助人工心臓を使いますが、弱った心臓を休ませ、その回復を図る目的に使用する場合もあります。VAD装着により自己心機能が回復し、VADから離脱できた報告もあり、今後その適応拡大が予想されます。

 補助人工心臓は、日本には様々に装置が使用可能なりましたが、基本的には血液ポンプ、制御駆動装置、エネルギー供給システム等から構成され、血液ポンプの留置の位置により体外設置型と体内設置型(植込み型)に分かれます。補助人工心臓には、左心室の補助を行う左心補助人工心臓(LVAD)と、右心室の補助を行う右心補助人工心臓(RVAD)があり、心不全の種類によって選択され、左右のVADを必要とする場合もあります。 主に使用される左室補助人工心臓(LVAD)は、血液を心臓の左心室または左心房から受け取り、全身(大動脈)へと送り出すものです。心臓から血液を引き出す管(脱血管)と、大動脈へ血液を送り込む管(送血管)を取り付け、それらは血液ポンプに接続されます。血液ポンプは、空気の陰圧/陽圧あるいは電子遠心装置により駆動され、それに連結した制御駆動装置でその機能を調節します。

 活動が制限され、装着のまま退院は不可能である体外設置型VADに比べ、植込み型VADは、装着のまま在宅療養ができ、場合によっては社会復帰も可能となるなど、当然その需要は高まっており、より小型化・軽量化への開発も進んでいます。現在、日本には海外のものから国産のものまで数機種が使用可能となっており、患者様の状態や体格に合った機種が選択されますが、日本における植込み型VADの使用条件は心臓移植適応であることに限定されており、心臓移植適応基準を満たない方には使用できません。

 当科では、2010年に認定補助人工心臓実施施設となって以来、これまで24名の末期型重症心不全の患者様に補助人工心臓手術を行っており、そのうち10名の患者様に植込み型VADの装着術を行って参りました(2015年4月時点の集計)。治療のためまだ入院中の方もいらっしゃいますが、多くの方には現在外来通院しながら自宅にて療養・移植待機して頂いております。

当科で使用してきた植込み型LVAD

外国産

国産