研究・業績

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研究紹介

皮膚がんに対するより効果的な免疫療法の開発
悪性黒色腫におけるエピゲノム異常
“超個体”の統合的理解に基づく次世代型「感染制御学」研究推進拠点
免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム

2023年4月12日

皮膚がんに対するより効果的な免疫療法の開発

研究代表:猪爪隆史

メラノーマをはじめとする皮膚がんは、ノーベル賞を受賞した治療薬、抗PD-1抗体が効きやすいがんである。図のように、がんを攻撃できるT細胞が、がんを攻撃する際に活性化して表出する“ブレーキペダル”がPD-1で、がんがT細胞を返り討ちにするために出す“ブレーキを踏む足”がPD-L1である。この結合によってT細胞の攻撃は止められてしまい、がんは増殖を続ける。抗PD-1抗体はPD-1(ブレーキペダル)とPD-L1(ブレーキを踏む足)を引き剥がしてT細胞を再活性化する薬剤である。しかし全員に効くわけではなく、また自己免疫という副作用が起きるのも問題である。研究による解決が望まれるが、雑多なT細胞集団の中から、がんを攻撃できるT細胞を見分けて精密に解析することの難しさが障壁となってきた。

私たち研究班は千葉県がんセンター 細胞治療開発研究部(河津正人部長)や岡山大学学術研究院 医歯薬学域 腫瘍微小環境学分野(冨樫庸介教授)と共同で、患者さんの皮膚がん組織からがん細胞とT細胞を抽出し、共培養することでがん細胞に反応できる重要なT細胞のみを選び出し、シングルセル解析によってその特徴をより深く解析する研究を行っている(図)。

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私たちの研究は、

(1)がんを攻撃できるT細胞だけに共通の特徴を見つけて、より精密な効果予測や効果増強と副作用軽減に結びつける

(2)PD-1やPD-L1のような、がんを攻撃できるT細胞を抑制している新しいブレーキ機構を見つけて、新しい治療法の開発につなげる

を目標としている。

2021年4月1日

悪性黒色腫におけるエピゲノム異常

研究代表:山本洋輔

エピゲノムとはDNAの塩基配列の変化を伴わないゲノム修飾情報であり、細胞分裂後も継承され遺伝子発現を調節します。より分かりやすい説明としては「遺伝子を使う、使わないのスイッチ」です。発生において有性生物個体は受精卵である1個の細胞から発生、分化が始まりますが最終的には皮膚、胃、肺といった様々な器官が形成されます。個体を形成するすべての細胞のゲノムは同一であるため、肺になる細胞は肺になるために必要な遺伝子のみが使われ、皮膚になる細胞は皮膚になるために必要な遺伝子のみが使われます。これら遺伝子のオン・オフ状態を調節する機構の一つがエピゲノムです。

エピゲノムは様々な癌種で発癌の要因として注目されており、主にDNAのメチル化とヒストン修飾が知られています。

悪性黒色腫の患者群にはDNAにメチル化が高頻度に見られる群と、そうでない群があり、メチル化が高頻度に見られる群では腫瘍が厚く予後不良であることを発見しました。それらメチル化の違いを既定する遺伝子を抽出し、そのノックダウン実験を通じてTPFI2遺伝子のメチル化が悪性黒色腫の癌原性に関与している可能性について解明しました。エピゲノム異常に着目し、従来にない治療標的となりうる分子を解明しています。

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Yamamoto Y, Matsusaka K, Fukuyo M, Rahmutulla B, Matsue H, Kaneda A. (2020)
Higher Methylation Subtype of Malignant Melanoma and Its Correlation With Thicker Progression and Worse Prognosis.
Cancer Med. 2020;9:7194-7204.
PMID: 32406600
DOI: https://doi.org/10.1002/cam4.3127

Advanced Research of Infection and Immunity 
Based on Integrative Understanding of Host-Microbe Interactions
“超個体”の統合的理解に基づく次世代型「感染制御学」研究推進拠点

Leading Research Promotion Program, Institute for Global Prominent Research, Chiba University
千葉大学グローバルプロミネント研究基幹リーディング研究育成プログラム

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我々の身体は30兆個を超える細胞からなる集合体として機能していますが、近年、実はそれを遥かに超える100兆個以上の様々な微生物と共存し、それらとの相互作用を介して個体としての恒常性が維持され、健康な生活を可能にしていることが明らかになっています。すなわち、我々の健康を脅かす感染症などの「疾患」とその「治療」を考えるうえで、我々ヒト“個体”を、共生微生物との集合体すなわち“超個体(Superorganism)”として捉え、それらとの関係を総合的に理解することが必要になっています。

我々のグループでは、共生微生物と宿主である個体の免疫システムとの相互作用、そこへ侵入する病原体による恒常性の破綻と感染症の発症機序などについての基礎研究を、皮膚、呼吸器、消化器など各種器官でのモデル実験系を用いて解析しています。さらに、そこから得られる成果を拠点内で統合して理解することにより、“超個体”としての感染症・免疫制御メカニズムを明らかにする次世代型の「感染制御学」を創出し、我々の健康維持と感染症などの克服へつながる新規イノベーション創生を目指しています。


免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム img_LGS_logo.png

臨床に携わる者として,日頃の診察の中で感じた疑問点や,患者さんの診察を通じて気付いたことを出発点とした研究を目指しています。 また,平成25年度から開始される博士課程教育リーディングプログラム「免疫システム調節治療学推進リーダー養成プログラム」の一員として,千葉大学が得意とする「免疫・アレルギー」および「腫瘍」に関する研究を,私達の教室でもメインとして取り組んで行く予定です。