感染症は、基礎研究、臨床医学、獣医学、公衆衛生、情報科学が交差する領域です。ひとつの専門だけでは解けない問題が多く、だからこそ、多様な背景を持つ人が集まる意義があります。
感染病態学では、病原体と宿主の相互作用を理解し、感染症の発症、重症化、伝播の仕組みを明らかにすることで、次の感染症危機への備えに貢献する研究を進めます。
感染症研究を通じて社会に貢献したい方、基礎研究を公衆衛生や医療へつなげたい方、分野横断的な研究に挑戦したい方からの連絡をお待ちしています。
当研究室は、2025年4月に新設された研究室です。本研究領域では、急性呼吸器感染症および人獣共通感染症を主な対象として、ネクストパンデミックの予防・備え・対応、すなわち Pandemic Prevention, Preparedness and Response(PPR)に資する感染病態学研究を推進しています。
感染症は、病原体の性質だけで決まるものではありません。ウイルスや寄生虫などの病原体と、ヒトや動物などの宿主との相互作用によって、発症、重症化、伝播、免疫応答が規定されます。そのため、感染症の本質を理解するには、微生物学、病理学、免疫学、血清学、細胞・分子生物学、疫学、情報科学、数理モデル、獣医学、臨床医学、公衆衛生学を横断する研究が必要です。
当研究室の主たる研究対象はウイルスですが、感染病理学、分子生物学、免疫学、疫学を統合した研究アプローチは、細菌に加え、真菌や原虫などの真核生物性病原体にも展開可能です。とりわけ、これらの病原体の一部は、複雑な生活環、ベクター・動物宿主・環境を介した伝播、宿主域の変化などを特徴とし、One Health の観点から感染成立機構や病原性進化を理解する上で重要な研究対象です。私たちは、微生物学に加えて、感染症患者・患畜から得られる臨床検体、感染動物モデル、疫学データ、公共データを統合し、病原体の進化、宿主適応、感染病態を多層的に解明します。その成果をワクチン、診断、治療、公衆衛生対応に結びつけることで、感染症危機への科学的対応力を高め、PPRに貢献することを目指します。

感染病態学では、ひとつの分野だけで感染症を理解するのではなく、複数の視点を組み合わせて研究を進めます。
臨床検体や動物検体から得られる情報を、病理学、免疫学、血清学、ウイルス学、細胞・分子生物学の手法で解析します。さらに、臨床情報、疫学データ、公共データを、情報科学や統計モデルの視点から統合します。
実験研究、病理解析、疫学研究、データ解析、公衆衛生研究をつなぐことで、感染症の病態解明にとどまらず、ワクチン開発、診断法開発、治療法開発、感染症危機対応への社会実装を目指します。
当研究室は、国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染病理部との連携を進めています。感染症危機対応や行政対応に資する科学的根拠を明らかにする研究機関と連携し、検体、データ、知見を活用した研究体制を構築しています。
また、千葉大学 未来粘膜ワクチン研究開発シナジー研究拠点とも連携し、粘膜ワクチン開発や呼吸器感染症制御に関する研究を推進しています。
大学院生にとっては、大学内の研究にとどまらず、国の感染症対策やワクチン開発、公衆衛生対応に接続する研究に関わる機会があります。

当研究室では、主に以下の研究テーマに取り組んでいます。
SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス、RSウイルスなどの急性呼吸器感染症を対象に、感染やウイルス排出を制御する免疫応答の解明を進めています。
特に、粘膜表面で働く分泌型IgAなどの粘膜抗体に注目しています。血中のIgGやIgAだけでなく、気道などの粘膜上に分泌される抗体が、ウイルス感染の予防や排出抑制にどのように関与するのかを、臨床検体や実験モデルを用いて解析します。
これらの研究を通じて、流行制御に資するワクチンや治療法の開発に貢献することを目指します。
パンデミックを引き起こし得る呼吸器感染症について、発症、重症化、組織障害、免疫応答の機序を明らかにします。
SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス、RSウイルスなどの感染症を対象に、患者検体や動物モデルを用いて、病理学的解析、免疫学的解析、ウイルス学的解析を組み合わせた研究を進めます。
病原体がどの細胞や組織を標的にするのか、宿主応答がどのように病態を形成するのか、どのような因子が重症化や伝播に関与するのかを明らかにし、感染症対策の科学的基盤を構築します。
人獣共通感染症は、動物とヒトの境界を越えて出現し、将来の感染症危機につながる可能性があります。当研究室では、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、Mpox、マラリアなどを含む人獣共通感染症を対象に、病態形成や伝播能を規定する因子の解明に取り組みます。
公共データを用いた動物由来ウイルスの探索、病原体の性質の予測、感染病態アトラスの構築など、情報科学やバイオインフォマティクスを活用した研究も進めています。
また、患者検体を用いた病理学的解析により、病原体が体内でどの細胞を標的とし、どのように全身へ広がり、どのように重症病態を引き起こすのかを明らかにします。
当研究室では、ウイルスの他にもマラリア原虫などの「真核細胞性病原体」を対象として、彼らのオートファジー関連因子の機能解明や、細胞内恒常性に着目した研究を実施しています。マラリア原虫の仲間(アピコンプレクサ門)は、葉緑体起源のオルガネラ「アピコプラスト」をもっており、もともと光合成をする自由生活性の生き物でした。アピコプラストの維持にはオートファジー関連因子が必須ですが、オートファジー関連因子がどのようにアピコプラストの維持に機能しているのか、いつからアピコプラストの維持に機能転換されたのか、などは未解明です。病原体の進化的背景を理解することは、彼らの病態形成の原理をより深く理解するために重要と考えています。これらの研究を通して、より効果的な治療薬標的および治療戦略の創出を目指します。
