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Vol 15 国と自治体に死因究明等推進計画を誠実に実行することを望む

昨年6月、死因究明推進計画が閣議決定された。この提言のVol 10で指摘し、危惧したとおり、当時出た官僚主導の議論の延長上で成文化され、ほとんどが従来の諸施策を列記したのみで、極めて内容の乏しいものに終わった。私たちが主張した専門的機関の整備については一切具体的記述がなく、対応は各都道府県に置かれるはずの死因究明等推進協議会に投げられた。推進計画自体には失望はしたものの、今後はこの協議会をしっかり運営し、関係者との連携を密にしながら死因究明を前進させていくしかないと考えていたところだったが、すでに閣議決定から1年以上が経過しているのに、協議会の立ち上げが確認されているのは3都県にすぎず、そのうちの1つである東京都では、監察医解剖と承諾解剖のみを対象とするという、死因究明全体からみて議論を深めようという態度に逆行しているとしか思えない状況である。

ここ千葉県でも、昨年内閣府の事務局が県庁に赴いて要請をしたにもかかわらず、県庁からは何の音沙汰もない。私も業を煮やし、以下の書面を提出した。さすがに県もすぐに担当の職員が説明に来て、「年内には立ち上げられるようにする」などと言ってはいるものの、取組みの姿勢は決して前向きとは思えない。予算が確保できないといったことで後退するのではなく、その分知恵を出し合って少額でもできる事業を考えていこうとする努力が必要である。

 

平成27年7月28日 岩瀬博太郎

 

 

2015年7月3日

千葉県知事 森田健作様

千葉大学大学院医学研究院法医学教室

岩瀬博太郎

 

貴職におかれましては、千葉県民の安全・健康の確保、福利向上のため、日夜ご尽力いただきまして、心より感謝申し上げます。

さて、私は千葉大学法医学教室及び千葉大学大学院医学研究院附属法医学教育研究センターの主宰者として、教育・研究はもちろん、死因究明等の実務に携わっている者です。千葉県の解剖率はわが国の平均に遠く及ばないものの、薬物や画像といった各種検査等の実施率など、死因究明の精度については、全国有数の機関であることを自負しております。

死因究明・身元確認の業務に関しては、わが国が欧米先進国に大きく後れをとっている分野であるとの認識のもと、国会でも議論が続けられ、2012年にいわゆる「死因究明等推進法」及び「死因身元調査法」が成立、さらに前者に基づいて昨年「死因究明等推進計画」が閣議決定されました。私も死因究明等推進計画検討会の専門委員として議論に参加し、中央官僚の縦割り意識が改革に逆行しているなど、法医学者としては大変不満な内容ではありましたが、それでも決定された計画の推進について大きな期待を持っておりました。

とりわけ、各都道府県に置かれる「死因究明等推進協議会(仮称)」は、地方自治体において関係者によって実のある議論が開始されるはずのものであり、これがわが国の死因究明等の推進に大きな力になるべき主体になると考えております。

しかしながら、推進計画の決定以来一年が経過したのにもかかわらず、千葉県においては協議会の立ち上げすら行われておりません。私は、死因究明等の推進が、事件や事故の再発防止、感染症等疾病の予防、災害被害の拡大防止、虐待や自殺の予防など、生きている県民にとって非常に重要な施策と考えております。その議論が進まないことについて、私としては甚だ遺憾に思っているところです。

一方、東京都では協議会が開催されておりますが、その内容をみると、いわゆる行政解剖(監察医の行う解剖と承諾解剖)のみが協議会の議論の対象となっております。司法解剖、死因身元調査法に基づく解剖(新法解剖)が議論の対象ですらないということは、総合的な死因究明等の推進に背を向けたものと言わざるを得ません。

そこで、千葉県においてできるだけ早期に協議会を立ち上げていただきますようお願いするとともに、その協議に際してはすべての検案・解剖、身元確認の業務を対象に議論を行うとともに、下記の事項を含んでいただくことを要請する次第です。

 

1. 死因究明等推進法第7条の冒頭に掲げられた「専門的機関の整備」に向けた、新たな体制(例えば県、県警等、医師会、法医学教室などを横断する公益法人等)の整備

2. 事件性の有無とは別に、検案医が解剖や諸検査の要否を判断できる新しい枠組みの構築

3. 将来的にデータベースの整備が可能になるような、死体検案書の集約とその分析

4. 大規模災害に備えるための、死因究明・身元確認の計画の立案と訓練の実施

以上