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千葉大学法医学教育研究センター 年次報告 2025年

 

はじめに

 千葉大学大学院医学研究院附属法医学教育研究センターは、主に千葉県下で死亡した事案のなかで、警察等の法執行機関が法医学的調査を要すると判断した死体について、検案、解剖、各種検査を行い、医学的観点から死因を推定し、また、歯牙鑑定、DNA型鑑定を実施し、身元確認等の業務を行っている。さらに、生体に関しても児童相談所、千葉地方検察庁、千葉県警本部等より依頼を受け、法医学的見地から診断を実施している。

 千葉大の解剖数をみると、総数で昨年の431件から22件減少し409件となった。昨年と比べ、司法解剖、調査法解剖ともに減少した。ここ数年、特に大きな変化はなく、解剖数については横ばいの状況が続いている。

 死因究明等推進法(2014年に失効)や死因究明等推進基本法(2020年施行)に基づき、何度か死因究明等推進計画が閣議決定され、少なくとも死因究明に関する政府内の議論は継続しているものの、抜本的な改革に結びつく施策はなく、新規の予算措置もほとんどない。また、予防のための子どもの死亡検証(Child Death Review: CDR)については、司法解剖事案が対象になりにくい、また、遺族の同意を必要とするなど、虐待や事故、自殺などについて適切な検討が行われない可能性が強い。いずれにせよ、死因究明等に関する状況は停滞が続いている。死亡事案でない生体の鑑定である臨床法医学については、千葉大など一部で取り組みが進んでいるものの、全国的にはまだ実施している機関は少ない。

 死因究明及び個人識別という業務は、亡くなった方々の情報を収集し、個々の死因を明らかにするのみでなく、社会全体の死亡の動向を明らかにするとともに、事故や災害、あるいは自他殺の再発防止に役立て、国民の安全と健康の維持、向上に努めるといった社会的使命を有している。こうした点を少しでも前進させるため、死因究明等に係る情報を社会に提供するのが、この報告の主旨である。

 

死因、死因の種類の分類方法

 この報告では、当センターで解剖等を行った死体に係る死因の種類を、内因死、不慮の事故、自殺、他殺、不詳の外因、不詳の死の6種に分類した。内因死は自然死、病死とほぼ同義であり、その中の死因の分類は、概ね厚生労働省の人口動態調査中の死因簡単分類の中位分類とした。不慮の事故に関しては、死体検案書における分類に倣い、交通事故、転倒・転落、溺死・溺水、窒息、煙・火・火災、その他の不慮の事故とした。自殺に関しては、東京都監察医務院の分類を参考にし、縊死、鋭器、銃器、中毒・有害物質、溺死、交通機関(線路への飛込み、車両による故意の衝突・転落など)、焼身・熱傷、高所からの飛び降り、その他の自殺とした。また、他殺に関しては米国のメディカル・エグザミナー(複数)の分類を参考にし、幼児・児童虐待、絞殺・窒息、刺殺、銃殺、煙・火・火災・熱、撲殺・鈍器、その他の他殺とした。ただし、死因の種類に関し、国際的には、不詳の外因と不詳の死を分けず5分類としている統計が多いが、多くの身元不明死体の死因の種類が不詳とされるわが国の特殊性に鑑み、また、死体検案書の分類も考慮して、溺死、焼死など外因死と特定できるものの、自他殺・事故の判別が困難な死を別に扱った。

 

概況

 2025年10月の千葉県の人口は約627.7万人、同年中の死亡者数は75,862人、警察の死体取扱数は11,581件(前年とほぼ同じ)(刑事11,377件、交通204件)、解剖数は、千葉県警察が鑑定嘱託した司法解剖が540件(刑事516件、交通24件)、行政解剖(承諾解剖)は5(刑事、交通3)、死因・身元調査法に基づく解剖(調査法解剖)は121件(全件刑事)だった。警察が取り扱った死体の法医解剖数は666件(前年比0.9%減)であり、千葉県内で解剖を実施した海上保安庁10件(司法9,調査法1)、千葉地方検察5件を加えると、法医解剖総数は681件(前年と同数)、内訳は司法解剖629件(前年比11.9%減)、行政解剖5件、調査法解剖122件(前年比45.2%増)、全死亡者数に対する法医解剖率は約0.9%(全国平均は約1.3%)だった。 千葉県全体でみると。司法解剖数が減少し、調査法解剖数が大きく増加したのが本年の特徴だった。

 一方、2025年に当センターにおいて350件の司法解剖、56件の調査法解剖、3件の行政解剖(承諾解剖)の合計409件の法医解剖(前年比22件減、5.1%減)を行った。司法解剖のうち、343件が千葉県警察(327件が刑事部、16件が交通部)、5件が千葉地方検察庁、2件が茨城県警察からそれぞれ解剖の嘱託を受けたものだった。調査法解剖は全件が千葉県警刑事部、行政解剖は刑事1件、交通2件だった。

 2018年度より、千葉中央署が警察嘱託医の方々に嘱託している検案業務の一部を当センターが行っており、本年はセンター所属医師が6件((前年比17件減)の検案を行った。また、警察等からの依頼により解剖を前提とせずCTを撮影・読影するCT検案は、37件だった。

 なお、検査に関しては、検体が採取可能な全遺体について、薬毒物検査、病理組織検査、血液生化学検査等を、また、必要に応じて、一酸化炭素検査、プランクトン検査、精液検査等を行い、全遺体についてCTによる画像検査を実施し、解剖所見と各種検査結果を総合的に勘案し、さらに警察等から得た周辺の事情も参考にしつつ死因を推定した。

 歯科法医学、法遺伝子学の実務については、歯牙鑑定、DNA型鑑定を行った。ただし、千葉県では、警察の取扱死体のDNA型鑑定については、原則として県警の科学捜査研究所で行っているため、千葉県警からの鑑定依頼はなかった。しかし、他大学との連携協定による千葉以外の事案の鑑定に協力している。

 臨床法医学については、千葉県、千葉市及び江戸川区の児童相談所等、千葉地検および千葉県警等から計107件の相談を受け、意見書の提出、調書の作成、あるいは文書または口頭による回答により協力した。

 

外国籍

表1 解剖総数409件に対し、外国籍は4地域13件(司法11件、調査法2件)だった。(東南アジア8、南アジア3.北米1,南米1)

司法解剖

 本年は350件の司法解剖を行った。その内容を概説する。

  

表2 死因の種類でみると、内因死が42体で12%、不慮の事故が106体で30%、自殺が61体で18%、他殺が21体で6%、不詳の外因が32体で9%、不詳の死が88体で25%だった。例年と比べると、内因死が減り、不慮の事故が増加した。男女別でみると、男性が女性の約1.9倍であり、他殺を除く死因の種類で男性が女性を大きく上回っていた。

表3, 4 年齢別でみると、平均は63歳、中央値は61歳だった。死因の種類別の平均年齢及び年齢の中央値については、内因死は67歳、69歳、不慮の事故は70歳、74歳、自殺は51歳、52歳、他殺は55歳、56歳だった。月別の件数については1月と10月がやや多いものの有意な差は見出せなかった。

表5, 6 内因死については件数が少なく、一般的な傾向を述べるまではいかないが、心疾患が例年同様多く、脳血管疾患、悪性新生物という一般の死因統計で上位の死因と類似した結果だった。年齢別では、例年と比べ65歳以上の高齢者がやや減少した。

表7, 8 不慮の事故については例年同様火災に伴う死亡が最多だったが、溺死・溺水、その他の不慮の事故、転倒・転落が続いている。その他の不慮の事故の半数以上が低体温症または熱中症であり、壮年や若年には他の分類に入らない労働災害が多数を占めた。年齢別では火災事案、転倒・転落、溺水がいずれも70代以上が多く、火災に遭遇した高齢者の退避の遅れや、用水などへの転落が目立った。

表9, 10 自殺の手段については、例年縊死が第一位だったが、本年は中毒・有害物質、溺死が縊死を1件上回った。が同数だった。中毒・有害物質の大半は練炭を使用した一酸化炭素中毒であり、比較的若年者に多く、溺死は中高年に多い。性別は依然男性が多い。年齢別では10代から80代まで、幅広く分布している。

表11, 12 他殺事案はほぼ例年と同様だった。他殺の手段としては撲殺、鈍器殺、絞殺、刺殺がほぼ同数だった。前年は珍しく男性被害者が女性より多かったが、本年は従来同様、女性被害者が多数を占めた。年齢は多岐にわたっている。

 その他及び不詳の外因死は32例中、16例の直接死因が溺死だった。不詳の外因死の多くは、自他殺、事故の判別が困難な事例であるが、特に溺死の場合は自殺の可能性も高い。

 本年は昨年に比べ不詳の死が減少した。しかし、中身は例年同様、多数が白骨、死蝋化、ミイラ化など高度死後変化により検索が困難なものだった。それ以外は、内外因不詳の事例や嬰児の遺体、あるいは便宜上0歳としたが、死産と思われる遺体も含まれている。また、乳児の突然死で、窒息の可能性もある遺体も数例あった。

 

行政解剖(承諾解剖)

 死体解剖保存法第7条による承諾解剖を千葉県の条例では行政解剖と呼んでいる。調査法施行以来、全国的に承諾解剖の多くは調査法解剖に替わったが、千葉県でも前年はゼロ、本年は3件のみだった。3件中1件は交通事故、2件は内因死(悪性新生物と肺炎)で、年齢は65~74歳が2名、75~84歳が1名、全員が男性だった。

 

  

死因・身元調査法に基づく解剖(調査法解剖)

 警察庁が身元不明の事案でも事件性が希薄ならば調査法解剖を行うとの方針変更の結果、前年は激増し70件となったが、本年は若干減少し56件だった。

 表13, 14 内因死については司法解剖が全体の12%だったのに対し調査法解剖は45%だった。疾病の内容はほぼ司法解剖と類似し、脳血管疾患、心疾患、悪性新生物が多い。性別については司法解剖同様男性が多い。年齢の平均は司法解剖が63歳だったのに対し、調査法解剖は44歳だった。35歳~54歳といった比較的若い世代の事案が多かった。

 

  

子どもの死

 本年は、18歳未満の子どもの死亡が、司法解剖で15体、調査法解剖で8体の合計23体あり、内因死が3、自殺が2、他殺が1、不詳の外因が2、不詳の死が13だった。自殺はいずれも17歳、他殺は母親による他殺後自殺未遂(無理心中未遂)、不詳の外因の2例はいずれも虐待か事故の判断ができない事案だった。また、不詳の死のうち8例が乳幼児突然死で、鼻口部閉鎖や突然死症候群が疑われ、4例は嬰児または死産であり、産み落としあるいは出産後放置の可能性がある。

 

死後画像診断

 本年は37件のCT検案を行った。なお、CTについては、司法解剖、行政解剖、調査法解剖の全遺体について解剖前に検査を実施し、当センター所属の放射線科医が読影を行っている。また、画像による個人識別読影、臨床法医関連の生体画像読影、 他の機関で撮ったCTの読影も多数行った。さらに、まだ研究段階ではあるが、MRI(磁気共鳴画像)の撮影及び読影も行っている。

 

歯科法医学

 身元不明遺体の法医解剖において、ほぼ全事例で、歯科所見を採取し、鑑定書に記載している。また、連携協定に基づいて、東京科学大学法歯学分野とともに、東京大学および国際医療福祉大学で法医解剖を実施した身元不明死体の歯科所見採取を共同で行っている。また、千葉県歯科医師会との包括連携協定により事例検討会を実施している。当センターに依頼された児童相談所事例において、多数歯齲蝕、バイトマークなど口腔内所見が必要な事例では、口腔内評価を行っている。

 

法遺伝子学

 DNA型鑑定については、裁判所や民間からの依頼によって、個人識別、親子鑑定などを行っている。また、東京大学との連携協定に基づいて、東京地検または警視庁から東京大学に依頼のあったDNA型鑑定を千葉大学において行っている。

 

法中毒学

 検体を採取できるすべてのご遺体について簡易検査を行うとともに、質量分析計(LC-MS/MS, LC-QTOF/MS, GC-MS)を用いた薬毒物検査(定性分析・必要に応じて定量分析)を実施している。本年、千葉大で検出した主な薬物は表15のとおりである。Bisoprololは19事例(昨年比2.7倍)、Lemborexantは12事例(昨年比3倍)から検出された。覚醒剤Methamphetamineは7事例(16位)から検出された。

 

臨床法医学

 千葉県、千葉市及び江戸川区の児童相談所等からの依頼によって、児童虐待、家庭内暴力に関連する意見書を93件提出した。また、千葉地検、千葉県警等より計14件について、傷害事件などに関する相談を受け、それぞれ回答した。なお、2018年7月に千葉大附属病院小児科に臨床法医外来を開設し、病院の小児科と法医学教室が連携することによって、検査体制を充実させ、他の専科の協力も得ながら、虐待などによる損傷の評価を行っている。

 

千葉県子どもの死因究明等の推進に関する研究会

 例年、県内の小児科医、行政、司法等の関係者が子どもの死亡事例に関し情報交換し、再発防止のための議論を行う「千葉県子どもの死因究明等の推進に関する研究会(千葉県チャイルドデスレビュー/CCDR)」を開催している。本年は第18回研究会を3月28日に千葉大医学部で開催し、就寝中に乳児が死亡した2事例を検討しつつ、乳幼児の事故予防について議論を行った。この研究会には、法医学、小児科の方々に加え、他分野の医師、研究者、更には千葉地検、千葉県警、及び千葉県など行政の方々を含む多くの皆様が参加した。

 

DVI訓練

 2025年度は第7回となる千葉大規模災害時DVI訓練を国際医療福祉大学にて開催した。石油プラントでの爆発事故を想定し、国際医療福祉大学法医学と連携して千葉県医師会、千葉県歯科医師会の共催の元、千葉県警、千葉県防災危機管理部及び近隣自治体、千葉海上保安部とともに、マネキンを用いた机上訓練を通して、災害時の検視検案、身元確認作業について、各機関のマニュアルの整備状況等を含めた確認を行った。