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人口動態調査に基づく千葉県未成年者死因分析

 千葉大学大学院医学研究院法医学教室及び同附属法医学教育研究センターは、千葉県死因究明等推進会議での検討を踏まえ、統計法33条の規定に従い、千葉県における子供の死の統計調査に係る調査票情報の提供を千葉県から厚生労働省に申し出、厚生労働省が保有する過去5年間(平成24年~平成28年)の死亡票及び死亡個票[注1]の提供を受け、千葉県における未成年者の死亡に関する調査を行った。以下のとおりその調査結果を報告する。  
 5年間の合計数は、死亡票が1307人、死亡個票が1195人だった。死亡票と死亡個票ではその記載内容に異なる点があるので、一部の事項については両者に共通して付与される番号を用い、それが一致する1149人を対象として調査した。また、解剖関係の統計では千葉大学における解剖情報を加味した。年齢区分については多くは学齢等に準じ、0歳、1-5歳、6-11歳、12-14歳、15-17歳、18-19歳としたが、項目によっては適宜他の区分も用いた。   

[注1] 死亡票、死亡個票
 各市町村は、届け出られた死亡診断書(死体検案書)に基づいて「人口動態調査死亡票」を作成し、所轄の保健所に送付する。死亡小票は死亡票に基づいて作成され保健所で管理されるものであり、死亡個票とは、都道府県に報告された死亡票が厚生労働省で受け付けた時点のデータをいう。さらに、厚生労働省で審査・訂正を行い、死因に関しては疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)に基づいて付番するなどすべて記号化したものが「死亡票」である。死亡票には文字情報は含まない。様々な事務手続きの過程で、両者の数の不一致が生ずる。  

 

1.平成24年~平成28年、千葉県未成年者の主な死因
 表1は、死亡票から得られた主な死因と年次別の死因を高位のものから順に書き出したものである。大分類は、病死については死因簡単分類で千の位を用いた。ただし、その他に分類されないもの(不詳)は、18300の「その他の症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの」とした。外因死については死因簡単分類で百の位を用いた。中位分類については、病死の場合死因簡単分類で百の位を、不慮の事故は一の位を用い、自殺については、ICD10のX60-X84の分類に従った。  

 死因の第1位は5年間を通じて「先天奇形、変形及び染色体異常」であり、2位は「自殺」、「周産期に発生した病態」、「不慮の事故」のいずれかであった。中位分類では、自殺のうちの「縊首,絞首及び窒息」、「心臓の先天奇形」、「周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害」が上位だった。年次による有意な差はなかった。  

 

2.千葉県内の保健所別にみた死因簡単分類別死亡率
 表2は、死亡票の簡単分類から得られた死因の種類及び死因別の保健所管轄別の死亡数である。ここで、不慮の事故とは、交通事故、転倒・転落、溺死、火災等、窒息、中毒、その他の不慮の外因の合計であり、また不詳の死とは簡単分類で「症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの(18000)」とされたもので、死亡個票の死因の種類「12不詳の死」から得たものではない。病死の内数は、簡単分類で千の位の分類項目を用い、各保健所別で5件以上のものをまとめたものであり、循環器系の疾患には、心疾患、大動脈瘤及び解離、脳血管疾患を、また、呼吸器系の疾患には、肺炎、喘息、インフルエンザを含む。外因死の内数は簡単分類で一の位の分類であるが保健所別で5件以上のものは交通事故のみであった。いずれも原則5件未満の数字は*とした。  

 保健所別にみた死因簡単分類別死亡率については、母数が少ないこと、都市部と郡部に明確な地域分けができないことなどから、統計上有意な差は得られなかった。  

 

3.千葉県内の死亡の場所別にみた主な死因の性・年齢別死亡数及び百分率
 表3-1は、死亡票から得られた死亡の場所別にみた性別の死亡数及び全体に対する百分率である。  

 表3-1をみると、病院内死亡(病院及び診療所)では男女差はあまり認められなかったが、自宅は男性の割合が60%を超え、さらにその他では70%以上が男性だった。男女の病院外・病院内死亡の割合について、Fischerの正確検定を行いp<0.05を有意として比較したところ、男性で有意に病院外(自宅及びその他)死亡が多かった、また、その他の場所での死亡の内訳は男性が有意に多かった  

 

 表3-2-1~表3-2-4は、死亡の場所別に性・年齢別死亡数を集計したうえで、主な死因の死亡者数とそれぞれの年齢階級の死亡者数に対する百分率を算出したものである。ここでは、伝統的な死因統計に従い、例えば1では循環器の疾患として扱った心疾患と脳血管疾患を分け、あるいは「症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの」として扱った乳幼児突然死症候群とその他の不詳の死(その他の診断名不明確及び原因不明の死)を分けている。いずれの表も、病死の場合は男女計10未満、外因死の場合は5未満の死因に関しては掲載していない。  

 表3-2をみると、病院外死亡が多い一因が自殺であり、自殺の男女差が大きいことが自宅や屋外などから病院搬送なく死亡していることが認められる。  

 

 表3-3は、死亡票及び死亡個票に共通する1149人について死亡の場所別にみた死因簡単分類死亡数を示したものである。  

 その結果、病院死亡や診療所死亡では病死の割合が高く、自宅死亡、その他の場所での死亡に順で病死が減少し、外因死が大きくなっていた。  

 

4.千葉県内の死亡数、性・年齢・死因別
 表4-1、表4-2は、死亡票に基づき、死因を病死(症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの〔不詳の死や乳幼児突然死症候群〕を含む)、不慮の事故、自殺、他殺、その他及び不詳の外因に分類したうえで、それぞれ、年齢別(表4-1)、及び性・年齢別(表4-2)に主な死因、死因の種類、死亡の手段について集計したものである。死因の分類については、病死に関しては2と同様であるが、外因死については別に分類の基準を設けた。不慮の事故は簡単分類の一の位で、死亡の種類に準じて集計したが、自殺、他殺については、ICD10の分類(傷病及び死亡の外因)を参考に集計した。年齢別については、比較的件数が多い特徴的な項目についてのみその内数である死因等の数値を示した。百分率は、それぞれの項目を、男性、女性、合計の全死亡票の数(それぞれ761, 546, 1307)で除したものである。  

 病死に関しては、0歳児で先天奇形、変形及び染色体異常が多く見られ、年齢が高まるにつれ、新生物<腫瘍>が死因の上位になっている。不慮の事故については、0歳で窒息、1~5歳で溺死、6歳以上では交通事故が死因の第一位を占めている。自殺については、全体的に縊首、縊頚及び窒息が多いものの、列車等移動中の物体への飛込みの割合も高い。
 死因の種類別では、病死が年齢を加えるごとに減少し、自殺の割合が増加するのが明瞭に分かる。男女別では、自殺は男性が女性の2.8倍であるのに対し、他殺の被害者は女性が男性の2倍に達している。  

 

 表4-3、表4-4は、死亡票及び死亡個票に共通する1149人について不慮の事故、自殺、他殺,その他の外因の詳細をみたものである。この調査には千葉大で行われた解剖に係る情報も利用した。死因の種類については死亡個票の死因の種類欄ではなく死亡票のICD10コードを参照した。死因についても同様である。なお、以下の説明には、この表には記載していない、外因死の追加事項の情報から得たものも含んでいる。  

 交通事故の特徴として年長者で車両(乗用車、大型車等)の事故、年少者で歩行中や停止中の事故へ遭遇する傾向がみられた。また、車両等には自転車、遊戯用ボード(車輪のついたもの)を含み、年少者の死亡にみられた。
 転倒、転落の多くは高所からの転落であった。
 溺水は、自然水域(海、河川、湖など)は3~9歳、16~19歳の2群で死亡がみられた。風呂場での死亡は、0~17歳で幅広くみられ、年少者では家人が目を離していた隙に風呂場へ侵入したケース、年長者では一人で入浴中に死亡していたケースが目立った。
 窒息は、就寝環境と死亡の関連が否定できないものが多くあった。これらは全て0~1歳であり、うつぶせ寝、添い寝、川の字での就寝、布団やクッションの圧迫、寝具の不適切使用(ベビーバスをベッド代わりに使用等)などの状況が疑われた。
 自殺の詳細をみると、年齢分布は11歳が最低年齢であり件数は年齢に比例し漸増傾向で、19歳が最多であった。手段は縊頚が最も多く、列車等への飛び込み、高所からの飛び降りが続いた。障害が発生した場所は、自宅が最も多く、駅や線路、高層ビル(主にマンション)と続くが、それぞれ縊頚、列車への飛び込み、高所からの飛び降りと対応していた。
 他殺では、全事例で解剖されていた。転落による死亡が多く、頚部圧迫、暴行、一酸化炭素中速などによる死亡もみられた。千葉大学法医学での解剖事例について検討すると、大多数が父母による無理心中により死亡した児であり、一度に複数人の児が死亡した事例が含まれていた。
 その他および不詳の外因は、不慮の事故、自殺、他殺の判断がつかないものが含まれている。  

 

5.千葉県内の死因簡単分類別にみた解剖の実施率
 表5-1は千葉県内の死因簡単分類別にみた解剖実施率である。当初は法医解剖と病理解剖を分けて集計しようとしたが、千葉大学以外の解剖の種別を判断するための情報が入手できなかったため区別せず集計した。死亡票から得た解剖数の合計は164だったが、千葉大学における解剖事例と死亡票、死亡個票を突合した結果、10件について解剖なしとされていたことが判明した。さらに、死亡票及び死亡個票いずれにも反映されず漏れていた可能性のある解剖事例が2件あったことが判明したため、合計数を176として集計した。合計で12件の事例が解剖なしとして見逃される可能性があり、その原因として死体検案書の解剖の有無欄について、医師の記入漏れがあったことが考えられる。医師記載の死亡個票と死亡票で死因が異なる場合は、厚生労働省提供の死亡票の死因を優先した。病死等の場合の千の位の分類、外因死の場合は5桁分類によりすべての簡単分類について集計した後、小分類については病死等で百の位以下が5件以上を認めた項目について表記した。
 全解剖実施数176に対し千葉大学における解剖数は75件だった。このうち、死亡票及び死亡個票を突合できるものは69件だった。69件中25件で死因の種類が一致しないことが判明した(死因簡単分類では26件)。法医解剖結果で他殺となるにもかかわらず他殺以外の死因として発行されているものが9件、法医解剖の結果をもっても死因が不詳であるにもかかわらず検案医師により病死として発行されているものが5件、法医解剖により適切な死因が判明しているにもかかわらず不詳として発行されているものが10件あった。なお、対象期間では千葉大学法医学所属医師が発行した死亡診断書(死体検案書)はなかった。  

 解剖率の高い死因を挙げると、死亡票の簡単分類から、他殺(100%)、その他の外因(71.4%)、症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの(33.3%)、内分泌、栄養及び代謝疾患(30.8%)の順だった。それに対し、自殺の解剖率は3.0%にとどまっていた。ただし、症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないものの内数である乳幼児突然死症候群の解剖率が30.4%ということに関しては問題がある。厚生労働省が発行している「乳幼児突然死症候群(SIDS)診断ガイドライン(第2版)」には、「その診断には解剖による精査が必須である。」と書かれているのにもかかわらず、解剖なしで死因を乳幼児突然死症候群としている実態が見られる。  

 

 表5-2は、死亡票及び死亡個票に共通する1149人のうち、千葉大学法医学で解剖した69人について死体検案書記載の死因と千葉大学法医学での法医解剖で確定された死因を比較したものである。法医解剖結果で他殺となるにもかかわらず他殺以外の死因として発行されているものが9件、法医解剖の結果をもっても死因が不詳であるにもかかわらず病死として発行されているものが5件、法医解剖により適切な死因が判明しているにもかかわらず不詳として発行されているものが10件あった。  

 千葉大学法医学の解剖結果から法医学医師が決定した死因を参照標準とし、死体検案書での診断結果の感度を一致率として求めると、死因の一致率は62.3%で、単純κ係数は0.5633であった。死因簡単分類16000周産期に発生した病態、17000先天奇形,変形及び染色体異常、20104不慮の窒息、20105煙、火及び火炎への曝露、20200自殺は一致率100%であった一方、10000呼吸器系の疾患、11000消化器系の疾患は一致率50%以下で、4000内分泌,栄養及び代謝疾患、20101交通事故、20106有害物質による不慮の中毒及び有害物質への曝露、20107その他の不慮の事故は一致率0%だった。  

 

6.千葉県内の死亡診断又は検案した医師の特性別にみた死亡数及び死因簡単分類別死亡数
 表6-1は、死亡票及び死亡個票に共通する1149人を対象としたデータの概要である。医師の特性である所属医療機関は、医師記載の住所から病院(病床数20床以上)、診療所(病床数19床以下)、法医学、不詳とした。地域は、保健所管轄区域ごとに対象期間中の0歳から19歳の合計の平均により小規模(5万人未満)、中規模(5万人以上10万人未満)、大規模(10万人以上)とした。
 表6-2は、死亡診断又は検案した医師の特性を、特性1では警察嘱託医の有無、特性2では所属医療機関とした一般総合病院、小児総合病院等、病院別に死因簡単分類別死亡数及びその割合を示したものである。  

 

表6-3, 4は、一部の死因についてその死亡数、死因の判定に影響を与える項目と医師の特性の関係を示したものである。  

 その結果、病死の88%は病院所属医師が診断していた。外因死は、42%が病院医師、54%が診療所医師による診断であり、警察嘱託医の割合は54%であった。診療所所属の医師292人中、82.9%に当たる242人が警察嘱託医であることから、外因死の半数以上は病院医師の関与しない死亡であることが示唆された。死因では、無酸素性脳損傷、詳細不明の敗血症、心不全、呼吸不全など、先行する病態が示唆されるものや死亡前の最終病態と考えられるものが合計で69件あった。乳幼児突然死症候群は診断に解剖が必須であるが、乳幼児突然死症候群と診断された事例のうち17件中13件で解剖無し、不詳の死とされたが解剖等の死因究明が行われていない事例は64件中22件だった。また、死因判定に影響を与える項目として、解剖実施事例のうち解剖内容についての無記載または情報無しは23人で、全解剖数145人のうち15.9%だった。また、当研究室のデータベースと比較したところ、このうち10人(43.5%)は解剖が実施されているが「解剖無」として取り扱われていた。厚生労働省が行ったICD-10コードで外因死とされていても外因死の追加事項に手段及び方法に記載がないものは18人だった。医師氏名や所属機関等の住所欄が無記載のものは合計で25件あり、うち氏名、住所いずれも空欄だったものは8人だった。  

 

まとめ
 詳細な検討については別の機会に譲ることとして、今回の調査結果を概略する。死因に関して言えば、0歳では「先天奇形、変形及び染色体異常」と「周産期に発生した病態」が多く、15歳以上では自殺がトップだった。これは千葉県に限ったものではないが、自殺は全国平均と比べ割合が大きかった。
 解剖の実施率は、13.5%(死亡票に基づく)であった。自殺の解剖数の少なさが全体の割合を引き下げており、この点については別の議論が必要だが、不慮の事故、不詳の死などについても、再発防止の観点からみて決して高い数字ではなかった。
 死亡の場所では、病死はほとんどが病院医師により診断されている一方で、外因死の約半数は病院医師が関与せずに警察嘱託医等が死因診断を行なっていることが明らかとなった。警察嘱託医はほとんどの場合、警察の依頼により死体検案書を発行するため、外因死の約半数については事故、事件の判定のために捜査が行われていると推測される。つまり、残りの約半数は一般には警察介入がない場合が多いため、特に外因死の場合、虐待や他殺等が見逃されている可能性があることが示唆された。また、外因死の発生状況をみると、死因については疑義がないが、傷害が発生した状況が死亡診断書または死体検案書の記載からでは判然としないものが多かった。一方で、交通事故、溺水、窒息、自殺では具体的な情報が得られたものもが一定数あったため、それらの傾向から再発予防策の提言が可能であると考えられた。特に外因死については、記載についてその基準が明確に設定されれば、死亡診断書等からも有用な情報が得られることが示唆された。また、原死因として、先行する別の病態のある病名や死亡前の最終病態が用いられているものがあり、それらのほとんどは解剖されていなかった。死亡診断書の記載方法の問題と、解剖等の死因究明の推進の必要性が示唆された。
 以上より、千葉県のみならず、全国的にこのような死亡証明書の内容について妥当性を検証する仕組みの必要性が議論されるべきであり、また、正確な死因統計の作成のためには、解剖を推奨し、その結果を統計に反映させる必要があるとの意見を付したい。  

 

本調査の意義
 近年、死因究明に関係する法律が相次いで施行された。一つは、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な 成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律(成育基本法)」であり、このなかで、子どもの死亡事例を検証し類似の死を予防する Child Death Review (CDR) の実施の方向が規定されている。もう一つは、「死因究明等推進基本法」であり、ここでも、「死因究明等により得られた情報の一元的な集約及び管理を行う体制」とともに、「子どもが死亡した場合におけるその死亡の原因に関する情報の収集、管理、活用等の仕組み」を検討する旨が規定されている。その意味では今回の調査は時宜を得たものと言えよう。子どもの死の予防にはその前提として精度の高いデータが不可欠である。わが国の死亡データの大部分は、死亡証明書(死亡診断書または死体検案書)に記載された事項に基づいて作成される死因統計に含まれている。したがって、今回の死亡票、死亡個票に基づいた調査は、CDRを実施するうえで極めて価値の大きいものであると言うことができる。そこで、調査の結果を踏まえて、本調査の意義を確認したい。
 まず、わが国はこうした統計を集積しながら、公開にあたって厳しい制限がかけられているため、従来研究者がこうした資料の開示を受けるケースが極めて少なかった。今回は、千葉県、並びに千葉県死因究明等推進会議の計らいで、厚生労働省の理解を得て調査ができたことはそれだけでも意義があるだろう。
 具体的な成果もいくつか挙げることができる。事故や自殺の再発を防ぐには、その原因を分析し、どのような施策をとるべきかとの検討が不可欠である。例えば、窒息による死亡はほとんどが0-1歳で起こっており、その原因をみると、そのほとんどが、うつぶせ寝、添い寝、川の字の就寝など、就寝環境に関連するものであった。このことから、再発防止のためには乳児の誕生前後の両親への教育が極めて重要であることが認識できる。また、自殺についてみると、そもそも千葉県の未成年の自殺率は全国平均より高く、とりわけ、列車への飛込みが相対的に多いことがわかった。これは、一般的な自殺予防の啓発等に加え、ホームドアの整備を加速するなどのきめ細かな防止策が必要であることを示唆している。さらには、浴室での溺死の予防策、転落の防止なども、個々の事案から考えることができる事例も多々あった。こうして、「防げる死」の再発を防止する観点から様々な成果を得ることができたことから、今後、これら調査の結果をどう活かすかが検討されるべきである。
 当初は、今回の調査目的の一つに子どもへの虐待の問題が挙げられた。しかし、本調査期間に、狭義の虐待(身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待)による死亡事案は少なくとも統計上は皆無だったため、その検討はできなかった。反面、広義の虐待である、いわゆる無理心中(他殺後の自殺)の事案は多数みられた。その再発防止のための検討には、警察や救急、行政はもとより、精神科医、心理学の専門家、保健師、自殺の研究者など、多業種の参加による討議が必要である。そうした試みも一部では行われているが、この調査を契機にさらに具体的な取組みが行われるよう望んでいる。
 一方、今回の調査で、いくつかの問題点も指摘できる。一つは、情報量の少なさである。死亡状況を知るうえでは、検案、解剖、諸検査による医学的情報、警察などが調査する周辺情報の両者が欠かせない。医学的情報について考えると、外因死で解剖を実施しなかった事例は、主に警察嘱託医が検案を行っているため、臨床情報の不足や、検案医の診断自体の不十分さも散見された。また、特に自殺の場合など、再発防止には死に至った周辺の情報が必要なのだが、それも不足している。これら豊富な情報集積のためには、死因究明の実務の改善に加え、死亡証明書の記載方法についても再検討の余地があるだろう。こういった点から、現在の死亡証明書に基づく統計は、なかなか精度の高いものになりにくい状況であることがわかった。
 以上、本調査の意義等を簡単に振り返った。この経験を踏まえ、今後の千葉県におけるCDRに向け、情報収集、管理、活用の在り方等について、議論がより深化し、実効性のあるCDRが実現することを期待している。