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Vol.13 司法解剖に伴う検査経費の値下げに抗議する~その2

前回(Vol. 12)は、値下げがいかに死因究明の実務を圧迫するかとの話を紹介しましたが、その後も千葉県警との話し合いは平行線です。各都道府県警は、警察庁と法医学会が交わした合意(別紙②:司法解剖に係る経費(単価)の見直しについて(報告))に基づいて、各大学に値下げを迫っています。経費の契約の当事者は県警と大学であり、法医学会が決めた価格が各大学に強制力があるはずもありません。法医学会としては、値下げを迫る警察庁に押されつつ、一定の参考値を各大学に示したという位置づけに過ぎないのです。 私も、単に値下げは一切まかりならぬ、と主張しているのではなく、それなりの根拠や合理性があれば、全体として値下げとなるような見直しを否定するものではない、と考えています。打開策として3月23日、千葉県警に対して私が試算した経費算定に基づく案を提出しました(別紙①)。トライエージの金額は現行の半値以下という提案であり、別途、解剖基本料を引き上げるとの内容には整合性があるものだと考えました。そして、その根拠をそれぞれの計算を加え同時に提出したのです。(別紙③、④)

しかしながら、県警の回答は、解剖基本料の値上げがなければトライエージは当教室が提案する金額でもいいと言ったり、法医学会の提示の価格以外での改定は困難だと言ったりするばかりで、法医学会の提示した金額ありきが前提で、独自に根拠を持った交渉をする意図があるように思えません。

千葉県警を責めるのは私の本意ではありません。死因究明という高い公益性を持った事業にもかかわらず、その理念を見失い、予算の削減のみを考えている警察庁が各県警を指導している実態が問題と考えています。

 

 

別紙①

平成27年3月23日

千葉県警察本部長

黒木 慶英 様

千葉大学大学院医学研究院法医学教室

岩瀬博太郎

日頃よりお世話になっております。先日質問状を提出いたしましたが、口頭・文書いずれでもご回答いただけないとのことでしたので、値下げてよいのか、値上げてよいのか一体どのような価格に設定すべきなのか目標とすべきことが全くわからず、次年度契約については、設定に困っております。察するに、大学としての自発的な値下げを要望されているようですので、当職の立場としては以下のような新価格を、大学法人と千葉県警の両者に提案させていただきます。

 

解剖基本料・・・・18,812円(平成26年度は6,685円)

簡易薬物検査料・・・・7,560円(平成25年度は20,000円、平成26年度は15,420円)

(消費税含まない)

 

従来、感染症予防のためのウィルス検査はウィルス検査代(平成27年度は20,570円)の項目で契約し実施しておりましたが、来年度からはその分については解剖基本料の中に組み込んだ形で設定させていただきます。これにより、解剖基本料及び感染症予防のウィルス検査代として請求していた金額が、従来年間20,570円×250体+6,685円×330体=7,348,550円程度であった分が18,812×330体=6,207,960円に減額されます(114万円減)。また、簡易薬物検査については、平成25年度においては20,000円×250体=500万円程度、平成26年度においては15,420×250体=386万円程度であったものが、7,560円×250体=189万円に減額となります(平成25年度に比べ約310万円の減)。平成25年度に比べ、合計で420万円ほどの減収となります。技術職員約1名分の人件費削減という大きなものであり、ここに示すのが現在の鑑定レベルの維持にとっては限界となりますので、この金額で契約いただくよう、何卒お願い申しあげます。

 

 

別紙②

 

平成27年3月6日

 

司法解剖に係る経費(単価)の見直しについて(報告)

 

日本法医学会

理事長 池田 典昭

 

 理事会は、警察庁と標記見直しについて、平成25年より、協議会を8回開催するとともにメール等でも協議を重ねて参りました。平成26年度は謝金の見直しを行ったところですが、平成27年度は、経費の見直しを行いましたので、以下に報告します。

 なお、今後は、契約形態の見直しに向けて、平成28年度の改訂に向けて協議を重ねる予定です。

 

 

1 司法解剖基本料

① 現行の予算単価(1剖検体6,685円)を1剖検体8,700円に改める。

2 司法解剖検査料

(1)血液生化学検査

① 血液生化学検査の全部又は一部を、外部の検査機関に委託している場合には、予算単価を廃止する。外部機関に委託して実施した検査は、府県警察が当該検査機関に所要経費を直接支払う。

また、

② 自らの機関で実施している場合には、基本料1万円+1検査1千円(上限金額2万5千円)をめどに、適切な額での契約を締結すること。

(2)組織学的検査

① 検査単価(1試料(顕微鏡標本)5,140円)に変更なし。

② 上限試料数は、現行の45試料を40試料に改める。

  これを超えて検査を行う必要がある場合には、 検視官が鑑定人との間でその必要性について協議を行う。

③ 顕微鏡標本単位ではなく臓器単位で契約を締結する場合には、支払額が205, 600円を超えることとならない範囲内で上限を定めること。

(3)血液型検査(血液凝集反応、解離・吸収試験)

① 予算単価を廃止する。

3 感染症等危険防止消耗品費 現行の予算単価

① 1人につき1,009円を1,770円に改める。

4 薬物検査等委託費

① 現行の予算単価(1試料15,420円)を1試料5,000円に改める。

なお、検視官と鑑定人との間の協議により、2試料までの検査を行うことができる。

以上

 

 

別紙③

 

薬物検査の検査仕様書

1. 検査の目的

  死因に薬物等が影響したか否かについては、死体の表面的な兆候等から判断することは困難である。死因を正確に確定させ、犯罪を見逃さないため、またより精密な死体解剖が行われるために、司法解剖を実施する死体に対して、予備的試験として簡易薬物検査キットによる薬物検査を行う。

 

2. 検査の対象及び内容

  司法解剖に伴なう全死体について、下記3に掲げたキット等を使用して薬物検査等を行う。ただし、白骨死体等で薬物検査が不可能な死体は除く。

 

3. 品目等

  簡易薬毒物検査キット 4,000 x1 4,000円

  消耗品

    注射器(針付) 50 x 2     100

    滅菌手袋 200 x 2         400

    試験管(50ml) 100 x 2     200

    試料瓶(50 ml) 150 x 2     300

  技術料(検査技師人件費)         2,000

合計 7,000円(解剖1体当り)

消費税8%を加算し7,560円

4. 検査結果に関わる書面の提出

  薬物検査の結果が記載された書面を司法解剖に関わる鑑定人及び科学捜査研究所長に提出すること。

 

平成27年3月31日            

 

千葉大学大学院医学研究院長       

 

千葉大学医学部事務長          

 

 

別紙④

 

司法解剖基本料仕様書

 

1. 目的

司法解剖を実施する場合、解剖室内部においては、解剖従事者が、労働基準を満たしつつ作業が可能であるように環境を整備し、かつ、排気及び排水において、有害な物質が外部へ漏出しないよう処理する必要がある。また、解剖される遺体がC型肝炎やAIDSウィルス等に感染している可能性がある場合、それを迅速に見極め、解剖にかかわる者(警察官等も含む)がそれに感染することを予防する必要がある。なお、感染症検査を外部機関に依頼した場合、結果が判明するまでに最低でも2日間かかり、針刺し事故が発生した場合の対応が遅れ、甚大な被害を発生させうるので、当教室で検査を実施することとする。

 

2. 検査で使用する品目等

1)肺気・排水に関わる消耗品(1体当たり6,190円)

 

へパフィルター 1組5万円×5組を(200体)で交換   1,250円

レフランプ1個2950円×240個を(200体)で交換  3,540円

空気清浄機 一台 28万円×5台を(1000体)で償却   1,400円

合計 6,190円

 

2)感染症検査費(腐敗死体では実施しないため実施率80%とする)

a) 検査に必要な消耗品(1体あたり)

ルミパルスS 3379円

HBs抗原カートリッジ1個 210円

HCV抗体カートリッジ1個 892円

TPカートリッジ 1個 178円

HIV抗体カートリッジ1個 790

HTLV-1抗体カートリッジ1個 588円

ルミパルス検体希釈液 33円

ルミパルス基質液 683円

ルミパルス洗浄液 180円

精製水(和光純薬)23円

ルミパルスチップ10本 90円

ルミパルスサンプルカップ1個 8円

サンプリングチップ1ml用1本 9円

ミリポア100Kフィルター1本 783円

ルミパルスS精度管理費用 1316円

合計9162円

b)人件費(検査技師)

検査機械のウォームアップ、検体の処理、検査にかかる時間から算

3000円

c)検査機器の減価償却費

感染症検査機器 250万円×0.9/5年/300体=1500円

 

以上から1体にかかる費用は以下のとおりとなる。

(a+b)×0.8(実施率)+c=11,229円

 

3)司法解剖基本料の総額

1)+2)=17, 419円 これに消費税(8%)をかけると18,812円となる

 

3. 結果に関わる書面の提出

司法解剖の結果が記載された書面(司法解剖実施結果報告書)を千葉県警察本部刑事部科学捜査研究所長に提出すること。