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DNA型鑑定

当センターでは、解剖を実施する身元不明死体に対し、必要に応じてDNA型を実施していますが、それ以外でも鑑定を受け付けています。現在は、裁判所など公的機関からの依頼により、親子鑑定をはじめとする血縁の鑑定やそれ以外の個人識別を行っています。個人からの鑑定依頼については、代理人の弁護士からの依頼に限って受け付けております。

DNAとは?

私たちの体は、たんぱく質、糖、脂質や核酸などいろいろな物質から成り立っています。この生物体の構成を規定しているものは、遺伝子です。この遺伝子の物質的本体が、いわゆるDNAと呼ばれるもので、DNAとは、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の頭文字をとって略したものです。遺伝子の本体であるDNAは、人間の体を形づくる細胞すべてに存在し、糖、リン酸、さらにアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基から構成されます。この4種類の組み合わせが遺伝情報となり、親から子へ、子から孫へと受け継がれていきます。

DNA型鑑定とは?

DNA型鑑定あるいはDNA鑑定とは、 DNA多型の存在する部位を検査し、それが誰のDNAのものであるのかを特定することによって個人識別を行うことです。

たとえば、犯行現場に残された犯人のものと思われる毛髪、血痕等から抽出したDNAを用いてDNA多型を検査し、犯人のDNAと比較します。また、子供のDNAは父親および母親から1対ずつ受け継がれるため、それを利用し親子鑑定をおこないます。

なお、DNA型鑑定に用いられる部分は、身体的特徴や遺伝病などの遺伝情報を持たない部分について検査しています。

現在、用いられている検査方法では、DNAの塩基配列そのものではなく、4塩基を1単位とする繰り返し数をもつ部位(DNA多型領域)を検査します。

従って、私たちは、DNA鑑定というよりDNA型鑑定と称します。

個人識別とは?

生体や死体もしくは死体の一部分について、それが誰であるかを識別することであり、異同の決定ともいいます。生体においては、密入国者、記憶喪失者、精神異常者、乳幼児あるいは他人になりすましたり、黙秘する事件容疑者などがその対象となります。また、死体においては、腐乱死体、焼死体、水中死体あるいは白骨死体などの身元不明死体の場合が多く、死体の個人識別を確実にすることが事件解決の第一歩となり、重要な鑑定項目のひとつとなります。また、最近では、大災害、旅客機・鉄道の爆破テロなどが多く、バラバラに切断された死体など完全に一体分がない場合もあり、分離された個々の物体について個人識別を行わなければなりません。

DNA多型とは?

DNAの塩基配列のうちには、同じ塩基配列が繰り返して存在する反復配列領域があります。この反復配列の繰り返し数が人によって異なることを利用して行うという方法が、世界的に共通した方法です。現在、世界の多くで使用されているのは、マイクロサテライトという反復配列領域です。このDNA多型は、STR(Short Tandem Repeat)多型といわれるもので、繰り返し単位が2~5塩基と短く、この繰り返し単位が個人によって異なることを利用して個人識別を行います。

遺伝子座(Lpcus: ローカス)とは?

染色体上の遺伝子の位置を意味します。遺伝子座はどの対立遺伝子(Allele:アリール)によっても占有できます。

対立遺伝子(Allele: アリル)とは?

高等生物は全て遺伝子を必ずペアで持っていて、一個体には父親と母親から由来した2個の遺伝子があります。これらの2つの遺伝子は特定の染色体上の位置つまり遺伝子座に存在し、対立遺伝子と呼ばれます。一つの遺伝子座に同一の対立遺伝子がある場合をホモ接合、一つの遺伝子座に異なる対立遺伝子がある場合をヘテロ接合といいます。

PCR(Polymerase Chain Reaction)とは?

PCRとは、二本鎖DNAの熱解離、プライマーの相補的結合、DNAポリメラーゼによる相補鎖合成という3つの反応を繰り返すことにより、目的とするDNA領域だけを増幅する方法です。従って、超微量のDNAを数時間で、数万~数十万倍に増幅します。

プライマー:増幅するDNA領域をはさむような配列として合成したオリゴヌクレオチド。

DNAポリメラーゼ:1本鎖の核酸を鋳型として、それに相補的な塩基配列をもつDNA鎖を合成する酵素の総称です。

DNAによる親子鑑定とは?

ヒトは父由来と母由来のDNAを一つずつ持ち、一つの遺伝子座には父母由来の二つの型が存在します。その由来を解析することにより親子関係を推定することができます。DNAによる親子鑑定では、DNA上の個人により異なる「型」を持つ遺伝子座(ローカス)を検査し、各人の「型」を決定します。DNAによる親子鑑定では、複数の遺伝子座を検査して,親子関係に矛盾する結果が得られるか否かを解析します。

DNAによる性別判定とは?

ヒトの染色体は23対46本存在し、そのうち常染色体は22対44本、残りの1対2本は性染色体X、Yとなります。性別判定は、1対2本の性染色体上に存在するアメロゲニン遺伝子を解析することで行われています。アメロゲニン遺伝子(アメロゲニンとは歯のエナメル質を形成するタンパク質のこと)は、女性でXX、男性でXY性染色体上のそれぞれに存在します。X染色体とY染色体のアメロゲニン遺伝子では、塩基配列及び塩基配列数に違いが存在します。そこで、その部位を標的にPCRを行うことにより、X染色体とY染色体の有無を判定できます。男性であればX染色体とY染色体由来の塩基サイズの違う2つのバンドが検出され、女性であればX染色体由来のみの1つのバンドが検出されます。

現在、アメロゲニン解析による性別判定はキット化されており、個人識別用のSTR多型の分析キットにも組み込まれています。また、後述の、私たちが使用している個人識別用の検査キットAmpFlSTR® IdentifilerTM PCR Amplification Kitにも含まれています。

DNA型鑑定の方法

1)DNA抽出法

現在では、多数のメーカーから各種DNA抽出キットが市販されており、キットを用いた方法が最も多く使用されています。資料によっては、フェノール/クロロフォルム法により行う場合もあります。

2)PCR法

基本的に、Applied Biosystems社製のAmpFlSTR® IdentifilerTM PCR Amplification Kitを使用します。このKitを使用することにより、15座位のSTR型と性別判定に用いるAmeligenin型を判定できます。

3)電気泳動

Applied Biosystems社製のABI PRISM 310 Genetic Analyzerを使用して、PCR productsを電気泳動します。泳動は1 sampleあたり約40分ほどかかります。

4)DNA型判定

電気泳動した結果をApplied Biosystems社製のGene Mapper ID Software Version 3.1を用いて、データの解析を行います。

DNA型鑑定での確率計算

学会で発表された15座位(locus)のSTR型の各アリール(allele)の日本人のデータベースを使用して、それぞれのlocusの頻度を掛け合わせることで、その個人のもつ確率を算出します。

DNA型鑑定で用いられる資料

DNA型鑑定で用いられる資料としては、唾液、血液、血痕、体液、骨、歯、爪、毛髪、組織などがあげられます。

これらの資料から抽出したDNAを、PCR(Polymerase Chain Reaction)法によって増幅し、その増幅産物を電気泳動法により、各遺伝子座のDNA型を判定します。実際には、遺伝子やその発現制御部位ではなく、残りの95%を占める「遺伝子として働いていない」領域を使って判定をします。

1997年、米国のFBIより、STR多型を用いて個人識別を行う場合、推奨される13箇所のSTR座位が提示されました。その後、個人識別用の検査キットとして、この13箇所のSTR座位を含むキットが販売されました。現在では、アプライドバイオシステムズ社製の検査キットAmpFlSTR® IdentifilerTM PCR Amplification Kitにより、13座位を含む15座位のSTR型及びAmelogenin型判定を行うことができます。

DNA型鑑定の盲点

1)コンタミネーション

当教室に持ち込まれた資料の取り扱いには、厳正を期していますが、持ち込まれる以前の資料の取り扱いが慎重でなかったために他人のDNAが混入している場合があり、判定に困難を起こすことがあります。

2)突然変異

まれに、突然変異によりDNA型が変化したり、通常より多くのDNA型を有する場合があります。ただし、親子鑑定の場合はこの現象を考慮し、1ローカスのみの矛盾は孤立否定と呼び、親子関係を否定しないことになっています。

3)試薬の問題

使用する検査キットにより、まれに生じてしまう誤差があります。これに対しては、マニュアルや論文を参考にして、鑑定人の経験と知識により判断します。

DNA型鑑定の指針や法律など

  • 1997年 日本DNA多型学会「DNA鑑定についての指針」
  • 1999年 日本法医学会「親子鑑定についての指針」
  • 2001年 文部科学省・厚生労働省・経済産業省 「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」

簡単なQ&A

Q. DNAとは何ですか?
A. DNAとはデオキシリボ核酸のことで、生物の細胞の核等に存在し、一部に生物の身体を作り上げる情報となる遺伝子を含んでいる物質です。人の身体は、約60兆の細胞から構成されますがその一つ一つにその人に特有な同一のDNAが存在します。

Q. PCR法とは何ですか?
A. 少量のDNAをDNA合成酵素やDNAの材料等の混ざった溶液内で、十万倍から百万倍に増やす画期的な方法です。

Q. DNA型が同じ人はいるのですか?
A. 基本的に一卵性双生児を除いて、DNA型が一致することはありませんが、DNA型鑑定では、人のもつDNAのほんの一部を調べているだけなので、偶然に同じDNA型を持つ他人が存在する可能性があります。しかし、私たちが行っているDNA型鑑定では、計算上、数百億人以上に1人という高い確率をもって個人識別を行っておりますので、同じDNA型をもった別人が存在する可能性は極めて低いです。

Q. どんな資料からDNA型鑑定できますか?
A. 血液、口腔内細胞、体液の一部、毛根鞘の付いた毛髪、骨、臓器等の組織片、ホルマリン固定臓器です。

Q. 鑑定の流れについて教えてください
A. 依頼された資料について、写真撮影後、DNA型鑑定が可能なものかどうかみきわめます。DNA型鑑定が可能と判断されたものについては、一部を採取し、DNA抽出精製を行い、PCR後、電気泳動し、専用のソフトを使ってデータを解析します。また、一つの資料に対し、同様の操作を2名の検査者により最低2回繰り返します。繰り返し行った結果が同一であることを確認後、鑑定書を作成します。

Q. 鑑定終了後、DNAおよびDNA型情報は、どう管理されますか?
A. 生体資料については、チューブのラベルをはがすか、内容物を除去したうえで廃棄いたします。また、DNA型情報の記載された書類などは、細断のうえ焼却処分します。また、個人情報については、個人情報管理者がコンピューターの外部記憶装置に保存していた情報を消去します。

Q. DNA型鑑定によって、遺伝病等がわかるのですか?
A. DNA型鑑定で検査する部位は、身体的特徴や遺伝形態を示さない部位を検査しているものであり、遺伝病等の特定の遺伝子内容を分析するものではありません。

Q. DNA型鑑定の期間はどれくらいですか?
A. 資料の種類や量、状態によりますが、早いもので2~3週間です。ただし、状態の悪い資料や資料の量が多いものでは2~6ヶ月ほどかかります。