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人口動態調査に基づく千葉県未成年者死因分析 概要の報告

 千葉大学大学院医学研究院法医学教室及び同附属法医学教育研究センターは、千葉県死因究明等推進会議での検討を踏まえ、厚生労働省から過去5年間(平成24年~平成28年)の死亡票及び死亡個票の提供を受け、千葉県における未成年者の死亡に関する調査を行いました。その調査結果の概要を報告します。  

1.平成24年~平成28年、千葉県未成年者の主な死因
 死因の第1位は5年間を通じて「先天奇形、変形及び染色体異常」であり、2位は「自殺」、「周産期に発生した病態」、「不慮の事故」のいずれかでした。中位分類では、自殺のうちの「縊首,絞首及び窒息」、「心臓の先天奇形」、「周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害」が上位でした。
 

2.千葉県内の保健所別にみた死因簡単分類別死亡率
 この点については、母数が少ないこと、都市部と郡部に明確な地域分けができないことなどから、統計上有意な差は得られませんでした。
 

3.千葉県内の死亡の場所別にみた主な死因の性・年齢別死亡数及び百分率
 性別については、病院内死亡では男女差は認められませんでしたが、病院外(自宅、その他)死亡では男性が多いとの結果が得られました。その原因として、病院外死亡の多くが自殺であり、その男女差が大きいことが認められます。死因については、病院内死亡は病死が多く、病院外死亡では外因死が多くなっていました。
 

4.千葉県内の死亡数、性・年齢・死因別
 病死については、0歳児で先天奇形、変形及び染色体異常が多く見られ、年齢が高まるにつれ、新生物<腫瘍>が死因の上位になっています。不慮の事故については、0歳で窒息、1~5歳で溺死、6歳以上では交通事故が死因の第一位を占めています。自殺については、全体的に縊首、縊頚及び窒息が多いものの、列車への飛込みも認められ、その点も含め全国平均以上になっていました。死因の種類別では、病死が年齢を加えるごとに減少し、自殺の割合が増加しており、15歳以上では自殺がトップでした。男女別では、自殺は男性が女性の2.8倍であるのに対し、他殺の被害者は女性が男性の2倍に達しています。
 

5.千葉県内の死因簡単分類別にみた解剖の実施率
 全体に対する解剖(病理解剖も含む)の実施率は13.5%でした。この数字は、千葉県における全年齢の法医解剖実施率が約0.8%であるのと比べるとかなり高いようにも見えますが、チャイルドデスレビュー(CDR)を行っている各国と比べると決して高い数字ではありません。他殺(100%)、その他の外因(71.4%)が高い解剖率を示す一方、自殺の解剖率は3.0%にとどまっていました。また、乳幼児突然死症候群(SIDS)の解剖率が30.4%ということに関しては、厚労省発行のガイドラインに「その診断には解剖による精査が必須である。」と書かれていることが実施されていないという問題が指摘できます。さらに、千葉大学で法医解剖を行った事例について、死体検案書等と解剖結果の死因の一致率を調べると、62.3%という結果が得られました。解剖の結果が正しく反映されていないことが認められます。
 

6.千葉県内の死亡診断又は検案した医師の特性別にみた死亡数及び死因簡単分類別死亡数
 病死については、88%が病院所属医師の診断でしたが、外因死の半数以上は警察嘱託医(その8割が診療所所属医師)が関与する事案でした。解剖したにもかかわらず解剖なしとされているものや、解剖内容が記載されてないものも散見されました。
 

まとめ
 死因の種類で言えば、全国的な傾向以上に自殺の割合が高いことが認められました。解剖の実施率をみると自殺の解剖が少ないことは今後議論の対象になるでしょう。また、不慮の事故、不詳の死についても、再発防止の観点からみて高い数字とは言えませんでした。しかし、死亡診断書等の記載についてその基準が明確に示されれば再発防止に関する有用な情報が得られることも示唆されました。乳幼児突然死症候群については前述のとおり、解剖せずに診断している事案が多く認められました。
 

本調査の意義
 現在、特に子どもの死の検証(CDR)の必要性が唱えられています。子どもの死の予防にあたっては、その前提として精度の高いデータが不可欠であり、わが国の死亡データの大部分は、死亡証明書(死亡診断書または死体検案書)に記載された事項に基づいて作成される死因統計に含まれています。したがって、今回の調査はCDRを実施するうえで価値の大きいものと言えるでしょう。
 わが国では、こうした統計の集積、公開にあたり厳しい制限がかけられていますが、今回、千葉県並びに千葉県死因究明等推進会議の計らいで、調査ができたことは意義があると考えております。さらに、事故や自殺の再発防止に向けて具体的な提案が可能になるといった成果も挙げられます。
 一方、問題点も指摘できます。死亡診断書等に記載される情報量の少なさや、死亡診断書等の記載方法等です。
 今後、この経験を踏まえ、千葉県のCDRに向け、情報収集、管理、活用の在り方等について、議論がより深化し、実効性のあるCDRが実現することを期待しています。