鈴木忠樹 教授
2025年4月1日付で千葉大学大学院医学研究院 感染病態学の教授に着任した鈴木忠樹と申します。私は2002年に北海道大学医学部を卒業後、同大学院分子細胞病理学にて長嶋和郎教授のもとで外科病理学の研鑽を積むとともに神経難病である進行性多巣性白質脳症を引き起こすJCウイルスの分子ウイルス学研究に従事し学位を取得いたしました。その後、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターにて澤洋文教授のもとでポスドクトレーニングを行い、人獣共通感染症ウイルスに関する基礎研究に取り組みました。2009年より国立感染症研究所(感染研) 感染病理部に赴任し、佐多徹太郎部長、長谷川秀樹部長のもとで新興ダニ媒介性ウイルス性出血熱である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などの新興・再興感染症の病態・病理解明に関する研究や経鼻不活化インフルエンザワクチンなどの新規ワクチン開発研究に携わってきました。2015年には新興感染症の病理学研究で高名なSherif Zaki博士が率いる米国CDC感染症病理部門(Infectious Diseases Pathology Branch)に1年間留学し、感染症の病理学検査やアウトブレイク時の実地対応に従事しました。この留学時、米国CDC内では南米で発生したジカウイルスによる先天性ジカ症候群のアウトブレイク対応が大規模に実施されていました。私も先天性ジカ症候群レスポンスにおける感染症病理部門での検査業務に従事する機会をいただき、CDC内の複数の専門職が連携してエビデンスを迅速に創出し、それらのエビデンスを公衆衛生対策に還元していく現場に立会うことができました。さらに、2020年1月に感染研感染病理部長に着任直後に発生したCOVID-19パンデミックでは、感染病理学アプローチによる病態解明研究だけでなく、病原体検査法、抗原検査キット、ワクチンなどの開発、全国血清疫学調査、FF100調査のような公衆衛生対応など多岐にわたる感染症対策に関わり、研究成果を実社会の対策に直結させる経験を積みました。これらの経験を通じて実感したのは、臨床医学、微生物学、免疫学、病理学、疫学、公衆衛生学、情報科学といった専門領域を横断的に結集する「異分野融合型の感染症研究」が、感染症対策に不可欠であるということです。
千葉大学では、2025年4月に発足した国立健康危機管理研究機構とのクロスアポイントメントのもと、感染研での経験と人的・技術的リソースを活かした教育・研究活動を通じて、実践的な異分野融合型の感染症研究を推進し、次世代の感染症研究と感染症対策を担う人材の育成に注力していきたいと考えています。感染症という人類共通の課題に対して、微生物学・医学の力で立ち向かう基盤を千葉大学に築き上げられるよう力を尽くしていきます。学生や若い研究者の皆さんとともに、この刺激的な研究分野を切り拓いていけることを楽しみにしています。